第3話 昼

 昼休み。教師への感謝とともに生徒たちの愚痴が炸裂し始める。

「もー、ほんとお腹すいたぁー」

「めっちゃ眠かったわ」

「マジあいつウケる!」

「ねぇねぇ!椅子借りるねー!」

「一緒に食べよー」

話し声と机やいすの引きずられる音が混ざって五月蝿い。

その中に自分の音はない。

私は自分の席で弁当を広げた。

「エーコ、一緒にたべよー」

「あ、うん」

ハルが椅子を引きずりながらやってきた。

「てか、エーコ。」

「ん?」

やば。弁当美味しい。

「まーた、授業中に本読んでたでしょ!」

「いや、読んでない」

「いやいや。読んでるの見たから。がっつり見たから」

「いやいやいや。読んでないって」

「いやいやいやいや。読んでたーっ!」

めんどくさ。いいじゃん、読みたかったんだし。

ばれたって、怒られるの私だから関係ないくせに

「あ、今めんどくさいって思ったでしょー!」

「うん」

「なっ。そんなハッキリ言っちゃうの...ちょっと傷ついたよ...」

ふざけているようにも見えるが、本気で傷ついたみたいだ。

ハルはすぐに顔に出る。

めんどくさいは傷つくなぁ...と顔に書いてある

「ごめん」

「えっ?あ、あぁ!うん!大丈夫だよ!全然!」

「ならいいけど」

「エーコのそういうとこ、好きだなぁ」

急に何を言い出すんだこいつは

この話で私が好かれる部分あったか?

「どういうところ」

正直に思った疑問をぶつけてみた

「えっとね。今さっきみたい、謝ってくれたじゃん?

 ああいうところだよ」

いや、どういうところだよ。謝っただけだぞ?

「もうちょっと詳しく教えてほしいんだけど」

考えるより先に聞いてしまった。

...これじゃ私がめんどくさい女みたいじゃないか

「えぇ?!詳しくかぁ...」

やっぱり。困ってるじゃないか

「んー、とね。実は、今さっきめんどくさいって言われて、

 ちょっと。傷ついたんだ」

知ってる。顔に書いてた

「でも、友達とかと話してて、こういう風に。ほんと。

 ほんのちょっとだけ。傷つくことって、いくらでもあるし、

私も何回も傷ついて、傷つけたんだろうな、って思うんだ」

「ん」

「でも、そういうのってさ。そんな、重たいものでもないし。

 謝るのもちょっと、変というか、他人行儀...?というか。」

ということは、私が謝ったのが変で、その、変なところが好きということか?

冗談か?

だが、ハルの顔はいたって真面目だ。少なくとも、私にはそう見える。

本気か...

「で!エーコは謝ったじゃん?それって、私が傷ついたって思ったからでしょ?

 そういうことに敏感で、素直に謝れる人...っていうか、謝れること?

すっごくいいことだと思うんだよね...だからだよ。好きなのは。」

世間一般から見てもそうだろうな。

「一般論しかいってないのにめちゃくちゃ上からでごめんね!」

私もそう思った。でも...

「私も良いと思う」

「え?」

「ハルのそういう真面目で素直で。相手のことばっかり考えるとこ」

「え、うん...ありがとう...」

戸惑いすぎだろ。私が馬鹿なこと言ったみたいになるじゃないか。


おずおずとハルが話しかけてくる。

「...なんか変な空気になっちゃったけど...」

確かに、大分なった

「エーコと友達になれて良かったわぁー!」

急に大声を出すな、びっくりする

「あっそ」

「えー?!さっきまでのは何だったの?!デレ?!あ、まさか。ツンデレなの?!」

「喰らわすぞ」

「えぇ?!こっわいよ!恐ろしいよ!」

そう言ったハルは、サンタさんからプレゼントをもらったみたいに

はしゃいでるように見えた。


まぁ、確かに、ハルと友達になれて、よかった気はしなくもない


言ったらまた、はしゃぐんだろうな。言わないでおこう

私は捻くれてるんだろうな。

ご飯を頬張った。美味しい。

お母さんありがとう。

「うまー!え、何これ!うっま!この唐揚げうっま!」

いや、絶対私のカツの方が美味しいと思う。ハルの唐揚げ、食べてないけど。

午後の授業。何だっけ。



昼は美しい光に溶けた。 カラスの鳴き声が聞こえる。



昼の消滅。夕の侵食。

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少女は日々を喰らう @cozumiki

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