59.遺影




 死んだ父の遺影は、時々変顔をする。


 家族はみんな変化に気づき、そして笑ってしまう。



「いたずら好きのお父さんらしいわ。死んでもみんなを笑わせようとしているのね。」


 母は遺影を見て、いつも優しく微笑む。

 父の生前は振り回されっぱなしだったのに、それでも好きなのだからすごいと思う。


 私もうざいと思ったりしてたけど、自慢の父だと思っているので人の事を言えないが。




 いつもはしかめっ面の父の顔が、たまに変わるのをみんな待ち遠しく思っていた。





 そうして日々を過ごしていたある日。


「あ。お父さんの顔、また変わってる。」


 学校から帰ってくると、真っ先に遺影を確認した私は嬉しくなる。

 変わっているのを見つけられた日は、何だか良い日になると勝手に思っているのだ。


 しかし今日は、いつもと少し違うのに気づいた。


「何か変顔っていうより、何か……何だろう?」


 上手く言えないけど違う。

 私は誰かに分かってもらいたくて、携帯で母に写真を送った。


 しばらくして母から返信が来た。

 急いで見てみると、一文だけ。


『いたずらは止めて。』



「……何の事?」


 私は首を傾げて、さらにメールを送る。


『何が?それよりも変な感じがしないか聞きたかっただけだよ。』


 今度の返信はすぐ来た。


『何がって、お父さんの写真を何でこんな風にするの?あんたがどうやったか知らないけど、本当にやめて。』


「ええ……。どういう事よ。」


 私は困惑しながら文面を見る。


 母がどうして怒っているのか分からない。

 ただ父の写真が違うことを知らせたかっただけなのに。

 不思議に思っていると、メールに写真が添付されているのに気がついた。


 私はファイルを開く。


「ひっ!」


 そして携帯を落としてしまった。


 携帯の画面が上になって床に転がったので、それは私の視界に入ってしまう。



「何よ……これ。」



 震える手で私は携帯を拾い上げる。

 よくよく見て見ても、やはり間違いない。


「何でこんな事になってるの?」




 画面には苦悶の表情を浮かべた父の姿がいた。


 写真を撮った時には絶対にこんな顔をしていなかったし、加工も何もしていない。

 それなのに何故?


 何だか気味が悪くて、私は父の遺影の元へと向かう。

 嫌だったが、確かめなくては気が済まない。




 どうなっているのか、緊張しながら遺影を見た。





 父の顔はいつものしかめっ面だった。

 その事にほっとしたけど、すぐに違う意味で怖くなる。



 さっきの父の顔は、どうしてあんなにも苦しそうだったのか。

 私は携帯を見た。

 写真の父の顔は、やはり苦悶の表情を浮かべていて。






 今まで変顔をしていると思っていたけど、本当はもしかしたら……。

 そこまで考えて寒気がして、私は携帯の写真を削除した。





 それから遺影を見る事が出来なくなった。

 次に顔が変わっていた時、もしもその顔が少しでも苦しんでいたら。


 きっと耐えきれなくなってしまう。






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