第25話町案内
俺は、慌ただしい朝の出来事に非常に疲れを覚えた。今日の朝の出来事のせいなのか、アスカは俺と目を合わせようとしなかった。
意外と俺は傷ついた。実際俺は何もしてない。起きたらアスカがなぜか俺の隣で寝てだけだ。
なのになぜ俺を避けるのかが分からない…。
俺は朝食を取り終え、まだ服が乾ききってないので、他の私服に着替えた。別に魔道士としての仕事があるわけではない。私服を着ているとなぜか落ち着く。
今日は一日ゆっくりする俺はそう決めていた。
しかし、予定とはすぐ狂うものだ。簡単なことで…。
「龍真君、まだ飛行船は修理に時間がかかるそうだし、アスカが町を案内してくれるって!」
「今日、俺はゆっくり…。」
「アスカが案内してくれって!」
なぜ2度言う…。そこにはアスカの母の見えないプレッシャーがあった。行かないと殺すぞと言わんばかりに。まあ、そんなことを言う人ではないのは分かっているのだか。
「分かりました。」
「アスカー!龍真君に町を案内してあげて!」
俺は思わず、アスカから言ったものだと思っていたので、あんたが勝手に言ってたのかよとツッコミを入れたくなった。
「嘘でしょ!なんであんな奴の為に私が案内しなきゃいけないの!」
嫌なら嫌と断っても良いんだよ。俺は慣れてるからそういうの。俺はふと高校の時のことを思い出した。
俺は窓側の1番後ろの席に座っていた。そこには生憎友達と呼べるものがおらず、誰とも話さず過ごしていた。まだ、それまでは良かったのだ。
俺は知らないうちにプリントを床に落としていた。
しかも名前が書いてあるプリントを…。
そして、休み時間になり近くの女子が話しているのが耳に入った。
「琴吹龍真って誰?」
まずそこかよ。どんだけ俺は影が薄いんだ…。この時点で泣きたくなったのだが、まだそれは始まりに過ぎなかった。
「あの後ろの陰キャだよ!あの目つき悪い…。」
「誰が、渡しに行く?」
「あんた拾ったんだから、行きなさいよ!」
「でも、捨てちゃって良くない?」
捨てるのだけはやめて下さい…。俺は心の中で叫んだ。ここで俺がそのプリントを立ち上がって取りに行く勇気もない。俺は完全に詰んでいた。
そして、捨てるのはまずいという事になったので、ジャンケンが始まり、負けた女の子はメチャクチャ嫌がっていた。
そして、俺の方に歩き始め、笑顔で言った。
「落ちてたよ」
俺はこの笑顔は偽物なんだろうと心の中で思った。
何て悲しい奴だと俺は自分自身を呪った。
「ありがとう」
無表情で、俺はそう言うと彼女はあからさまに引きつった笑顔を見せその場から立ち去った。
今の状況はそれに似ていると過去の自分を、嘲笑いながら重ねていた。
「まあ、良いわ、私が案内してあげる。感謝しなさい!」
「嫌なら嫌って言っても良いんだぞ。」
「何であんたそんな悲観的なの?」
「そうか、俺はそう思わないが。お前の態度と言葉を聞いてたらそう捉えるだろ。」
「嘘!まじで?」
「本当だ。」
アスカは、俺の言った事に非常に驚いていた。じゃあ、無意識であんな態度になるのか…。
考えるほど、分からなくなる。
「私はもう行けるけど、あんたは行ける?傘の準備してね。」
「また雨降ってるのか?」
「またというかほぼ毎日雨降ってるわよ。」
レイン共和国って言うだけあるなと、改めて感じた。
そして、俺とアスカは町へ出向いた。
ふと、俺はウィリアムは何してるんだろうと感じたが、あのしつこさをまた体感するのは懲り懲りだなと思い、ウィリアムのことを考えるのをやめた。
「そう言えば、あんたの私服地味よね。私が選んであげる。」
「所持金はいくら?」
「十万エルクだが、俺は服とか無駄なものに金を使いたくわない。」
「そんなんだからモテないのよ。」
「…。」
俺はその意見に何も言い返すことは出来なかった。実際それが正論だからだ。
「じゃあ、よろしく頼むわ。」
町は雨が降りどんよりとしていたが、高層ビルのようなものが多く、経済的には発展していた。それに加えて、地下鉄のような看板もあり、地下の交通も整備されているみたいだった。
「地下商店街に行くわ。」
そう言って、アスカは小走りで近くの階段を、降りていった。思った以上に地下空間は整備されていた。
そこには沢山の商店や飲食店が立ち並び、買い物をするには十分な設備であった。
俺は、思わずこの国の生活水準の高さに驚いた。
「お前の国、すごいな。」
「そう思う?でも、こんなの仮初めの姿。本当は大半の人は貧しい暮らしを強いられてる。
以前はこの国も格差が無かったんだけど、いきなり政策が変わって、富裕層ばかりが得して、見た目は良いけど、中身はボロボロ。」
「仮初めの姿か…。」
俺はボソリとそう呟いた。俺が見てきた国闇しか抱えてないな。俺はそう感じざるを得なかった。
「まあ、そんなことよりあんたの服選ぶわよ。」
そう言って、アスカは店内に走っていった。
いつも元気だけど、あいつもあいつで意地を張って生きている。人には見えない弱さがある、そう俺は改めて感じた。
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