笑う王女と笑わせた男
とある王国の話。
小さい頃から笑ったことの無い王女。病気がちで年中、床に臥せっていた。
「どうだ? 王女も良い年頃になっておる。この国の末永い繁栄のために他国との縁談も考えなきゃいかん」
王女を診ていた医者に王様が容態を聞く。
「免疫力がだいぶ落ちています。笑わないというのは健康に大変悪い。このままでは長くは生きられないでしょう……それにこんな仏頂面では良い縁談は──」
「おい! この子は笑いさえすればなんとも可愛いらしい娘なのじゃ! まあ、母親を亡くして以来、笑わなくなってしまったから分からないが……少なくとも小さい頃は……」
「とにかく、王女様が毎日のように笑える生活を送らせてあげることです。笑いは百薬の長ゆえ──」
王様は御触れを出して、王女を笑わせられる者を探した。
次々と芸人やお笑い自慢の素人がやってきては王女を笑わせようとしたがクスリともしない。
日々、痩せ細り悪化していく王女の体調。そこにようやく現れたお笑い救世主。
「名は何と申す」
王女を笑わせることに成功した男に王様が尋ねる。
「ブラン・スパロー」と申します。
中年太りの男が答える。
ブランは専属の道化師として、それから毎日、王女を笑わせ続けた。
徐々に王女はふっくらと肉付きも良くなり、頬も赤みを帯びて健康になっていく。
それとは逆にやつれていくブラン。
ブランは王女を笑わせるために毎日ネタを考えることで相当なストレスがかかると共に、体力的にも消耗が激しかった。
そもそも、最初に王女に芸を見せた時、ブランは自分の得意ネタの漫談では笑わせることが出来なかった。
追い詰められたブランが叫びながら奇妙奇天烈に動き回ったのを見て、王女は笑ったのだった。
最初の頃は同じ動きと言葉でも笑っていた王女も耐性が付いていき、毎日新しい事をしなければ笑わなくなった。
ブランは誇張し過ぎた医者の物真似をしたり、頭の毛を全て剃ったり、とにかく身体を張って王女を笑わせた続けた。
そんなおり、王女に縁談話が持ち上がった。弱小なこの国の繁栄を約束する縁談。
健康になった王女の美貌は国外に広がり、ついに大国まで届いたのだった。
王女の薔薇が咲き誇るような笑顔は王子のハートを射止めた。端正な顔立ちの王子に王女もゾッコン。めでたく婚姻に至った。
王女が微笑み絶えない毎日を送ることになった今、ブラン・スパローの出番はない。
暇を出されたブランは溜め続けたストレスと疲労が一気に噴出し、ある時、やせたかなしい姿で発見された。
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