第7話 飛行船ジャック事件

空の旅とは優雅なものであった。窓から見る外の景色は、青空が広がりとても雄大であった。ルイは窓に張り付き外の景色を物珍しそうに見ていた。

俺は魔力が少ないから奴隷という理由がとても納得いかず、それを考えていた。


飛行船は比較的ゆっくりと進み、眠たくなってきたので俺は座席につき寝ることにした。隣のエルゼを見ると物寂しそうな顔を浮かべていた。深く追及するのは趣味でないので俺はそっとするようにした。


「あなたはこの世界をどう思う?」


エルゼは突然口を開きそういった。俺は眠ろうとしていたところであり、突然のことで重たい瞼をあげた。


「まだ来たばかりで何とも言えないが、俺が来た世界とあまり変わらないだろう。」


「根拠は何?」


「根拠も何もこの世界でも人間は人間だ。どの世界でも本質的には変わらないだろ。」


「あなたはそう考えるのね・・・」


そして、エルゼは口を閉じた。俺はエルゼの言動がいつもと違うことに違和感を覚えたが、そんなことにお構いなく俺は目を閉じた。


寝ると案外快適で、心地よく眠れた。


数十分後、突然と飛行船はガタンと大きな揺れに見舞われた。船内からは悲鳴が多々聞こえた。ルイは怖がり震えていた。

そして、船内のスピーカーから声が聞こえた。


「我々は魔神教のものだ。この飛行船は乗っ取らせてもらった。そして、この飛行船は帝国アルト領に墜落させる。」


エルゼは急に眼の色を変えて立ち上がった。俺はこんな形相のエルゼの表情は初めて見たので内心驚いた。


「ルイ大丈夫だ・・・。」


とルイの背中をさすり落ち着かせた。ルイは俺の言葉を聞きたてに首を振ったが、まだ体が震えていた。無理もない俺も震えているのだから・・・。


「龍真、行くわよ!」


「どこにだ?」


「決まってるじゃない!ハイジャックって言ったら操縦席だわ。」


「人質に取られてると思うぞ。どうやって倒すんだ?」


「そんなの臨機応変によ。」


「嘘だろ・・・」


「本当よ。」


そしてエルゼは微笑み、俺の手を引っ張り操縦席へと向かった。俺は後ろ向きルイがついてきてないことを確認し、引かれるまま俺は操縦席へと向かった。


俺とエルゼは操縦席に近づくにつれ足どりを緩めこっそりとドアの隙間から中をのぞいた。

操縦者には拳銃のようなものが突き付けられ、操縦者はびくびくと震えていた。


魔神教を名乗るものは黒い装束を来た二人組であった。手にはエルザが持っていた銀色の星形の文様が入っているものをぶら下げていた。


「敵のランクはAだわ。」


魔導士として全然教わってないっていうのに相手と戦うなんてどんだけついてないんだよ。俺は自分の運の悪さを呪った。


「乗り込むわ。」


「おい、少し待て、人質がいるんだぞ。」


「なんとかなるわ。」


「あー、もうお前の勝手にしろ。」


そして俺とエルゼは立ち上がった。相手は俺たちの存在に気づくや否や何か呪文を唱え始めた。


俺はいち早く天井に魔方陣張ってあるのに気づき、とっさにエルゼに覆いかぶさるように操縦席から出た。その刹那、操縦席は大爆発を起こし、俺とエルゼは吹っ飛ばされた。


「あちち・・・。」


俺の服は少し焦げ、軽いやけどを負った。

エルゼは俺が咄嗟に庇ったのでけがはなかった。


「ごめん・・・。ありがとう。」


エルゼは少し顔を赤らめながらそう言った。俺の顔はエルゼの顔と至近距離だったのですぐに俺はエルゼから離れた。


そして操縦席の中からは黒装束の仮面をかぶった奴が一人現れた。


「忠告しておく・・・。この船内で不審な動きをしたら、直ちにこの飛行船を爆発させる。」



「嘘でしょ・・・。」


Sランクと言えどエルゼは動揺を隠しきれていなかった。俺の心臓はバクバクと鼓動が早くなっていった。


「どうすればいいんだよ・・・」


俺は絶望した。周りの人も悲鳴を上げるどころか、あきらめモードであった。


「私の魔力を相手にぶつけて命令しようかな」


「そんなことしたら、魔法を放った時点で相手は爆発させる。」


「どうすればいいの?」


「どうしようもないな」


俺は冷静にそう言い放った。無理なものは無理だ。


「俺に失望したか?」


「あなたになんて期待してないわ。」


俺はエルゼにはそういったものの違う戦略を考えていた。相手に気づかれづ、魔法を破壊する方法・・・。そんなのがあったら苦労はしない。でも、少し可能性がある方法を思いついてしまった。

自分の可能性を信じる。現実世界では思いもしなかったが、今俺には力がある。

力があるのにそれを使わないのは愚行でもある。

俺は周りの人たちの悲壮感が漂う顔を見てられなかった。


「めんどくせーが、やるか。エルゼ、相手の注意を引いてくれ。」


エルゼは少し笑顔を浮かべ俺の顔を向きうなずいた。


「あなたたちの思い通りのはさせないわ。」


「デタラメを吹聴しても無駄だ。」


俺は二人がやり取りしている間に、船内の床に手を当て目をつぶった。さっきの魔方陣が発生したときの魔力の流れた感覚を思いだした。俺は心を静め、魔力の流れをしらべた。


「見つけた!船内に五個の魔方陣が仕掛けられている・・・。ここから俺の魔力を飛行船に注ぎ込めば・・・。」


俺の手からは黒い魔力が漏れ始め飛行船を覆い始めた。そして、仕掛けれている魔方陣の魔力の流れを操作し、すべての魔方陣から流れ出る魔力量をゼロにし魔方陣を消滅させた。


これが俺の魔力アビリティ【支配】、魔力の流れを完全に支配し、調整できる。ゼロに設定すれば、消滅する。逆の場合は強大化できる。


「エルゼ!もう暴れてもいいぞ。後は知らないが・・・。」


「オッケー、聖属性魔法 ライト・アロー!」


エルゼの手元には光の弓が現れ、それを引き敵に照準を合わせた。


「そんなことをしたら、この船は壊滅する!」


「大丈夫だわ!」


そして、エルゼは光の弓矢を話した。相手は呪文を唱えていたが一向に飛行船は爆発せずパニックに陥った。


「なぜだ!なぜ爆発しない?」


そして為すすべなく、エルゼの光の矢が直撃した。矢が当たると倒れもせず、一瞬立ち尽くし、口を開いた。


「愛しのエルゼ様!私は何をしたらよろしいでしょうか・・・」


「じゃあ~、仲間を連れて、飛行船からダイブしなさい。」


「お前鬼畜だな・・・。」


俺はエルゼの怖さを改めて実感した。そして矢で撃たれた男はもう一人の男の手を無理やり引っ張りドアを開け飛行船から飛び降りた。


すぐさま俺たちはドアを閉め、ハイジャックを阻止することができた。


俺はほっとしたのか床に倒れこんだ。そして、外には帝国アルトが迫っていた。


「どうやって、魔方陣の起動を阻止したの?・」


「気まぐれだ・・・。」


と俺は適当にエルゼをあしらい目をつぶった。


「あーあ、性に合わねーことやった。」

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