I love you


 僕と同じ文芸部に所属するあの子の愛読書は『吾輩は猫である』。部室に来ると、あの子はいつも窓際の椅子に座って、それを読んでいる。


 僕は人生始まって以来の一大決心をした。そう、それは、あの子に告白をすると決めたのだ。もう僕の気持ちを止められる者はいない。どんな言葉で僕の気持ちを伝えるのか、既に決まっている。


 晩秋のある日、部活を終えた僕達は木枯らし吹く田んぼ道を並んで歩いた。街灯の無いこの道で君を横顔を照らすそれを横目に、僕は立ち止まりこう言った。


「月が、綺麗ですね」


 すると、彼女はこう言った。


「そう?今日曇ってない?」




 後日分かったのだが、彼女は単なる猫好きだった。

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