雪の朝、新しく始まる

 夜、家に帰った私はリビングのソファに飛び乗りクッションに顔をうずめた。

 今日はとても失敗してしまった――。

 今日なんて消えて無くなれば良いのに――。

 泣きたい気持ちがいっぱいで、でも自分にとても腹が立って泣けないで――。


 私は心も身体も冷え込んで、落ち込みが苛立ちへと変わる。

「ねえ! 寒くない!? もっと暖かくしてよ!」

 キッチンのママに向かって乱暴に言った。


「外、見てごらん」

 ママは気にせず優しく言った。

「雪が降ってるもん、寒いのよ」

 カーテンを少し開けて、ママは窓の外を私に見せる。


「だったらもっと温度上げれば良いじゃん!」

 ごめんねママ……当たりたくて自分の部屋に行かなかったわけじゃないのに。


「明日は積もりそうね」

 ママは文句も言わずに暖房の温度を上げてくれた。


 湯気の立つマグカップを私のところへ運んできてママが言う。

「なんか失敗したって、今日はもう終わるんだから。明日はまた新しく始まるのよ」

 ママが作った温かくて美味しいジンジャーレモネード。

 その夜、私はぐっすり眠ることができた。



 次の日の朝、窓の外は輝く銀色の世界。

 昨日とはまるで違う世界。


 リビングで、ママと一緒に窓から外を見る。

「ほら積もったでしょ。嫌なことなんて全部もう雪に隠れちゃったわよ」


 雪で隠れてるだけなら、その雪が無くなればまた嫌なことが出てくるじゃない?「じゃあ雪が溶けちゃったら?」

 私はいたずらっぽくママに聞いた。答えなんて分かってるけど。

 ママがなんて言うかも分かってる。


「一緒に溶けて無くなるでしょ」


 ありがと、ママ。

 そう、当然のことよね。

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