第17話任務失敗
私は仮面をつけている兄、アルブラットを睨みつけた。
「幻術を抜け出すことが出来たか、我が忌々しい妹よ。」
私は、歯ぎしりをしながら上から目線の兄に腹を立てた。私とアルブラットの間には不穏な空気が流れた。
その原因は、私のこの憎悪の感情であろう。
私の兄、アルブラットは自らの幻術の能力を高める為、何人もの国民を自らの実験に使い、精神を崩壊させた。その罪で、帝国アルトからも指名手配されている。
その兄が、なぜここに…。
「まず、このモンスターの罠を作ったのは俺だ。後一つ言うが、この王宮はもうもぬけの殻だ。お前は無駄な努力をした。俺の妹として実に情けない。」
「人道をそれた行いをした、あなたが兄ずらをしないでもらいたい。」
「酷い妹だな〜。じゃあ俺がお前にかけた幻術の意味が分かるか?」
「私を壊す為。」
兄は突然、腹を抱えて笑い始めた。その行為に私は戸惑った。自分が間違ったことを言ったと思わない。
そして、兄は目に浮かぶ涙を拭きながら、言った。
「やっぱ、お前可愛いな。俺はただ、戦いを恐れているお前の恐怖心を取ろうとしただけだ。
ただ、この王宮に来たついでの余興にな。」
「つくづく、嫌味な奴だ。」
私はそう言って、また鋭く兄を睨んだ。しかし、今この兄が自分の敵ではないと言うことにひどく安心していた。勝ち目が無かったからだ。
罪を犯す前の兄は、真面目で優秀で、私を唯一家族として可愛がってくれた。魔法の稽古はもちろんのこと、随分たくさんのことを教わった。
だから、罪を犯した時は何かの手違いであると思っていたが、真実であった。
私は今でも、忘れない。実験で精神崩壊した人物を見る、兄のあの不気味な笑顔を…。そして、私を置いてどこかに消えた。
「まあ、なんだ俺は今裏魔道士ギルドに入っている。
要人の暗殺とか、研究資料を奪うとかな。」
「何が目的なの?」
「今はお前に関係ない。ここに来た目的は、アルテミア帝国の研究資料を集めること、後鍵を調べること。」
「鍵?」
「今、俺の相方の魔道士が調べに行ってるだろう。鍵といってもそれは人間だ。それ以上は教えられない。」
この時私は察した。この国にいる鍵となる存在、それは間違いなく龍真だった。私は悟られる事がないよう、表情を変えずに振る舞った。
「しっかし、あいつ帰ってくるの遅いな…。」
そう文句を言いながら、兄は足を小刻みに上下させていた。相変わらずせっかちと言うことは変わらなかった。
そして、私と兄の間には沈黙が続き、十分経ったであろうか、突然兄のとなりに魔法陣が現れ、そこには人影ができていた。
魔法陣からはレミスが現れた。レミスは先の戦いで傷つき、しっかりと立てていなかった。
「随分とやられたじゃねーか、レミス…。」
「妾の不手際で済まぬ、鍵は連れて来れなかった。前にいるのは誰じゃ?」
「可愛い妹だ。」
「ほうほう、お主に妹がいたとはな。しかし、8罪のメンバーとは…。」
私はこのレミスという一見幼女の魔道士の底知れぬ、強大な力に身震いした。そして、私と同種で、あるということ。
「名はなんと言う?」
「エルゼ。」
「エルゼか…。妾と同種の人間だ。これからもよしなに…。」
「妹よ、一つ忠告する。父親を信用するんじゃないぞ。」
そして、アルブラットとレミスの足元には魔法陣が現れ、瞬く間に私たちの前から消えた。
私を酷い安堵感が遅い、膝から崩れ落ちた。いきなり倒れた私を心配し、ルイは私に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「ごめんね、ルイ…。心配かけて。」
私は涙目を浮かべながら、ルイを見つめた。そして、言葉を続けた。
「私は戦いを怖がってた。私がルイを守らなきゃいけないのに、私が守られていた。ごめんね、無力な私で…。」
「そんなこと無いですよ。私はエルゼさんといて心強かったです!」
そう言って、ルイは満面の笑みを浮かべた。そして、私はルイに抱きついた。嗚咽を上げながら、私は泣きじゃくった。
ルイはそんな私を嫌がらず、ゆっくりと私の髪を撫でた。もうどっちが年上なのか分からなかった。
私は随分と泣いた後、呼吸を落ち着かせ、ゆっくりと深呼吸をした。
「ルイ、龍真を探そう!」
「はい!」
そう言って、ルイは元気よく頷いた。
今回の任務は、アルテミアの要人に逃げられ、魔龍は復活しなかったものの、その消息は不明になった。
住民の七割は魔獣と化し、この国には残りの三割の住民しかいない。アルテミアの要人はどこに逃げたのか分からないが、この国は、もう独立国として意味を成さないだろう。
今後どうなるのか分からないが、アルテミアの要人が、何かを企んでいるのは明らかだ。兄の属している組織も気になる。
私は、これまでよりも強く心を持ち、空を見上げた。
その頃1人の男は、迷っていた。非常に迷っていた。
「レイズ!」
そう言って、金を積み上げ、机の上にトランプを三枚出し、
「スリーカード!」
そう、自信満々に言ったが、前の大柄の男は不気味な笑みを浮かべ、
「ストレートだ!」
そう言うとその少年は絶望した表情を、浮かべ落胆した。
「おい、龍真これで終わりか?」
「おいやってやろうじゃねーか!」
そして、俺は金を積み上げた。
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