閉ざされた村に残る雛人形

 ある村に、美香子という少女が住んでいた。母親が3年前に亡くなった後、祖母と2人暮らしをしていた。美香子は母親から受け継いだ雛人形を大切にしていた。それは美香子にとっての宝物だった。

 村に100年以上前から伝わる雛人形で、美香子の一族が管理継承していた。雛人形は伝統的な作法で飾りつけられ、4月3日までに必ず片付けなければならない。


 4月3日の朝に、美香子は祖母に雛人形を早く片付けるように言われていたが手をつけられずにいた。母親の死後、雛人形に対する愛着が強くなっていたのだ。


 4月3日の昼を過ぎて、祖母は体調がすぐれないとのことで寝床で休んでいた。祖母は美香子にくれぐれも雛人形を片付けるように言いつけた。

 美香子は雛人形を片付けないことが悪いことだと思いながらも、夜通し雛壇の前で過ごし、ついに眠りに落ちてしまった。


 美香子は恐ろしい悪夢を見た。雛人形が生きているかのように動き出し、次々に美香子の体の中へと入ってくるのだ。目覚めた美香子は雛人形に体を乗っ取られたのではないかと思ったが、雛人形は整然と飾られたままだった。


 どこか嫌な予感がして、美香子は祖母の寝床へ向かった。祖母はすでに亡くなっていた。時刻は午前4時4分だった。

 美香子は自分が取り憑かれているのではないかと不安になり、心身ともに不調をきたすようになった。


 村人たちは、美香子が雛人形に取り憑かれているのではないかと噂した。そして、村人たちは1人また1人と姿を消していった。それと同時に、雛壇に飾られていた雛人形も1体ずつ箱に仕舞われていった。


 村は次第に人が減り、最終的には廃村となった。しかし、今でもその地には、雛人形が飾られた家が存在しているという。

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