第3話 友達と恋人
「はーると!ポッキーゲームしよ?」
俺は、袋の中からラス1のポッキーを口に咥えて、春斗に見せた。
「やだ。めんどい」
相変わらず、きつい性格してるな。
喋らないってわけではないんだけど、俺が何話しかけても、うーんとか、へーとかしか言わない。ゲームの話とかだったら、まだマシなんだけど。普段の春斗は、優柔不断だし、あまり積極的ではない方だと思う。でも、スイッチが入ると別人みたいに積極的だし、からかってくる。
「はぁ」
小さなため息をつく。
まぁ、確かに俺と春斗は「恋人同士」では、ない。いろいろとやる事はやってるんだけど。
恋人同士でもないし、ポッキーゲームに乗り気じゃないのも分からなくはない。
けど、友達同士でもするじゃんか!それは、俺だけか?
いや、でも友達同士でもそのくらいやるよな…。ゲームなんだし。
「よし!」
俺は、斜め後ろの席の川村に聞いてみることにした。
「川村ってさ、友達同士でさ、ポッキーゲームしたことある?」
直球すぎたのか、川村は突然の質問にパニック状態になっていた。
「え!?あの…その…僕は…。」
「うん」
「えっと…。友達がいるかどうか…分からないんだ…。あはは…」
誤魔化しの笑い声もぎこちなく、こいつに聞いた自分が馬鹿だったと、頭を抱えた。
「ごめん…。役に立てなくて…。お詫びにと言ったらあれだけど、藤崎君に聞いてみたらどうかな?経験豊富らしいし、見た目からして、ヤリちんって感じだし。ってあれ、藤崎君がいない。トイレかな…?」
俺は耳を疑った。
「へぇ。地味で陰キャな川村も、そう言う単語話せるんだー」
川村の口から「ヤリちん」という言葉が出てくるとか、正直驚く。それより、
「何でポッキーゲームの話で、ヤリちんが出てくるわけ?」
「ごめん…。最近覚えた単語なんだ。誰でもいいから、その言葉使ってみたくて…」
やっぱ、こいつアホだな。
「そうか。好きなだけ言っとけ」
「うん!分かった!ありがとう、葉山君!」
そう言って、川村は機嫌よく教室を出ていった。あそこまで、馬鹿なやつは初めてだな。でも、いじりがいがあって面白いな。
次は何で、いじろうかなー?って今は、ポッキーゲームの事だって!
俺は、教室中を獲物探す鷹のように見渡した。教室の後ろの方で何やら盛り上がっている集団が目に入った。
あ、そうだ!瀬戸ならちゃんと答えてくれるはず!
「瀬戸」
「おう!何か用か?って聖人かよ〜」
瀬戸は、なぜかぶりっこしてくる。俺は、それを無視した。
「ポッキーゲームした事あるか?」
「ポッキーゲームか?もちろん、あるさ!」
瀬戸は、自慢そうに右手を拳にして、左の胸にドンッとおいた。
「彼女と?」
「こいつらと」
そう言って、瀬戸は周りにした男どもを指で指す。
「俺ら、毎日やってるんだぜ!」
「え、マジ?」
「俺たちの日課だ」
瀬戸の隣にいた、ゴツい体の柏木が言った。
やっぱ、友達同士でもやるよな。何で、春斗は嫌なんだろう…って、そう言えばめんどくさいって言ってたな。
「聖人は、そういうのしないのー?」
「俺か?したいんだけど、春斗がやりたがらないんだよー」
「あー。黒川は、絶対死んでもやらねぇって感じだもんなー」
「ほんと、それ」
俺も何でこんなに、ポッキーゲームをやりたいのかわかんなくなってきた。
「でも、そう言うのってカップルとかでやんなくね?」
「え?そうかな。やりそうだけど」
「やる人は、いるだろうけど、カップルはポッキーゲームどころじゃないんだよ。これからの人生とかいろいろあるじゃん?」
何故か分かんないけど、可愛い声を出す瀬戸。
「友達同士だからこそできることだし、盛り上がるじゃん?」
なるほど!
「やっぱりそうだよな!友達同士ならやるよな!」
「あぁ!やんねぇと友達じゃねぇ!は、言いすぎか」
そう言って、瀬戸は大笑いする。
「ありがとな!」
俺は、春斗の元に戻った。
「ポッキーゲームしよ!」
そして、可愛い声でいう。
「やだって言っただろ」
相変わらず、だるそうに話す。
「友達同士だろ!いいじゃん!むしろ、友達同士しか出来ない遊びなんだからさー!」
にこにこと話す俺と真逆に、春斗の眉間にはシワがよっていた。
あれ…。もしかして、怒ってる?
「春…」
名前を呼びかけたと同時に、春斗は俺の前から立ち去った。
やべぇ。何か分かんないけど、春斗の事怒らせちゃったー!?
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