朝食

@yast03

休暇

寒くて起きた。

カーテンが淡く光っている。


ちょうど7時。


昨日の酒が残っている。

食わずに飲んでばかりいた事を思い出した。

台所でジャスミンティーをグラス一杯飲み干す。


久しぶりに何もすることがない休暇だ。


窓を開けてみると、違和感のない空気と濁りのない鮮やかな青色があった。

外に出るにはいい日だ。


腹が減ったので自転車に乗った。

手袋を持って来ればよかったと後悔した。


5分も走ると繁華街に入る。日本有数の観光地であるが、今はその様子はない。

大半の建物はシャッターが降りている。


自転車を停めてぶらついていると、古風な喫茶店が暖簾を出しているのを見つけた。

よく通っている場所だったのに、華やかな時間帯では気づけなかったほど地味な店構えだ。


中に先客は見えなかった。

これ以上行っても徒労であることはわかっていたので、ここで諦めることにした。


年季の入ったインテリアに、愛想のない中年の女性店主が1人だけ。怪訝そうな顔で席に通された。


やはり自分一人だった。


静かだ。

服が擦れるたびにそれを意識させられた。


ウィンナーコーヒーなんて頼んだのはいつぶりだろう。

大きくて四角い皿に贅沢に盛られたエビピラフは冷ます必要のない温かさで、しっとりしていた。

大きなスプーンで、音を立てないように食べる。味はいい。


店主は奥で電話をしている。ご子息と思われる人の愚痴を聞いているようだ。

食生活について甲斐甲斐しく説明している。それによって自分が健康であることを繰り返し伝えている。

立派で愛情に溢れた母だった。


自分の家族を思い出した。高校を卒業する時に散り散りになった父と母。

最後に話したのはいつだろう。


食後、コーヒーを楽しみながら本を読んで、1時間もしないうちに会計を済ませた。

丁寧に「ごちそうさまでした」と言って店を出た。


「ありがとうございました」は「いらっしゃいませ」よりずっと温かかった。


望んでいた朝食にありつけたと思った。


これからこの場所はいつもどおり観光客で賑わうだろう。


帰ってもう一眠りすることにした。

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