58.田舎




 バスが1日に5本しか来ない親戚の家に行くのが、私は大好きだ。


 周りを見渡すと山と田んぼと畑という緑しかないのも、深呼吸すると清々しい気持ちになるのもたまには良い。

 さらに親戚の家にいる千鶴ちゃんは、私に懐いていてとても可愛い。


 だから今年も、家を前にしてテンションが上がっていた。



「瑠璃は本当にここに来るのが好きね。千鶴ちゃんも楽しみにしているって言ってたわよ。」


 隣りに立つお母さんが嬉しそうに笑う。

 きっと3歳上のお姉ちゃんが少し前からここに来るのを嫌がり始めたから、私がこんな風で良かったと思っているんだろう。


 私も本心からへらりと笑った。


「私も楽しみ。千鶴ちゃん、どのぐらい大きくなったかな。」


 この前は腰ぐらいの大きさしかなかったが、ほぼ1年という月日が経っているので随分成長したはずだ。

 私より大きくなっていなければ良いけど。

 年齢が下の人に身長を抜かされるのは、心に打撃を受けるから避けたい。


 その可能性もあるから、少し緊張しながら玄関を開けた。



「こんにちはー。」


 大き目な声を出せば、遠くからバタバタという音と共に千鶴ちゃんが勢いよくこちらに走ってくる。


「瑠璃ねーちゃーんっ‼」


「うわっ!千鶴ちゃん久しぶり。」


 腰辺りに打撃を受けながら、私は彼女の体を抱きしめた。

 少し大きくなったが、まだ抜かされていない。

 その事にほっとする。


「瑠璃ねーちゃん、何時までいるの?いっぱい遊ぼ遊ぼ‼」


「うんうん分かった分かった。じゃあ出かけようか。お母さん、それで良い?」


「良いわよ。でも夕飯前には帰ってきなさいね。」


 瑠璃ちゃんは興奮気味に私を引っ張る。苦笑しながらお母さんを見れば、大丈夫だと手を振った。


 そして私達は走って、いつも行く川に向かう。

 全く変わらない景色の中、はいていた靴下を脱いで中へと入った。



 しばらく水を掛け合ったり、泳いでいる魚を捕まえようとしたりして遊んだ後、大きな岩の上に並んで休憩する。



「久しぶりにこんなに遊んだわ。明日は筋肉痛になりそう。千鶴ちゃんは大丈夫?」


「大丈夫!まだまだ遊べるよ!」


「あはは。若いっていいね。」



 私は疲れから寝そべった。

 千鶴ちゃんも、隣りで同じように横になった気配がする。


 しばらく無言で、空を流れる雲を眺めた。

 今日はやけに流れるスピードが速く見える。



「千鶴ちゃん。今年もまだ璃子姉ちゃんは駄目なの?」


 ふと、私は気になって千鶴ちゃんの方に顔を向けた。

 彼女も私を見ていて、ニシシと笑う。



「駄目。璃子姉ちゃんは、たぶんずっと駄目。」


「そっか。まあ仕方ないか。あんな事しでかしたらね。殺されていないだけ、まだマシか。」



 答えは分かっていたので、私はそれ以上は聞こうとしない。



「今年は何人ぐらいが駄目になるかね。もう決まってる?それとも、これから決まるの?知り合いがいたらやだな。」


「今年は1人だって。この前来た人で、すっごい態度悪かったから。私はいなくなってくれるの嬉しい。」


「そっかあ。しょうがないね。」



 私はまた空を見上げた。


 お母さんは知らない。

 何でお姉ちゃんが、ここに来るのを嫌がるのか。

 言う気もない。



 郷に入れば郷に従え。

 それを分からなかった人には、それ相応の事が起こるのだ。



「帰ろうか。そろそろ時間だし。」


「うん!」



 私達は手をつないで帰る。

 たぶん来年も、2人でここに来ることになるだろう。





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