新聞配達
僕は中学生になってすぐに新聞配達を始めた。
中学生から出来るバイトって言ったら新聞配達くらいだ。
母子家庭で貧乏だし小遣いなんて貰えない。
でも新聞配達をすれば周りの奴よりは自由になるお金が多くなる。
まあ、みんなが親から小遣い以外に出してもらえるような諸経費も、僕は新聞配達の給料でほとんど賄わなければならないけど。
それ以外に、給料の一部を家に入れる気なんてさらさらない。
今朝は早めに新聞を配り終わった。
帰ってひと眠りしたら、見事に一時間くらい遅刻してしまった。
教室へ入っていくと、すぐに学級委員長の坂崎が寄ってきて「新聞配達大変だね。なんかあったら僕に言ってね」とかなんとか言ってきた。
僕はみんなの前でそう言ってきた坂崎に「あぁ!?」とキレそうになった。
なんで僕が新聞配達をしていることを坂崎が知っているのか?
クラスの連中には誰にも言っていないはずなのに……。
坂崎をぶん殴りたい衝動を抑えて「なんで知ってんの?」と僕は彼に聞いた。
どうやら、朝礼で担任の白木が僕のことを「家計を助けるために、毎朝新聞配達をしていて大変な男子生徒」ということで話をしたらしい。それで遅刻をすることもあるだろうからみんなも察してくれ的なことを言ったようだ。
それを聞いて僕はまたキレそうになった。
白木に猛烈な怒りを感じた。
とりあえず手っ取り早く坂崎をぶん殴りたかった。
そんな衝動を抑えて僕は「――っざっけんな」と尻すぼみに言って自分の席に着いた。
坂崎にとってはまあ「担任からの朝礼を受けて僕の心配をする学級委員長」をみんなにアピール出来て良かっただろう。
本当に心配しているのかフリなのかはどうでも良い。僕にとっては「ただのいけ好かない野郎」という存在で終わるだろう。
とにかく僕はこの先ずっと、担任の白木を絶対に許すことはないだろうと思う。
母子家庭で大変だってのは確かだ。
ただ僕は、自分が使いたいお金を稼ぐために新聞配達をしているだけだ。
新聞配達をして家計を助けて――なんてことは思っていなかった。
仮にそう思っていたとしても、みんなの前で「僕が新聞配達をしていて大変だ」と言った白木を恨んでいただろう。
母親は昼間働いてから夜も働いて大変なのかもしれない。
けれど母親は勤め先のスナックで捕まえた男に、何かと貢いでもらったり自由にやっているんだから、僕も僕が稼いだお金を自由に使うんだ。
とにかく僕は、この先20年以上経ったとしても、担任の白木を許していることは無いだろうと確信する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます