第24話憤怒の魔女
俺はアスカ母に言われるがままに、アスカの部屋に泊まることになったのだが…。とても気まずい。
アスカの部屋は口調とは対照的にピンク色で装飾されていて、いかにも女の子っぽい部屋であった。
俺は、床に布団をひいてそこで寝るのであるのだが…。はじめての女子の部屋という事もあり、俺の胸はバクバクであった。
これが俺のボッチ生活の弊害とも呼べるものなのか。
それとも、男子は女子の部屋に行くとこんなに緊張するものなのか。
そんなことを考えながら寝っ転がっていた。
「あ、あんたは何で私を助けたの?」
「何が理由であれ、女の子に手を出そうとしてる奴から助けない訳ないだろ。魔道士なんだし。」
「ふーん、じゃあ何でアルテミアの魔道士がこの国にいる訳?」
「まあ、厳密に言うとアルテミア魔道士では無いのだが。この国にいるのはただの偶然だ。この腕を直してもらうためミラナリアに行こうと思ったのだが、飛行船が故障して、ここにきた訳だ。」
「そんなにその腕ひどかったの?」
「まあな。お前、魔道士なら回復魔法とかで治せるか?」
「私は、生憎回復魔法は得意じゃないのよ。」
少しは期待してたが、その期待は儚く散った。そこで、また会話が途切れ気まずい雰囲気が流れた。
「俺から質問しても良いか?」
「まあ、質問によっては答えてあげても良いわよ。」
「なんで、お前はそんなに上からなんだ?」
「そんなの勝手でしょ!」
「まあ、そんなの良いんだが…。」
「お前の魔力ランクは何だ?」
俺がそう言った途端、少し顔が暗くなったのがわかった。多分、この仕草で大体の察しがついた。
これまでの会話、この世界の実情から考えると
八人の枢要罪のうち1人だと言う事。
「それは、貴方と同じだわ。でも、貴方とは少し事情が違うかも。」
「八人の枢要罪のうち1人か…?」
アスカは何も言わず、ゆっくりと頷いた。この世界では弱いものも、限りなく強いものも恐れられ差別される…。でも、どちらも、一人間として変わりはないのだが。
「憤怒の魔女よ…。Sランクの中でも忌み嫌われる大罪人なのに、何で何も表情を変えずにいられるの?」
「お前が、別に何であろうと大した問題ではない。
ただの俺と同い年くらいの同業者の女の子っていうくらいだ。」
「ば、ばっかじゃないの!だって、私がこの力を使ってあんたを襲うかもしれないんだよ!」
「そう言って、お前は襲わないだろ。」
「そうだけど…。でも!」
「うるさくしたら、客人に迷惑だぞ。」
「ほ、ほんと最悪…。」
そう言って、アスカは顔を赤らめ、布団を顔の上にかけた。非常に顔が赤く、熱でもあるかと思うくらいに…。
近くで、アスカのお母さんが盗み聞きをしていたことを俺は気づいていた。しかし、俺は何も言わなかった。俺とアスカを同じ部屋にした、そこにあの人意図があったのだから。
そして、アスカの母はにっこりした笑みを浮かべ廊下を降りていった。それは、珍しく見せる満面の笑みであった。
アスカの父の姿が見えないのは途中から大体分かった。自分の娘が大罪の魔力アビリティを、持っているから他に理由があるとしても分からない。この八の枢要罪のアビリティって一体何なのかと言う事だ。
この様子だと、このアビリティは遺伝という訳でもない。しかし、伝承だと所有者の承諾がいるはず。
考えても事実は迷宮に入っていくだけなので、俺は考えることを止め、目をつぶった。
朝の眩しい陽光で俺は目を覚ました。近くで静かな寝息が聞こえた。目をこすって見てみると、アスカは可愛らしい寝顔で俺の隣で寝ていた。
アスカはベッドの上から落ち俺の隣で寝ていたのだ。
このまま俺が起きたら、布団は剥がれ目を覚ます可能性がある。そして、殴られる。
起きずに寝ていても、自分の状況を見て、また殴られる。
どっちのルートでも殴られるのは回避できないだろ。
俺は今の現状に絶望した。アスカは布団を抱きしめ、
「龍真、むにゃむにゃ」
そう言って、嬉しそうな顔を浮かべていた。俺は咄嗟に死の呪文かと思い、身構えたが何も起こらなかった。俺はそーっと布団から出て、部屋から出ることにした。
俺がもう少しで布団から出れると思った瞬間、勢いよくドアが開いた。
そこには、アスカの母が立っていた。
「あれー、龍真君これはどういう状況?」
その言葉に目を覚ましたのか、アスカは重たそうな瞼を開き、あたりを見渡した。
そして、顔が赤くなっていった。
俺が、殴られると思ったが、殴られず俺から顔を背けた。そういう反応は本当に困るんだが…。
アスカ母に誤解を生むじゃないかよ。
「えーっと、この状況はですね…。」
「うん」
そう言ったアスカの母の目は笑っていなかった。
怖い、本当に怖い…。
「龍真、昨日の夜はありがとね、あんなの始めてだったから。」
アスカ、本当に火に油を注ぐことはやめて欲しいのだが。ちゃんと頭を整理して言いましょう。
寝起きは、危ないよ。
「今のでも、言い逃れできる?」
「本当に、何も起こってないです。」
俺はアスカの母の威圧にビクビク震えていた。俺の人生終わったかも…。
「なーんってね。怖かった?」
俺はその言葉で、とてもホッとした。冗談にしてもきついものがある。このお母さん怖い…。
「龍真君面白いねー!私気に入っちゃった!」
そして、しっかりと目を覚ましたアスカがその状況を見て、赤面した。
「何言ってるの!おかあさん!」
「冗談よ。」
俺の慌ただしい朝はこうして幕を閉じた。
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