出会いの思い出①【朝霧美晴】
「朝霧くん、この資料を会議室まで持っていってもらっていいかな?」
「ふぁーい」
欠伸混じりに返事をするは、朝霧美晴25歳。
部長のデスクに山積みの資料を両手でホールド。胸が邪魔だなあと思いながら、寝ぼけ眼でふらふら歩く。
「ああそうだ、朝霧くん? くれぐれも足元には気をつけ――」
「ほみゅうっ!?」
部長の気遣いも空しく、朝霧美晴は見事なヘッドスライディングを決める。
8枚セット12人分綺麗に重ねられていたコピー用紙が、満点の星空のように床へ散らばった。
「足元には気をつけなさいと、いつも言っているのに……」
「えへへー、ごめんなさい。足元見辛くって」
「……難しいジョークだなあ。これ以上何か言うと、セクハラになりそうだ」
視線だけでもセクハラになる場合があるらしいが、朝霧美晴はこれをスルー。歳の離れた上司と話すのは何かとめんどくさいのだ。
「先輩、なにやってるんですか」
そこへ現るは新入社員、霧島涼介22歳。
「またやっちゃったよー。いやあ、失敗失敗」
「笑ってないで、早く集めましょうよ。俺より給料貰ってるんだから俺より働いてください」
霧島涼介は真面目な新入社員であった。典型的な、自分にも他人にも等しく厳しいタイプである。
「ごめんごめん。よいしょ、と――」
「先輩、ストップ」
集めましょうと言った矢先に、集める動作を止めよと申す霧島涼介。
「そんな適当に集めたら順番わからなくなるでしょう。重なってるのは一続きなんだから、塊で取らないと」
「おー! きみ、頭いいねえ」
しかめ面をさらに厳しくして、無言で紙を拾い集める霧島涼介。
なんだかんだで手伝ってくれるのは、今流行りのツンデレというやつかなあ。と朝霧美晴は思った。
「見てないで、手を動かしてください」
「おっと、ごめんごめん」
言われた通り、順番を変えないようにしながら96枚をふたりで集めていく。
「それと、部長」
「お、おお。ワシかい?」
「先輩に運ばせたらこうなるってわかってるでしょう? 次からは別の人に頼んでください」
「いや、しかし、苦手を克服するのも大事なことだからなあ」
「誰でもできることをわざわざできない人に任せてどうするんですか。他にも仕事はあるんだからそっちを割り振ればいいでしょう?」
「ははは……いやあ、最近の若い子は優秀だねえ、うん」
2セット16枚を集めたところで、床の書類はちょうどなくなった。
「会議室ですよね? 俺が持っていきます」
「よし、きみに任せた!」
これ幸いと80枚の上に16枚を重ねた。霧島涼介は踵を返しさっさと歩き去っていく。
「うーん……優秀は優秀なんだけどね。ちょっと苦手だな、彼」
「うん、私もー」
朝霧美晴の生き方は、いかに怠けて給料を貰うか。これに尽きる。
しかしながら、世の中には意識高い系と呼ばれる人種がいる。のんびりのほほんと仕事をするスタイルを望まない人間もこの世には存在するのだ。
「でも、嫌いじゃないなー。私」
「……そうかい?」
トゲトゲしてはいるけれど、悪い人には見えない。いつかデレる日が来るといいなあと、朝霧美晴はのんびりのほほんと考えていた。
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