タートル・リコール

 亀は意外と早く泳いだ――

 浜辺で若者達にいじめられていたところを通りかかった男が助けた。その亀は礼がしたいと言って男を背に乗せ、海へ潜った。

 ――男はサングラスを掛けていたが、顔は朝ドラなどに出ているベテラン俳優に似ていた。亀に乗って海へ潜っていく際、男はボコボコにした若者達へ向かって言った。

「また亀をいじめてみろ、いつでも俺は戻ってくるからな」

 若者達は怯え、男にチャントを捧げた。

「デデンでんでんイェ! デデンでんでんイェ!」

 亀に乗った男は、親指を立てるジェスチャーをして海の中へと入っていった。若者達はその親指が見えなくなるまで「デデンでんでんイェ!」と叫び続けた――


「うーん、寝てばっかだなぁ。全然泳ごうともしないし……」

 マツモトは不可解な面持ちで水槽を眺めていた。

「タローはもっと活発だったけどなぁ」

 アパートの一室にあるその水槽の中で亀は夢から目覚めた――また、性懲りもなく亀をいじめているのか? 亀は目の前にいる人間を確認し、先程の夢と混同している。

「お、起きたか? なんか殺気を感じるような気がするけど……」

 亀は再度スリープモードになった。


 タローと名付けた亀を飼っていたマツモトは、ウルフィーという会社のペットロボット化サービスに登録していた。

「あれ? また寝たか。プログラムがおかしいんじゃないのか? ちゃんとタローの記憶が書き込まれてなかったり――」

 不意に携帯端末の着信音が部屋に鳴り響いた。テーブルの上に置いてあった端末のディスプレイに「株式会社ウルフィー」という文字が表示されているのを見て、マツモトは応答を許可した――


【リコール情報】

――製品名――

亀型ロボット

――商品名・型式――

海亀型ロボット タートレーター(T-10000)

――リコール実施理由――

中央処理装置の一部に 「陸亀型ロボット トータスレイター」 の部品が組み込まれていたため

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