第13話恐怖の憂鬱
俺は、必死に痛みを堪えながら立ち上がった。そして、空で悠々と舞うレミスを睨みつけた。
「目つきが怖いぞ、殺気立っていて。」
「そうか?目つきが悪いのは元からだ。そろそろ同じ目線に立とうぜ。」
俺は空に巨大な魔法陣を作り、
「闇属性魔法 極黒の矢」
と詠唱し、空からは無数の矢が降り注いだ。あの数の矢を防御しきれるはずがない。
俺はそう思い眺めていたが、状況は違った。
レミスは何もしないどころか、魔法さえ唱えなかった。
そして、無数の矢の雨を浴びた。しかし、そこにはレミスの姿はなかった。
そして、俺は辺りを見回すと、背後にレミスは浮かんでいた。
俺は、咄嗟に距離を取り、身構えた。
「火属性魔法 陽炎 姿をくらます魔法じゃよ。」
「なんで、詠唱しないで魔法使えんだよ。」
「詠唱はしたけど、小声で言っただけじゃよ。別に大きな声を出さないと魔法は出せない訳ではないからな。」
俺は、攻撃が当たらないことにイライラしていた。
無理な戦いその上、攻撃もまともに当たらない。
レベル1のモンスターで、ボスに挑むのと大差ない。
レミスは箒に座りながら、半笑いを浮かべていた。
「そろそろじゃな。」
レミスはそんな小言を言っていたが、全く理解できなかった。俺は、勝機を見出すために頭を回転させたが、全然思考が働かなかった。それどころか、どんどん不快になっていく。
そして、体のだるさがどんどん増していった。
「なんだこのだるさ…。」
俺は急な自分の体調の変化に危機感を感じた。
身体を動かそうとするのがダルい。
その様子を見て、レミスはニンマリと笑っていた。
「妾のアビリティ【憂鬱】はどうじゃ?
頭も回らんし、体も怠い、戦意が喪失する…。そんな感じじゃろ。」
「別にいつも同じ感じだから、変わった感じはしねーぞ。」
「強がりはよせ。」
俺の言葉が強がりと言うことはもうバレていた。しかし、もう相手のアビリティの場合、気持ちが折れたら俺の負けだ。攻撃を食い続けたら、精神的に壊滅する。それだけは避けたい。
「水属性魔法 巨霧」
俺は、同じ魔法を使い、一瞬身体を隠した。
そして、霧の中で
「火属性魔法 陽炎」
を使い霧の中に8人の俺の姿をした陽炎を作った。そして、本体の俺はとっさに建物の中に身を隠し、息を潜めた。
「同じでは効かん。風属性魔法 風刃」
そして、霧は晴れ、俺が用意しておいた8人の陽炎が姿を見せた。
「あそこに本体はいないじゃろ。ただの子供遊びじゃな。」
しかし、俺の姿をまだ見つけられてないようだった。
俺は死角に回り、
「火属性魔法 爆炎」
と詠唱し、レミスに向けて放った。
レミスは急な攻撃であったが、気づいていたかのように、魔法を準備させていた。
「風属性魔法 風臥 」
そう言うと、魔法陣から発せられた渦を巻いた突風が爆炎を相殺した。しかし、爆炎の中央には矢を仕込んでおり、爆炎の勢いで加速した矢がレミスを貫いた。
「うっ!」
レミスは右脇腹を貫かられ、右手で抑えた。
そして、俺は一瞬弱ったレミスを見て畳み掛けた。
「風属性魔法 ダウン・ドラフト!」
そう言うと、レミスの頭上に魔法陣が現れ、下降気流が発生し、レミスを地上に落とした。
勢い良く叩きつけられたため、箒は折れ、頭を抱えていた。
「妾が、お主ごときの魔道士に傷つけられた?
ありえない!ありえない!ありえない!」
レミスは殺気立っていた。先ほどの余裕はどこかに消え、顔には余裕が全く無かった。
自分が格下にやられたのが相当ショックだったのであろう。
「優雅に飛んでていた、イカロスも傲慢故に地に堕ちる。お前もだ、レミス。お前はなあ、ただ人を見下し、道具としてしか人を考えていない。だから、傷つくことを知らない。あんたは、それだけの出来事で取り乱している。いい気味だ…。」
俺は、得意の挑発でレミスの動揺をさらに誘った。
これで、次にやってくる技も読める。
次は俺を貫いた技、雷追旋を打ってくるだろう。
もう、その手は打ってある。
レミスの方に目をやると、レミスは狂喜していた。
「妾が地に堕ち、無様な姿を晒している、琴吹龍真、お前は妾が盛大に葬ってやる。妾を怒らせたお前の失態だ。格の差を思い知れ。」
「言っておくが、もう俺の前では、お前は無力だ…。
理性が飛び、取り乱した人間が勝てるはずがない。
お前は正常な判断をしていない。
忠告だ、今からお前のプライドはズタズタになる。
それでも良いならかかって来い。」
俺はそう淡々と言い、レミスの怒りのボルテージをさらにあげた。徹底的に叩き潰すと人は立ち上がれなくなるからな。
「まだ、妾を愚弄するつもりか、妾に少し傷を与えられたところで、良い気になるなよ!
お主こそ、傲慢じゃ!」
「俺は人を見下せるほど、立派な人間でないのでな。傲慢という言葉は不釣り合いだと思うが。」
そして、レミスはこの結界のはじからはじまで、魔法陣を、張り巡らせた。
なんて魔力量だと俺は驚きを隠せなかった。
そして、俺は珍しく不敵に笑った。
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