48.贈り物




「はい。プレゼント。」


「ありがとう。うわ重い。」


 今日は親友の未来の誕生日。

 彼女の家で開かれた盛大なパーティに招かれた私は、プレゼントを渡した。

 両手いっぱいに抱えるほどの箱を渡すと、少しふらつきながら未来は受け取る。


「未来の為に選んだんだ。中身は開けてからのお楽しみね。」


「今は開けられないからって意地悪ね。すっごい気になる。」


 未来はその可愛らしい顔を膨らませて、プレゼント置き場に置いた。

 そこにはすでに大小さまざまなプレゼントがある。


「今年もたくさんあるわね。さすがご令嬢は違うわ。」


「もうっ。からかわないで!」


 その一つ一つが高そうで、私は呆れた。

 年々プレゼントの量も値段も、きっと上がっているはずだ。


 金銭感覚の違いというものを見せつけられている気がする。



「それで?今日は誕生日のお祝いだけじゃないんでしょ。」


「えへへ。そうなの。今日は道宏君のお披露目なんだ。」


 未来は他の人達に挨拶するために、私から離れた。

 1人になった私はたくさん並べられている料理から、高そうなものを選んで皿にとった。

 一口食べてみると、さすが良い食材を使ってあるだけあってとても美味しい。


 普段だったらなかなか食べられないものなので、お腹いっぱいになるまで食べよう。

 そう決意しながら口に詰め込む。


「美智佳ちゃん、食べ過ぎだよ。そんなに食べたら、この後出てくるケーキ食べられなくなっちゃうよ。」


 挨拶が終わったのか、未来がいつの間にか隣りに来た。

 私は口の中がいっぱいいっぱいなので、何も言わず頷く。


「もう。知らないよ!いつもそうだよね。色気より食い気。恋人だって最近、いないんじゃないの?」


「そんな事ないよ。」


 ようやく飲み込むと、未来に反論した。

 それに彼女はとても驚く。


「嘘!?いるの?そんな話全然してくれないじゃない!」


「まあこの前別れたから。」


 そっけなく話すと、また頬を膨らませてこっちを見た。

 いつも思うのだが、いい年して恥ずかしくないのだろうか。


「美智佳ちゃん。それじゃ駄目だよ。何があったのか知らないけど、男の人と知り合う機会なんて少ないんだから。良いなって思ったら捕まえとかなきゃ。」


 昔から女に嫌われる様な行動をする未来を私は嫌いじゃない。

 それはそれでいっそ清々しいと思う。


「そいつ。違う女と婚約したのよ。しかも私の知っている人と。」


「えっ。何それ最低。」


 あらかた美味しそうなものは食べ終えたので、口直しにシャンパンを飲む。口当たりがよくて、これもとても美味しい。


「そうね。だからやっちゃった。」


「え?何を?」


 美味しいからといって少し飲み過ぎたか。

 頭がくらくらしている。それでも私は未来との話を続けた。


「そうだ、プレゼントの中身教えてあげようか?」


「ど、どうしたの?急に。変だよ。美智佳ちゃん。」


 彼女はどんどん不安そうな顔をする。

 その顔がとても愉快で、私は笑いがこぼれてしまう。


「ふふ。道宏君と昨日から連絡取れないでしょ?」


「え……。」


「プレゼント用意するの苦労したのよ。箱に入る大きさにするのって手間がかかるわね。運ぶのも大変だったし。」


「嘘……。」


 未来の顔色は青を通り越して、真っ白になっている。

 私は笑うのを止められない。


 そうしていると、とうとう下を向いてしまった。


「ねえ。知ってた?私も彼と付き合ってたのよ。未来よりもずっと前に。それなのにあいつ、金に目がくらんで。だから悪いのよ。」


 さらに追い打ちをかけるように、私は畳みかける。

 未来の返事は無い。



















「あはは!美智佳ちゃん面白い!!……でも嘘でしょ?」


 しかし突然顔を上げると、私よりも大きな声で笑いだした。


「なっ。嘘じゃないわよ。」


 それに驚いた私は、少し声が裏返ってしまう。


 しまった。

 これじゃあ認めたと同じだ。


 未来はひとしきり笑うと、涙ぐんだ目元を手で拭う。


「知ってたよ。美智佳ちゃんと道宏君が付き合っていた事。」


 今度は私が何も言えなくなる。

 未来が知っているとは思わなかった。


「でも美智佳ちゃんは殺してない。そうでしょ。あの箱の中身だって、道宏君じゃない。彼と婚約した私へ当てつけをしようとしていたんでしょ?」


 まさか全てばれているとは。

 私は自分の作戦が上手くいかなかったのを、確信した。



 未来の言う通り、今日は彼を奪った彼女に復讐をしようとしていた。

 昨日から連絡が取れない事もちょうどいいと思って、作戦を立てたのだが失敗してしまった。


 私はため息をつく。


「……その通り。全部嘘よ。よく分かったわね。」


「えへへ。」


 未来はいつもの様に笑った。

 そこまで私のした事を怒っていないのかもしれない。


 余裕のある人は、寛大なもんだ。



「だって道宏君は昨日から、今日の為に私が準備したんだから。分かるよっ。美智佳ちゃんも楽しみにしててね。道宏君のお披露目。」


「はいはい。」


「えへへ。」


 その笑顔に少し寒気を感じたが、気のせいだと思って私は流す。

 それでもずっと未来は、ただただ笑っていた。





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