第23話やすらぎの宿

俺は、路地裏で女の子を助けそのお礼として宿屋に泊まらせてくれることになったのだが…。


「龍真さん、どんどん食べて、娘のアスカを助けてくれて本当にありがとうね。遠慮しないで、どんどん食べて!」


「ありがとうございます。」


俺は、ガツガツくるアスカのお母さんに愛想笑いを浮かべた。





それは30分前に遡る…。


「お前の家の宿屋はどこにあるんだ?随分歩いたけど…。お前も濡れて寒いだろ?」


「寒くないわ、後少しだから我慢しなさい。」


そう言って、アスカのポニーテールが揺れた。

そして、アスカが言った通り、少し経った後アスカは指をさした。そこには看板があり、


『やすらぎの宿』


と書かれていた。俺は、気持ちが先走り小走りでそこまでかけた。


「ちょっと待ちなさーい。」


「俺もう限界だ。」


俺は、宿屋のドアノブを回した。入り口を開けて入ると、すずが鳴り中から茶髪のショートの大人が現れた。それと同時に、アスカが中に入った。


「アスカ、どうしたのびしょ濡れで。この男の人は?」


「私がチンピラに絡まれた時に助けてくれた人。」


この大人は、アスカのお母さんだと理解した。俺がアスカを助けたと聞くと目を輝かせ俺に喋りかけた。


「そうなの!こんなびしょ濡れで…。すぐにお風呂の準備するわね。アスカも手伝って!」


俺は支持されるまま、風呂場に行った。そして、俺の服は俺が風呂に入るとアスカのお母さんが持っていった。


風呂場は宿という事もあり、大きかった。しかし、シャワーはなく、桶で親をすくい体にかける感じであった。


俺は、シャンプーらしきものを手に取りいつものように頭を洗った。そのシャンプーはとても良い匂いがした。


体を洗い終わり、俺は冷えた体を温めるため大きな風呂に入った。


俺が入ると、風呂場は少し大きな波を立て、俺の体を芯から温めた。


「あー、気持ち良いー!」


俺は、目を瞑り、風呂場にもたれかかった。

にしても、とても美人な親子であった。お母さんも俺をすぐ風呂に入れたくれたし、しかしアスカは口調が強いというか、トゲトゲしてるというか。


助けたのに、なんか酷い対応であった。

体が温まった後、俺は風呂を出た。


風呂を出た瞬間、丁度風呂場のドアが開いた。そして、俺はアスカと目があった。

少しの硬直の後、アスカの体は赤く鳴り、


「何、私に見せてんだー!!」


そう言って俺は殴られた。


「うぐっ!」


俺は、宙に舞い床に頭を打った。俺の意識は一瞬飛びかけた。

何とか右腕の怪我を守ることは出来たが、頭がガンガンした。


「痛いなー。なぜ殴る?」


俺は服を着ながら話した。


「だって、だって…。」


急にアスカの顔が赤くなった。訳がわからない。

俺は困惑を隠せなかった。


「そんなのどうでも良いでしょ。」


「2人ともお風呂場で何してるの?」


アスカのお母さんがニヤつきながら、話した。

その途端またアスカの顔が赤くなった。

風邪でも引いたのか…。


「何も無いわよ!」


そう言って、アスカは食堂に戻っていった。


「アスカは素直じゃ無いんだよね。扱いづらいかもしれないけど、許してあげて。」


「はー…。」


「その様子だと、君も難癖ありそうね。」


俺はそのアスカの母さんの意味ありげな言葉の真意が掴めなかった。俺は用意してもらったパジャマを着て

食堂へと向かった。


そこには豪勢な料理が並んでいた。俺はその食事に思わずよだれが出そうになった。


「どんどん食べて良いわよ!龍真くん!」


「はい。」


俺は席に着き唐揚げ、パエリア、コーンスープのようなものなどなど、沢山のご馳走を頬張った。

その食事はほっぺがとろけるほどうまかった。


「本当に美味しいです!」


俺は、目を輝かせながら言った。


「それは良かったよ、腕によりをかけて作ったからね。アスカも一緒に作ったしね。」


「別に、あんたの為に作った訳じゃ無いけどね。お母さんの手伝いのために作っただけだからね。」


俺はアスカのセリフが少し気になった。このフレーズなんか聞いたことある気がするが…。


俺は考えることはやめ、食事を頬張った。


「あー、美味しかった。」


俺は食器を台所へ持っていき、椅子にもたれかかった。


「色々聞いて良いかしら?」


「はい。」


「どこから来たの?」


「アルテミア王国です。」


「アルテミア!遠いわね。魔力ランクってどうなの?」


「あー、魔力ランクはSです。」


「S!本当に?アスカ良かったわね。」


「良かった?」


「あー、こっちの話。気にしなくて良いわよ。」


そう言われると正直に気になってしまうのだが…。

俺はアスカと目が合うとアスカは目を逸らした。

俺のこと嫌いなのか…?


「じゃあ、魔道士なの?」


「まあ一応魔道士です。」


「だよね、じゃあ国の幹部と目指してるの?」


「いや、全くそんなことは」


「もったいないー。」


この人、ガツガツくるな…。俺はこういうタイプの人が少し苦手であった。ボッチだった俺にとっては、こんなグイグイ来られるときついものがある。


「そうそう、寝る場所なんだけど…。満室で、アスカの部屋に寝てくれない?」


「母さん、それは聞いてない!こいつを私の部屋に入れるって訳?」


「嫌なの?」


「い、嫌って訳じゃないっていうか、なんていうか…。とにかく急すぎるし」


「俺も、流石に女の子の部屋で寝るというのは…。」


「じゃあ外で寝る?」


急にSになったこのお母さん。何この質問、一つしか答えないだろ…。


「中で寝たいです。」


「そういうことだから、アスカお願いね。

心配しなくても大丈夫よ、この人は間違いを起こす人じゃないから、お母さんは人を見れば分かるから大体どんな人かって。」


俺がビビりだと言いたいんだろ、当たってるけど。

このお母さんは、かなり曲者だと感じた。

しかし、アスカも気の毒であった。急に自分の部屋に泊まらせることになって、逆の立場だったら俺も嫌だ。


「仕方ないわね。私の部屋に寝かせてあげるわよ、感謝しなさい。」


「ありがとー」


「何その、気の無い感謝は!」


「へいへい。」


そのやり取りを見て、アスカの母は微笑ましく笑っていた。

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