第12話憂鬱の魔女

「ちょっと待て!」


俺は少し大きな声を上げた。いきなり、行くぞとか言われても、困る。この場所は住民もいるし、狭すぎる。やりづらい…。


レミスは俺の言葉を聞くと、止まり微笑を浮かべた。


「戦闘中に待てという奴は初めて見たぞ、面白いなお主…。」


「それは馬鹿にしてるってことで良いんだな。」


「どう取っても構わんが、急に止めて何だ?」


「ここだとどうも狭くてやりにくい。他の人もいるしな…。」


俺はこの交渉が通じるか、やや不安であった。

レミスは少し考え、


「別にいいぞ。他人を巻き込みたくないだけじゃろ。」


「どう取っても構わんが。」


「ふっ、面白い!大通りへ出よう。」


交渉が通じたみたいだよかったが、俺が得体の知れない強者と戦うという現実は変わらない。とんだ異世界転生だと俺はあの天使を呪った。


そして、俺たちは小道を抜け、大通りへ出た。レミスは、優雅に空を飛んでいた。俺もあの箒欲しい!

なんか、飛んでてずるいだろ…。


大通りは以前魔獣の死骸が転がっていたが、他の魔獣が来る気配はなかった。他の魔道士の姿は見えないが、どうなったのであろうと俺は少し気になった。


「他の敵に警戒してるようじゃが、他の敵は来ないぞ。私が、今半径1キロ圏内に結界を張った。

そこに誰かがいるもんなら、結界の外に弾き出される。」


「それは、仕事が早い。さぞ、部下にも慕われそうだな。その容姿だと、いかにも舐められそうだがな。」


「かなり口が達者じゃないか、さぞ友人もいなかったじゃろう。」


「そうだな、万年ボッチの俺、龍真だ。」


そして、俺とレミスは魔法を唱え始めた。

しかし、レミスの魔法は異常に起動が早く、詠唱も早かった。すると、目の前には壁のように魔法陣が無数に出来ていた。


俺は、自分の攻撃魔法が間に合わないことを悟り、防御魔法に切り替えた。そして、頭の中に、巨大な盾をイメージした。


レミスは魔法陣の数をどんどん増やし、


「火属性魔法 白虎の大火」


と言った。すると、炎を纏った白虎が俺に向かって、襲いかかってきた。

魔法のクオリティが高すぎる。次元が違うぞ…。


「水属性魔法 巨霧」


俺の目の前には、巨大な濃霧の盾が現れ、白虎の火はたちまち小さくなり、俺を捉えることが出来なくなった。すると、白虎は標的を失ったせいで、魔力が無くなっていき、消えていった。


そして、霧を晴らすために、すかさずレミスは詠唱を始めた。


「風属性魔法 風刃」


すると剣の斬撃のような方をした風が巨霧を切り裂いた。そして、俺の姿は露わになった。


「おいおい、魔法のレベル高すぎだろ。俺は隠れることで精一杯だ。正直勝ち目はない。」


「ここまで、やって何を言う、お主。良いことを教えてやる。魔法とはイメージだ。イメージが明確になっていた方が、強い魔法になる。」


「敵に塩を送って良いのか?」


「別に構わん。妾が負けるはずがないからな。」


「それは、強気なことで。」


しかし、良いことを聞いたと心底思った。魔法はイメージ、だから俺の想像した魔法が使えた。すなわち魔法は想像、制限はない。


ああいったが、まだ勝機は十分にある。でも、注意すべきなのが、あいつの魔力アビリティだ。

【憂鬱】というアビリティ…。得体が知れない。


俺は地面に巨大な魔法陣を、出現させた。


レミスもまた壁のように魔法陣をはりめぐらせた。

そして、その魔法陣はどんどん増殖していき、俺を囲むように張り巡っていった。


逃げようにも、魔法陣の増殖スピードが早すぎる。


「これで逃げ場所はないのうか。」


俺は、この状況なら若干の冷や汗はかいたものの。冷静になれと心を落ち着かせた。


「風属性魔法 上昇気流」


すると、地面の魔法陣から俺を上に運ぶように上昇気流が発生した。俺はその気流に乗り、上昇し、空中に上がった。なんてダサイ名前だと俺は心底、自分のネーミングセンスの無さを哀れに思った。


そして、囲んでいた魔法陣から抜け出した。

しかし、俺を追いかけるように魔法陣が俺の高さまで上昇し、また取り囲んだ。


「雷属性魔法 雷追旋」


そう詠唱すると、魔法陣から、剣状の雷が俺をめがけて発射された。


空中にいるから、壁で塞ぐことは難しい。俺は、頭を回転させ、次の手に出た。


「雷属性魔法 雷追旋 」


俺を囲むように雷の剣を配置し、同じ力で相殺しようとした。しかし、魔法陣の数が違った…。


俺は、何発か塞ぐことは出来ず、もろに攻撃を受けた。一発は右足に一発は、左腕に、一発は脇腹に。


俺は地面に転がり落ちた。

当たった部分からは血が垂れ、激しい痛みを伴った。

口から少量の血を吐き、めまいがした。


「お主、もう終わりか?つまらないのう。同じ魔法を見ただけで、扱える才能は凄まじいが、まだ一個一個魔法の威力が弱すぎる。」


俺は雷の剣を身体から抜き、ほとばしる痛みに耐えた。そして、口を開いた。


「痛いな〜、人に刃物を負けるんじゃねーよ。殺人未遂だぞ。ドチビが!」


「まだ威勢が良いな、だがその体でやれるのか?」


俺は、回復魔法を使えればいけると思い、ドラクエの回復魔法のイメージを頭に思い浮かべた。


「回復魔法 ベホイ○」


と詠唱した。これはしょうがない、頭でイメージは思いついたものの、頭で名前が思いつかなかった。だからしょうがないと俺は自分の中で、言い訳をした。後で名前を考える…。


すると、俺の傷口はみるみると塞いで行った。しかし、回復魔法で傷口は塞いだものの、痛みは残っていた。


「おい、レミス、箒の上から引きずり下ろしてやるからな!」


「戯け、そんなの夢物語じゃよ。」

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