第26話地下街での策略
俺は、地下街の店に入って行くアスカに先に行ってくれと促し、俺らの後ろをつけていたある人物と対面した。
その人物は大柄で、いかにも戦い慣れしてそうな風貌のウィリアムとオレンジ色の髪でショートカットの少女であった。年はアスカと変わらないくらいであった。
「ウィリアム、後ろをつけて来てなんだ?俺は付いてくるなと言ったが。」
「おい、まだ怒ってるのか龍真。すまん俺が悪かった、だから許してくれ。」
ウィリアムは、俺に手を合わせ頭を下げた。怒りなんてもうとっくになくなっていたから、別にそれはどうでもよかった。気になるのは隣の少女だ。
「もう怒っていない。でも、俺かあの少女に話したいことがあるから付いて来たんだろ?」
「流石、ウィルに聞いた通りの切れ者っすね!Sの魔道士は違いますわ〜!」
俺は色々喋ったと思われるウィリアムを睨みつけた。
しかし、この少女が案外ウィリアムをウィルと呼ぶくらい仲良くなっているのが意外であった。
「無駄話しをしているとアスカに怪しまれるから、話は手短にしてくれ。」
「まあ、その前に私の自己紹介をすると、私はミリナ・アルベルクっす!A級魔道士で、アスカさんの元部下っす!
まあ、自己紹介はそれくらいにして…。単刀直入に言うと今、アスカさんは反政府組織に狙われています。だから、先輩を守って欲しいっす!」
「でも、アスカはS魔道士で強さは十分あるだろ。」
俺がそう言うと、ミリナは頷いていたが、不安げな顔を浮かべた。
「アスカさんは本当に強いっす!でも、先輩の強力なアビリティの手前、戦闘中に自分の魔法を制御できずに暴走して仲間を傷つけてしまったのがトラウマで、彼女は今魔法を使えないんっす。」
「わざわざ、俺に任せなくても良いだろう。お前も十分強いだろ。生憎俺は今片腕骨折している、そんな奴に戦えと…。」
「あー、本当に聞いた通り面倒くさいっすね。私も護衛したいのは山々なんですが、私のチームも今違う案件で動いてまして、そっちを片付けないといけないっす!」
大体事情は理解できた。チンピラどもに絡まれた時のアスカの態度も理解できた。抵抗しなかったのではない、抵抗できなかったって言うのが正しい。
じゃあ、気になるのはなぜ反政府組織がアスカを狙っているかと言うことだ。アスカの力を利用する、もしくは他に利用価値があるのかそのどちらかだ。
だが、まだ気になるのことがあった。
「案件は了解したが、なぜ、ウィリアムが同行してる?」
「あー、えーとっすねー。まあ色々あったんすよ。こらからも同行してもらいたいんで、連れて行くつもりです。」
「連れて行くのは全然構わないが、そいつ大柄のくせにあまり強くないぞ。」
「そんなことわかってるすよ!いたら、良いことが少しあるんで。」
そう言って、時間がないのか、あとは頼みますといわれ、風のように立ち去っていった。
俺は面倒くさい仕事を押し付けられたことにため息をつき、落胆した。
「あー、面倒くさい…。」
俺は、アスカを待たせるのも不自然に感じさせると思い駆け足でアスカを探した。
そして、少し走った所で俺はアスカの姿を確認した。
俺がアスカのそばに駆け寄るとふてくされた顔を浮かべていた。
「あんた、何やってるのよもう。私だけはしゃいでバカみたいじゃない。」
「それは、すまなかった。まあ、バッタリ俺の友人と会ってな、立ち話をしたわけだ。」
「そうならそうとちゃんと言ってよね。まあ、龍真が来たことだし、買い物付き合ってあげるわ。」
俺は今のセリフにツッコミどころがあったが、面倒くさくなりそうなので言うのをやめた。
そして、俺とアスカは広大な地下空間を散策し始めた。
これだけ広くて、人数が少ないこの時間帯となると反政府組織とやらに格好の餌食だなと改めて感じた。
つまり、いまここにいる状況はかなりまずいと言うことだ。
「あんた、何さっきからぼーっとしてるの?」
アスカは俺の顔を覗き込むようにしてそう言った。俺は今自分が側から見たらぼーっとしているように見えるのだと今更ながら気づいた。
「そうか、いつもこんな感じだろ…。」
「まあ、いつもあまりぱっとしないもんね。目つき悪いし。」
目つき悪いのとぱっとしないのは関係ないと思うのは俺だけであろうか。しかし、女とはよく服屋でこんなにはしゃげるのだと思う。
実際俺は服なんてどうでもいい。生活必需品であるのは間違い無いのだが、あえておしゃれをしなくてもいいだろう。地味なやつでも。
まあ、こんな性格なのがモテないことにつながっているのは分かっているんだが。
アスカはあるお店を見つけるとかけるようにして走っていった。
「ここの店良いわよ!私のオススメの店。」
その店はbrownと書かれ、基本的にチャラい服が置いてあった。俺には到底似合わない服なのだが…?
そして、店員の方をチラッと見ると微笑を浮かべていた。
俺には場違いの店ということを直感した。
まあ、このまま見ないって訳にも行かないので俺は店内を見ることにした。
呑気に俺が歩いていると、急に照明が落ちた。
いきなりの出来事であったので、思考が一瞬止まった。また地下であるので前は分からない。
俺は灯を付けるため詠唱を始めた。
「光属性魔法 灯篭!」
あたりには無数の灯篭が現れ、あたりを温かい灯で照らした。
「アスカ大丈夫か?」
「大丈夫よ!どこら辺にいる?」
「入り口の前あたりだ。」
「分かったわ!」
そう言って、アスカは俺に向かって駆け寄った。
アスカの表情は強がっていながらも、目には不安な表情を、浮かべていた。
その時、地下街の奥の方からパチパチと拍手が聞こえた。その男を灯篭で照らして見ると、周りには複数の魔道士、そして男は黒髪で日本人のような顔をしていた。
「流石、S級魔道士琴吹 龍真って言ったところかな。
対応が早い。この地下空間によくそんなに灯を用意したよ。」
「なんで俺の名前知ってるんだ?俺のファンか?」
「ファン?面白い冗談だね。まあ、今君には興味はない。僕はそこのアスカ・ユースフォード、君に用がある。
でも、今はユースフォードじゃなく、エルガーだっけ?」
そう言われた瞬間アスカの顔は一瞬で終わった曇った。俺も正直名前を知られていて、おどろいている。
魔力干渉があった訳ではない。
こいつの能力という線が一番高いが、そういう訳でもなさそうに見える。
何にしても、話し方がとても鼻に付くのだが。
「で、私に何の用?」
「僕について来て貰えるかな?今なら傷一つ付けないと保証しよう。」
「あんたバカにしてるの?」
「バカにしているというか、君の惨めな面が堪らなく面白いってだけの話さ。魔法の使えない魔道士なんてただのゴミだってね。」
そう言われた、アスカはなんとも言えない表情を顔に浮かべていた。
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