第22話トラブルと出会い

俺は、外をボーッと眺めながら飛行船に乗っていた。ミラナリア王国は少しばかり遠いらしい。

片道6時間というのが驚きだ。飛行船は、天候が悪くても、あまり揺れがない。


基本的には快適だ…。隣の奴が静かな限り。


「おい、龍真あれ見ろよ。めっちゃ形の変な雲だな。」


「そうだな。」


「おい、龍真あそこの島めっちゃ建物が綺麗だな。」


「そうだなー。」


「おい龍真」


「しつこいぞ、ウィリアム。何回俺に話しかければ済むんだよ。これで、おい龍真のフレーズ何回行ったんだよ。子供か!」


「そんなキレるなよ、龍真」


「お前が静かだったらキレねーよ。」


俺の旅はこの大柄な男のせいで、台無しだ。こんなんじゃ療養もできない。異世界転生っていうのは、美少女に囲まれてハーレムじゃないのか。


なぜ、俺の隣にはこんな体格の良い男がいる。今に限っては、女1人もいないじゃないか。


俺は、理想の異世界転生と自分の状況を比較し、悲しくなった。


俺がウィリアムのしつこさにイライラしていると、

通路の方からコロコロと台車の音がした。


「何か飲み物は如何ですか?」


キャビンアテンダントと言うのだろうか、その乗務員の方に目をやるとその乗務員は、一歩俺から退いた。


「お気を悪くされましたか?申し訳ございません。」


そう言って、俺の前から瞬く間にいなくなってしまった。俺は、そんな気は無かったのだが、このイライラで目つきが相当悪くなってしまったらしい。

ウィリアムは、笑いを堪えていたので、俺はウィリアムの方をにらんだ。


「お前のせいだからな。お前がしつこいせいで、飲み物も買えなかったじゃねーか。

着くまで俺に話しかけるな。」


俺がウィリアムにキレると、ウィリアムはしゅんとなり、静かになった。やっと静かになったので、俺の心は穏やかになった。


俺が船内で目を瞑っていると、外の天候はとても悪くなってきたらしく、雷や雨の音が船内に鳴り響いた。

また、暴風も吹き、船内は少し揺れた。


そして、船内にピカッと眩しい光が満ちた。その瞬間、けたたましい音が鳴り響き、雷が飛行船に直撃した。


「ただ今、飛行船に雷が直撃したため、魔力装置が一部故障し、レイン共和国に一時不時着します。申し訳ありませんが、改めてミラナリアに行く場合は、この飛行船の修理が終わり次第となりますので

、レイン共和国にて、滞在して下さい。

宿泊代は、私達が負担しますので、そこは御安心下さい。」


不幸中の幸いなのか分からないが、飛行船を運営している会社の対応は、きちんとしていて、安心もできた。

ハイジャックに、飛行船トラブルなんてついてない。

俺は、自分の運の悪さを呪った。


「酷い旅になっちまったな。」


「そうだな。第1お前がいる時点で、俺の酷い旅は始まっていたけどな。」


「そんなこと言うなよ。でも、お前って結構口悪いっていうか、冷たいよな。彼女とか出来なさそうだな。」


「うっ、そ、そんなわけねーだろ。お前もしつこくて、無神経だからまず女すら寄って来ないんじゃねーか。」


「そんなことねーぞ。」


ウィリアムは、表情を変えずにそう言った。俺は正直こいつは女関係では仲間だと思っていたが、その事実を知り俺は少し傷ついた。


「まじか?」


「もちろん。」


俺は、現実を受け入れたくなく、もう一度確認をしたが、それは無意味であった。ウィリアムに彼女がいたなんて…。


俺はそのまま目を瞑って、耳を塞いだ。

もう、飛行船のトラブルなんてどうでも良かった。ウィリアムが嘘って言ってくれればそれで良かった。


「どうしたんだ龍真?」


「お前は、今から俺の敵だ。近寄るな!」


「もしかして、龍真彼女いたことないのか?」


ウィリアムは、無神経にもそう言うと俺は苛立ちウィリアムを睨んだ。

そして、俺とウィリアムの間にはただ雷の音と雨の音だけが残った。


「ただ今、急降下中です。少し揺れますが、ご了承下さい。後五分でレイン共和国に到着いたします。」


そうアナウンスされた五分後、その飛行船は無事にレイン共和国についた。飛んだ災難であったが、誰も怪我しなかったは、機長の賢明な判断の賜物であろう。


飛行船から降りる際にミラナリア行きのチケットをもらい、俺は船内から降りた。


レイン共和国は、名前の通り町には雨が降り続いていた。傘が無い…。しかも土砂降りだ。


俺は迷った末雨の降り注ぐ町に走り出した。


「おい、龍真待てよ!」


「お前はついて来んな!」


そう言って俺はウィリアムをあしらい雨の町に消えた。雨は思った以上に激しく瞬く間に、来ていたロングコートは絞れるほどビショビショになった。


レイン共和国は、どんよりとしていて、灯りも少なく暗かった。俺は、一旦雨宿りをするため狭い路地へと入った。


その時、奥の方で女の声がした。


「や、やめて、はなして!」


「お前が俺にぶつかったんだろ。そのせいで、俺の服はこの汚れだ。どう責任を取ってくれるんだ?あ?」


「洗って返せばいいでしょ!そんなの。」


「これは、特注品なんだ。しかも、その言葉遣いはなんだ?」


「痛い目見なきゃ分かんねーか。」


「ヤっちゃいましょう兄貴。」


「そうだな。」


俺は、少女に伸びる男の手を掴んだ。

少女は、茶色の綺麗な長髪で、ポニーテールであった。暗くてよく見えなかったが、とても美人であった。


「おいおい、嫌がってんだろ。やめてあげろよ。そんなんじゃ女の子から好かれねーぞ。」


男は、俺の腕を振りほどき、微笑した。

男は、黒いハットを被り、顔には傷がありいかにも危ない奴であった。

そして、もう1人は小太りでサングラスをかけた、いかにも雑魚そうな舎弟であった。


「お前も、その目つきじゃ女の子に好かれねーぞ。」


「あ?もう一度言ってみろ!」


「だから、その目つきじゃ」


そう言った瞬間、俺は黒いハットを被った男の足元に魔法陣を、作り詠唱した。


「闇属性魔法 黒夜。」


男を黒い靄が包み込み、男は悲鳴をあげ倒れ込んだ。

この魔法は、相手にナイトメアを見せる。そのため、食らうとひとたまりもない。


「兄貴!兄貴!」


小太りの子分のような奴が俺が倒した奴を揺すっても起きなかったので、背負い


「お前!覚えてろよ!!」


そう捨て台詞を残して俺の前から消えた。


「大丈夫か?」


「べ、別に助けてなんか言ってないし!」


「は?お前、俺が助けなかったらヤバかっただろ。」


「そんな訳ないし、私も魔道士だし。全然大丈夫だったし!まあ、少しは感謝してるわ、私の手を煩わせなかったから。」


「そ、そんなことはもういいんだが、俺びしょ濡れでとても寒いんだが。」


俺は寒さに耐えられず、くしゃみをした。


「私のお母さんが宿屋営んでいるから、お礼として止めてあげるわ。」


こいつが、俺に大きく関わってくるなんて夢にも思わなかった。

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