21.お土産



 僕の友人の中で、お土産のセンスがおかしいやつが1人いる。


「よっ!今回も楽しみにしていただろ。やるやる。」


「何、これ。」


 久々に会ったと思ったら、渡されたそれに僕は顔をしかめる。

 何だか気味の悪いお面だ。

 体の半分ぐらい大きいし、その分重い。


 お土産にしても、こんなのはどこに売っているんだろう。

 僕は呆れた顔をしてしまう。


「部族のお面ってやつらしい。壁に掛けておくと良い事あるってよ。」


 これを渡してきた中田はにやけている。

 今までも思ってきたが、変なものを買ってきているのはわざとなのか。

 本気だとしたら、それはそれでおかしい。


「で?俺もこれを壁に掛けなきゃいけないの?」


「うん。掛けて掛けて!」


 やっぱり本気で良いと思っているのか。

 無邪気な笑顔に、文句が引っ込んでしまう。


「それにしても、こういうのって高いんじゃない?毎度毎度、君の財布が心配だよ。」


「気にすんなって!俺が好きで買ってきてるだけだから!!」


 しかし数ヶ月に一回、センスは悪いが値がはりそうなものを貰うのは少し心苦しくなってきた。

 このお面だって最低でも数千円、下手をすると数万円はするかもしれない。


 欲しいものではないので、貰わなくなっても別に困らないのだが。


「俺の自己満足だから遠慮なくもらってくれ。な!」


 そう思っても、いつもなんだかんだ押し切られてしまう。






「それでこの部屋どんどん禍々しくなっていくの?」


「そう。」


 親友の鈴木が僕の部屋を、楽しそうに見回す。

 僕はげんなりとその様子を見て、ため息をついた。


 あのお面も、結局壁の一部分を占領している。知らない人が見れば、そういう趣味の人だと思われそうだ。


「でもなんか気味悪いよな。呪いかかっているんじゃないの?」


「う。」


 お面、水晶、人形、タペストリー。

 確かにその全てが、禍々しいオーラを放っている気がする。


「何か変な事とか起こってない?」


「うー。まあ確かに、最近金縛りにあうようになったけど……。」


 ここ数日、毎日起こっていて僕は悩まされている。

 それを言えば大げさに鈴木は驚いた。


「それ絶対呪われてるよ!お前、そいつに恨まれているんじゃないの。」


「でも金縛りって、疲れてたりする時にもなるって言わない?きっと関係ないって。」


 どうせ鈴木が冗談で言っているのだろうと、僕が笑えば真剣な顔をされる。


「いや、まじで。本当にやばいよ。あのさ。俺の知り合いにそういうのに詳しい人がいて、これ効くらしいからやるよ。壁に貼っといて。」


「あ、ありがとう。」


 やけに勢いづけて渡されたそれは、1枚の御札だった。

 何が何やら分からない文字と模様が書かれていて、本当に効きそうだ。


 早速、僕はお面の隣りにそれを貼る。


「これで良いかな。」


「うん、まあたぶん。何でまだお面を外さないのか分からないけど。」


 最初はお面を外そうと思っていたが、それは中田に悪いだろう。

 せっかく買ってくれたのだから、もう少しだけ飾って、それでも金縛りが起こったら外せばいい。


 僕は楽観的に考えた。




 それが間違いだったと、僕はすぐに後悔する事となる。



 体調が優れない。

 それはもう人生で経験した事が無いぐらい、気分が悪かった。


 眠れない、食欲が無い、頭がぼーっとする。

 会社でも厳しい上司に心配されるぐらい、僕の様子はおかしくなっていた。



 このままでは駄目だ。

 ぼんやりとした頭でもそれだけは分かって、僕は意識が何度も途切れそうになりながらもある場所に連絡を入れた。





「こんにちは。あなたが依頼者ですか。 」


「はい。宜しくお願いします。」


 数日後、僕は部屋に人を招き入れていた。

 その人物はテレビで有名な霊能力者だ。


 年齢は60代で、今まで色々なことを解決してきた凄腕らしい。

 本当だったらこんなにも早く来てもらえないらしいのだが、電話をしてすぐに除霊の予定を組んでくれた。


 きっと、それ程までに僕の状態は危ないのだ。


「どうぞ、中へ。」


 僕はふらふらな体で、彼女を部屋へ案内する。

 少し顔を顰めて、中へ入った霊能力者は辺りを見回して、すぐにある一点を見つめた。



「やはり……それが原因ですか?」


 僕はその後ろで、自らの予想が当たったのを確信する。

 彼女の視線の先には、鈴木からもらった御札があった。



 あれを貼ってからこんなに体調がおかしくなったのだから、当たり前の結論だ。


 霊能力者は頷き、その御札を慎重に剥がすと紙に包んで懐に入れる。

 あまりにも除霊は呆気ないが、そういうものなのだろう。


「はい。これがあなたの体調をおかしくした、一番の原因です。電話で友人からもらっていたと言っていましたね。その人とは距離を置いた方がよろしいかと思います。」


「はい、そのつもりです。」


 鈴木が何を思っていたのかは分からないが、もう顔も見たくない。

 僕はそれほどまでに憔悴しきっていた。



「すみません。ありがとうございました。本当に助かりました。」


 御札が取られてから、随分と気分が楽になってきた。

 僕は相談して本当に良かったと安堵する。


「いえ。あなたが早めに連絡して良かったです。もし遅かったら、もしかしたら……。」


 彼女はそこで口をつぐんでしまったが、あとに続く言葉は想像できる。

 きっと遅かったら、僕は死んでいたのかもしれない。


「本当にありがとうございます。いくら感謝してもしきれません。ありがとうございます。」


 僕は何度も何度も頭を下げた。

 霊能力者は、そんな僕の肩に慰めるかのように手を置く。
























「あと注意したい事が。この部屋にあるお面やその他諸々、一つ一つはそうでも無いですが、これだけ集めてしまったら……あなた、緩やかに自殺しようとしているのと一緒ですよ。今すぐ捨てなさい。」






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