最高の人生

 大都市のビルの屋上。そこに掲げられた妖しき広告看板。そこに書かれているのは、『最高の人生を提供します』という明朝体のキャッチコピー。誰もが目を見く場所に掲げられたその看板は、瞬く間に世間にその会社の存在を知らしめた。


『貴方に最高の人生を提供します。ベストライフカンパニー』


 日夜流れるテレビコマーシャル。人が思い描く『幸せな人生』を宣伝するその会社は、誰もが一度は目にしたことがある程に、独占的な市場を拡大していった。


 しかし、報道番組がその会社の特集を組もうと努力するも、ベストライフカンパニーを名乗る会社はテレビカメラを頑なに拒否し続け、その正体は謎に包まれたままだった。それでも、手数料や保険金、その他諸々を合計して50万程度で幸せな人生が手に入るということもあり、今の人生に嫌気がさし、幸せを掴みたいと思ってる人の利用が急増していった。


「この度は、弊社のベストライフサービスを御利用頂き、誠にありがとうございます。早速ではありますが、当サービスを利用するに当たっての注意事項を御説明します」


 超高層ビルの全てのフロアを占有する程の大企業。その42階にある窓口で契約と、利用に当たっての説明が受けられる。


「当サービスは利用者御本人様の思い描く最高の人生を提供するものです。そのため、特殊な装置を用いて御本人様の脳を調べさせて頂く必要があります。そうする事により、よりよいサービスを提供することを心掛けておりますので、その点何卒ご理解下さい」


 一通り説明を受け、銀行口座の記入や、保険の加入、そして署名にサインをし、担当の者に連れらエレベーターに乗せられる。


「これより脳を調べさせて頂きます。御安心下さい。直接脳に何かをする訳ではありません。酸素カプセルのような装置の中で数分の間横になっているだけで調査は終わります。その調査の結果を元に最高の人生を提供しますので安心して眠っていて下さい」


 目的の階に辿り着くと、そこには大量の装置が置かれており、他にも調査を受けている人がいるのか、一斉に調査ができるようになっている。


「では、この中にお入り下さい。心配することはありません。すぐに、最高の人生に辿り着けますので───」




 この会社のサービスを受け、『最高の人生を手に入れた』と、戻ってきた者は誰もいない。

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