手助け
「こんな世界、死んだ方がましだ───」
渋谷のセンター街にあるビルの屋上に、一人の男が立っていた。安全の為に設置されたフェンスを乗り越え、男は今にもビルから飛び降りようとしていた。そのビルの下には、土曜日の昼という事もあり、大勢の人が野次馬として集まっていた。その群衆の中には男を説得する者や、指を指して笑う者。そして、他人事のように写真や動画を撮りSNSにあげる者。まるで人の死の直前を餌のように扱う者ばかりである。
「本当、糞みたいだな。こんな事だったら霞ヶ浦にしとけばよかった」
足元に群がる野次馬を罵る男。そのつま先は既に宙に浮いている。
「このまま落ちれば、上手くいけば誰か巻き添えになるかな」
自分一人で死ぬのが馬鹿らしくなったのか、他人さえも巻き込もうと考え始めた。
「おい、そこのお前。死ぬのか?」
屋上に続く扉にはバリケードが張られている。誰も入ってこれないはずの屋上に、もう一人の男が現れた。その男はジーパンにTシャツと、何ともラフな格好をしており、極めつけには、黒のキャップを被っていた。
「死ぬのか?死なないのか?」
キャップの男はフェンスの向こうの男に問い掛ける。まるで、目の前の死に興味がないような、それでいて、死のうとしている男を鬱陶しいとさえ思っているような、そんな声だった。
「な、いきなり現れて何だお前!見て分かんないのか?俺は死ぬんだよ!ここら落ちて死ぬんだよ!」
「そうか、だったら落ちればいいだろ」
本来自殺を止める場面にて、この男は自殺をほのめかす発言をしたのだ。この様な事は決して許されるものではない。しかし、キャップの男にそんな事を言われたものだから、それまで死を覚悟したしていた男は、急にフェンスを握る力が強くなった。
「どうした?死なないのか?死にたいんだろ?」
キャップのつばで影になり、男の表情は見えないが、その口元は確かに笑っている。
「そうだよ!会社でも必要とされず!女にはモテない!こんな世界はな、死んだ方ましなんだよ!!」
日頃の恨み辛みを乗せた声で男は叫ぶ。それを聞いたキャップの男は、ジーパンのポケットから何かを取り出し、男に向けた。
「なっ!何でそんな物を持っているんだ!」
ポケットから取り出したのは、リボルバー式のピストルだった。
「お前が死にたがってるからだよ」
その後、SNSにはセンター街のビルから落下した男の動画流れたという。
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