思い出

 君を笑顔にできるのは僕だけだと思っていた。あの日、君が知らない誰かと楽しそうに電車に乗りながら、笑っているのを見るまでは。


 君は僕のことを好きだと言ってくれていたよね。あの言葉は街に舞う、あの枯葉よりも軽い言葉だったのかい。それとも、僕が君に言わせてしまった偽りの言葉だったのかい。


 僕の右手はもう君の手を握ることはない。君が掴んでくれたこの歪な右手を、君は自ら手放したのだ。この気持ちは、君には到底分かるまい。


 僕達がよく降りた街の駅で君達は降車する。まるで一人取り残されたみたいな車内で、僕はそっと君との思い出を消去した。


 二度と見たくない君の笑顔を。

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