第27話地下街での戦闘

「怖い怖い、そんな目で睨まれると背筋が凍っちゃうよ。君は女の子なんだから、もっと微笑まないと。」


「あんた本当にムカつくわね!」


そう言って、戦意をむき出しにしていたが、相手の男は余裕な顔であった。その顔は自分は圧倒的な力を持っていると言わんばかりであった。

この男は危ない、俺は本能的にそう感じた。


「別に君に関係ない話をしているんじゃない。僕も随分困っているんだ。そう、このレイン共和国の長ディアル・ユースフォードは力を持ちすぎた。

そう、君のお父さんの話だ。」


その言葉を聞いたアスカは黒髪の男から目を背けた。

俺の予想は外れていた。彼女の父親は居ないものだと思って居た。しかし、この国の長だと聞き驚きを隠せなかった。


「じゃあ、君はなぜその力を持っているか分かるかい?」


アスカは静かに首を横に振った。


「知らないはずだ。君のその力は授かったものではない。人為的に作られた能力を君に授けたのさ。

君の父親がね。」


アスカはその言葉を聞き、ひどく動揺して居た。


「でも、その力というのは適性が無いと死んでしまう。この国でもかなりの数の子供が死んだ。

でも、体に受け入れられることが出来れば、国は大きな力を得る。ほかの国も同様だ。

君の忌々しいと言われたその力は全ては君の父親が原因だ!人に嫌悪され、避けられ、惨めに生きていた原因は全て君の父親が原因だ。

これが、現実だ。」


「嘘でしょ…だって、そんなの有り得ない。母さんはそれを知っていたの?お父さんはなんで私を…」


アスカの顔から強気な表情は一切消え、悲しげな表情を浮かべていた。この話が全て本当だとしたら、なんとも言えぬやり切れなさが彼女を襲うであろう。

でも、この言葉に扇動されてしまってついていくことになったら、国を相手取ることになる。


それが一番面倒くさい。


「そんなの単純な話さ、君のお父さんは子供が死ぬリスクもあるが、成功すれば国で多大な力を持つことになる。ただその権力が欲しかったんだ。

その全ての原因のお父さん、この国の政府を倒そう。」


アスカは何も言えず、泣き始めた。色々思考がぐちゃぐちゃで、今の現実を受け入れられ無いのだろう。

つくづく思った、この世界もゴミだということに。


「あー、面倒くさいな。まず、一つ言うがお前の言い方かなりうざい。

人の名前だけ知っておいて名乗らないのが訳が分か分からない。お前は何だ?」


「会話に水を指すなよ。僕は今そこの彼女と話をしているんだ。」


「一方的に話しているだけだろ。」


「そうかい?僕には会話が成り立っていると思っていたんだが、君にはそう見えるんだ。

まあでも、一つ教えてあげるよ。別に僕は名乗らないし、素性も明かすつもりもない。

でも、一つ言えることは僕は君自身だ。

質問は無しだ。その事が意味することを考えておけば良い。」


俺はこいつの言っている事が理解が出来なかった。俺があの男と同一?考えても無駄なことは分かっているが、頭の中に大きな疑問が生じた。


「アスカさん、返答はどうする?」


アスカはひどく動揺し、頭を抱えて震えていた。そして、俺はその状況のアスカを見て、近寄りそっと抱きしめた。恥ずかしさが俺を襲ったが、今の状況での最善策はそれしか無かった。


「りゅう…ま?」


アスカのほおはみるみる赤くなった。そして、アスカの心音が俺の体にも伝わった。


「お前が、ひどく動揺しているのも分かるが。お前は今の自分が全て嫌いか?今生きている自分が惨めで悲しいか?お前を必死に育てたお母さんがそれを望むと思うか?」


アスカは首を横に振った。


「じゃあ、お前の選択肢はもう決まってるんだと思うが。」


「でも、私魔法使うのが本当に怖い…。人を傷つける。」


そう言って、大粒の涙を地面にこぼした。それは、飾らない本当のアスカであった。俺はアスカを抱き寄せ、耳元でそっと呟いた。


「俺がいるから安心しろ。」


アスカは涙を流しながらも、「うん」と頷き笑顔になった。

俺はその顔を見てひとまず安心した。


「君達の愛のドラマは見るに耐えない。実に不愉快だ。でも、今ので話は決まった。ここで君ら邪魔者を消すことにするよ。

琴吹龍真、君は本当に僕にとっての最高の餌だ!」


「人を食べ物扱いするのは非常に不愉快だ。でも、お前はやばそうだからな。俺も少し頑張らないとな…。」


そして、俺は右腕の包帯を解き動かした。まだ、痛さは残っているが、軽くなら動かせた。

俺は右腕を伸ばし、臨戦態勢に移った。


「アスカ。」


「お前の体に触れて良いか?」


「ひっ!あんた何する気?」


「ちょっとした魔法が打てるおまじないだ。」


「分かったわ。」


そう言って、俺はアスカの肩を掴み自分の魔力を流し込んだ。これで、俺のアビリティは発動できる。


黒髪の男は、俺たちを見下すように眺め、多数の魔道士に指示を出していた。

俺たちの地下街での戦いは今にも始まりそうな状況であった。


不意にアスカは俺の顔を見て言った。


「私はあんたが好きだよ。」


「それは、友達としてか?それとも…。」


そう言いかけた瞬間、相手の魔道士が魔法陣を展開させ、巨大な火の球をつくり出し、俺たちに向かって放った。


俺は地面に魔法陣を作り出した。そして俺は


「水属性魔法 水壁!」


現れた水壁が火球をことごとく消し去った。


「あんた、意外とやるわね!」


「それは褒めてるってことでいいのか?」


「さあ、どちらでしょう」


アスカは舌を出し、笑みを見せた。

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