23.車



 長時間の運転は結構疲れるものだな。


「車の怪談は結構あるよね。」


「……そうですね。」


 気分転換をしようと、静かな車内で私は隣りにいる少女に話しかけた。

 彼女は目を閉じていたので、寝ているのかと思ったら答えが返ってくる。


「怖いと思わないかな。運転している時って、どうしようも出来ないし。相手が外にいても中にいても、やられるのを待つしかないからね。」


「確かにおっしゃる通りですが。やられる前にどうにか出来る時もありますよ。」


 少女は窓の外の、移り行く景色を眺め始めた。

 私は運転しながらその様子を横目で確認すると、話を続ける。


「本当に?例えばこうやって走っている時に、後ろからものすごいスピードで何かが追いかけてきたらどうするの?」


 少し意地悪な質問をしてみた。

 困らせて少女の無表情が変わるのを見たいと思ったからだ。


「もし知っている道だった場合はスピードを上げてみましょう。そいつがどこまで追いかけてくるか、確かめるのもいいかもしれません。知らない道だとしたら、スピードを緩めるのも一つの手かもしれません。そうなった時に相手がどう出るのか。やりようはあります。」


 私の作戦は上手くいかず、彼女は淡々と話す。

 冷静になかなか面白い事を言う子だ。

 運転に集中しつつも、私は面白がって話を続けた。


「良いね。相手の出方を見るっているわけか。まあ、一か八かの賭けではあるけど、怯えて事故を起こすだけよりは何とかなる可能性は高いかもね。」


 褒めても表情を変えない少女に、どうしたら変えてくれるのか考えると楽しくなってくる。


「じゃあ、よくある足を掴まれる話はどう?」


「それは話を聞いた時から思ってた事なんですけど。相手が物理的にこちらに接触できているんだから、掴まれた手を外したり、攻撃する事は可能じゃないですか。」


 なかなか良い考えをするな。

 私は感心してしまった。そういった対処法もあるにはある。

 年の割には冷静な判断が出来る。


 緑が増えて流れる景色が変わりばえしなくなってきたが、そのまま車を進める。少女は景色を物珍しそうに眺めていた。


「物理で対応するのは良いかもね。じゃあ中古で買った車が、前に人を轢いていて呪われているパターンは?」


「それは、一度お祓いしてもらうとか。でも、まず相場より安く買った車なんですから、何かあると疑うべきなんですよ。マンションだって事故物件は安くされるもの、それが車でも当てはまるとすぐに考えなくては。」


 少女は会話が面倒くさくなってきたのか、返事が雑になってきた。

 きっと彼女も長時間の車の移動に、疲労を感じ始めたのだろう。

 私も疲れているが、目的地まではまだまだあるので眠気覚ましのためにも話を続ける。


「お祓いは効くのかどうか不安だけどね。でもまず疑うのも大事だね。……えーっと、あとは……。」


 私は他の車の怪談を思い出す。

 たくさんあるとは言ったが、いざ思い出そうとすると出てこなくなるものだな。


 私が唸る。

 話題が無ければ終わってしまう。


「……あの。」


「なんだい?」


 何か無いか。いっそ車じゃなくてもいいかもしれない。

 私が考えていると、少女が恐る恐るといった様子で話しかけてきた。


「あの、この車……どこに向かっているんですか。」


「ああ。」


 そういえば彼女には言っていなかったかもしれない。

 いや、違う。言う暇が無かったんだ。


 私は今までの事を思い出し、1人納得していた。

 少女は不安になったのか、さらに聞いてくる。




























「そ、それにあなた一体誰ですか?運転していたお父さんは?どこにいるんですか?お、おろしてください。」


 道は障害物の無い安全そうなものになったので、私は少女に顔を向ける。

 私と目が合った彼女は、体を震わせ涙目になっていた。


「お願いします。おろしてっ。」



「……どうにかしてごらんよ。やられる前に出来る事はあるんだろう?」


 私は少女に優しく微笑んだ。



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