第14話魔力支配

レミスの作り出した魔法陣は瞬く間に増殖し、結界全域に張り巡らされた。そして、レミスは鬼の形相で、俺を睨み詠唱を始めた。


「雷属性魔法 雷」


そうレミスが言いかけたところで、俺は口を開き、


「魔力0」


と言った。するとレミスの作り出した魔法陣は皿のように次々と割れ、消滅していった。レミスは唖然とし、ただその光景を見つめていた。


そして、レミスの結界も破壊され、魔法陣も全て消滅した。それは、ほんの数秒の出来事であった。


レミスはこの状況を理解できず、立ち尽くしていた。

まあ、理解できるはずもないがな。

自分の魔力量が突然ゼロになり、魔力によって発動する魔法陣は消失。

それはあんな顔になるだろう。


「妾の魔法陣が消えただと…?なぜじゃ!」


そして、レミスはもう一度魔力を込めようとするが、魔法陣は現れない。


「お主、何をした!!」


「強いて言えば、お前の魔力量を支配し、調節しただけだ。お前は俺の魔力干渉が無くなるまで、ただの魔法の使えない人間だ。」


「そんなの嘘じゃ!ありえん、ありえんぞ!」


「あーあ、醜いぞレミス。そう俺に言われる気持ちはどうだ?お前がバカにしていた庶民よりお前は今弱い。」


レミスは俺の言葉、そして現状を理解し、地面に仰向けに倒れた。目は、果てしなく高い空を見上げ、真上にある太陽を眺めていた。


「お主にそう言わるのは腹立たしいが、妾の負けじゃ…。もう抵抗するすべもあるまい。今がチャンスじゃろ、殺すなら殺せ…。」


「幼女が何言ってる?幼女は早く家に帰って、おやつでも食ってろ。」


俺はそう吐き捨て、レミスの元を去った。

そして、レミスは


「最後まで腹立たしい男じゃ。」


そう言い、レミスは笑みを浮かべた。レミスにとってのはじめての敗北であった。しかし、その敗北は憎いものではなく、清々しさを感じさせていた。



場所は、王宮の近くに移る。

私は、心配そうな目をしているルイの背中をさすり、落ち着かせた。


「龍真のこと気になってるんでしょー、大丈夫よ。

彼なら何だかんだで、戦ってるわよ。」


私はそうルイには言っていたが、私に言い聞かせてるだけというのも分かっていた。まだ、龍真という人物を把握したわけではない。

色々と謎が多い。基本的に無気力で、やる気はないのだが、変なところでやる気を出す。


そのスイッチがまだ分からない。まあ、人間的には嫌いな方ではないのになあ。


私はそんなことを考えながら、王宮に入る方法を考えていた。王宮の周りには高い壁が阻み、登ろうとすれば魔法を使うしかない。


しかし、ルイは魔法を使えない。だから簡単に入れればそれで良い。正面門や裏門から入るのは流石に無理だ。


「あー、どうしようルイ?壁なんて登れないよね?」


「多分大丈夫です。」


「だよね…嘘!ルイ、壁登れるの?」


「はい!」


ルイはそう元気に答え、笑顔を浮かべた。私はルイの言葉を信用したが、念のため先にルイを壁に登らせるとした。


「どうやって登るんだろう?」


私はそんな疑問を口にしながら、ルイを見守った。するとルイは、深く膝を折り曲げ、かがみ壁に向かって猛烈なスピード走った。

そして、そのままジャンプし、一回転して壁の上に綺麗に降り立った。


私は華麗なルイの身のこなしを眺めていた。

そして、ルイの身体能力にただただ、驚いた。

Fランクの人間は見たことはあったのだが、実際にその身体能力を伝聞としてしか聞いてなかったので、

想像を上回るルイの身体能力は敬意に値した。


私はルイのところに行くべく、詠唱を開始した。


「風属性魔法 ライジング!」


私の足元には風が渦巻き、軽くジャンプしただけで、

かなり高さのある壁を悠々と飛び越えた。


私はそのまま王宮内へと着地した。そして、ルイは壁の頂上から飛び降り、数回回転し、綺麗に着地した。


「ルイ、行くわよ!」


そして、王宮の庭に入っていった。その時、魔力気配がしたので、私はルイを無言で静止した。

しかし、その気配は人間の魔力気配というものではなかった。


庭には、赤外線のように魔力の線が張り巡らされ、触れると何かしら起こるのは容易に想像できた。

しかし、その線が多すぎて、それを避けて行くという手段はなかった。


そして、私はそのまま魔力の線にあたりに行った。すると、庭の端から端まで結界で囲まれ、閉じ込められた。また、結界内には魔獣が現れた。


その魔獣は三本の首を生やし、それぞれの顔があった。魔獣の中で高位に位置するケロルベロスであった。そのケルベロスがこの広大な庭に30匹ほどいた。


「嘘ー、こんなにいるの?」


そう言うとその音と人間の匂いに気づき、涎を垂らしながらこちらを伺っていた。


ルイの目は青く光り、爪は伸び鋭くなった。

そして、飛び上がり1匹のケルベロスを思っいきり蹴り上げ、首を根本から吹っ飛ばした。

蹴りの威力は桁違いであった。


「魔力がない故の強さ…。」


私はそれを肌身で感じた。そして私の方にもケルベロスは近づいてきた。しかし、臆することはなかった。

私の魔力干渉でケルベロスを仲間にできる。


そして、私は魔法陣を展開させ、


「光属性魔法 ホーリー・ノヴァ!」


と言い、あたりのケルベロスを蹴散らした。しかし、そして何匹は生き絶えたが、まだ他のケルベロスは生き残っていた。


これで、私の仲間になるはずと思った矢先、1匹のケルベロスは私に向かって襲いかかってきた。


私は完璧に油断し、肩を1匹のケルベロスに噛まれた。


「うっ…。肩が熱い。」


私の策略は完璧に失敗した。人間は理性があるものの、好意を抱いたとしても襲ってこない。

ケルベロスは理性が無く、襲ってくる。


私は肩を抑え、抑えてる手で魔法陣を発動させた。


「回復魔法 癒しの加護」


私の肩の傷はふさがったが、痛みは残った。

そして、私に回復する隙を与えず何匹ものケルベロスが飛びかかってきた。


私は魔法陣を展開しても間に合わないことを悟り、目をつぶり、やられると思った刹那、ケルベロスの顔は無残にも地に落ちた。


目を開けると、ルイは返り血を大量に体に浴び、真っ赤であった。しかし、顔は無表情であった。


あたりを見るとルイが殆ど倒していた。そして、ルイは私を見つめ、


「大丈夫ですか?」


そう言って手を差し出してきた。私はこの戦いでの自分の無力さに非常に腹が立った。

そして、ルイの手を取り、


「ありがとう」


と言って、笑顔を浮かべた。


「私がFランクに遅れをとるとは、不覚だわ。」


そう心の中で呟き、手を力強く握りしめた。

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