36.リセット
私には人には無い、素晴らしい力を持っている。
『リセット』この言葉を使えば、好きな時好きな場所に戻れるのだ。
この力に目覚めたのは高校生の時。
きっかけは本当にささいな事だった。
その時、私には付き合っている人がいた。
2歳上のとても良い人で、非の打ち所が全く無かった。
しかしまだ若かった私は、彼が完璧すぎてつまらなく見えた。
そう思っても別れる理由が見つからず、どうしようかと思っていた。
そんな気持ちがたまって、ある時ふとベッドの上で呟いてしまう。
「あーあ。彼と付き合う前にリセットしたい。……なーんて無理か。」
無意識に呟いていた言葉に苦笑して、私は寝た。
そして次の日、目が覚めると時が遡っていた。
初めは、置かれている状況が理解できなかった。
何故、時が戻っているのか。
訳が分からなかったのだが、何回か同じことを体験する内に私は気が付いた。
『リセット』
その言葉を言った時、時を遡る事が出来ると。
気が付いてからの私は、それを有効活用するようになった。
最初の彼氏とはもちろん別れた。
あとは、自分の思うがままにテストや趣味を満喫していった。
私が気を付けていたことはただ一つ。
それは危険な事はせず、危険な場所には行かない事。
こういった力を持っていると、大体危険な事をしてリセットが上手く出来ず死んでしまう。
そんな事にならない為に、細心の注意を払っていた。
しかしそうやって気を付けていても、どうしようもない事があった。
「もう何で!?何であの人も駄目だったの!?」
私は周りに誰もいないのをいい事に、思い切り部屋で叫んだ。
そうしないと何か物にあたってしまいそうだった。
どうしてここまで取り乱しているかというと、付き合っている男が元犯罪者だということがさっき分かったからだ。
私には何故か、男運というものが全く無かった。
付き合った彼氏が、いわゆる事故物件だと分かるのは、これで10回をこえる。
ストーカー
妻子持ち
特殊性癖
メンヘラ
DV
種類をあげたらキリが無いぐらい、多種多様な男としか恋人にならない。
『リセット』の力が無かったら、恐らくすでに死んでいる。
それぐらいの事を今までされそうになってきた。
人には無い力を持っているからこそ、こんな呪いにかかっているのか。
「それでも今回の彼こそは違うと思ったのになあ。」
私はベッドに飛び込む。
軋んだ音を立てて揺れるベッドの上で、いつものように慣れた言葉を呟いた。
「彼と出会う前にリセット。」
次こそは良い人に出会えればいい、私はそう願うながら目を閉じた。
「本当に君は、俺を焦らすのが上手いよね。」
彼女の部屋に仕掛けた監視カメラを見つめながら、俺は一人呟いた。
「まったく、さっさと俺を選んでくれればいいのに。そうしたら、もうリセットすることも無くなるよ。」
画面の向こうの愛しい彼女に話しかけるが、声は届かない。
それを分かってはいるが、話しかけるのをやめない。
「俺以上に良い男なんて、絶対に君の前に現れないんだから。はやく俺の事を思い出して、選んでほしいな。」
彼女の寝顔に何度も指を這わせながら、俺は恍惚の表情を浮かべて、いつもの言葉を言った。
「リセット。」
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