決戦


 俺たち魔王軍が敵の本拠地ブルスタンに着いたのはついさっきの事だった。


 目の前には巨大な城門。その端に建てられている塔には何人もの弓兵がこちらに狙いを定めている。


 「ついにここまで来てしまったね。もう後戻りは出来ない……みんな必ず生きて勝とう!」


 「うおぉぉぉおおぉぉおッ!」


 指揮官を勤めるアスモデウスに答えるようにみんな咆哮をあげる。


 一日休んだことで体力はバッチリ、ましてや自分の故郷を取り戻せるチャンス、彼らの士気は否応なしに高まっていく。


 「ところでこの城門はどう突破するんだ?」


 「城崩しの策は色々とあるが……ここは君の好きそうな力押しでいくとしよう」


 「なるほどソイツは確かに俺の好きな方法だ」


 俺は手のひらに魔方陣を展開させると標準を城門に合わせる。


 やがて魔方陣は魔力を集中させ巨大なエネルギーの塊を作るとそれを城門目掛けて発射した。


 高密度の魔力の波動は城門に到達すると同時に激しく爆発する。


 強大なる魔力の前に人工物の存在など無意味、門はわずか一撃によって崩れ去り、瓦礫に変化する。


 「よし……このままブルスタン領地に一気に攻め込もう!」


 もはや俺たちの進行を防ぐものはいない。俺たちは一気に城内へと入ろうと試みる……が。


 崩れた城門の奥。そこから大勢の人影が迫ってくる。どうやら城の防衛軍が迎撃にきたようだった。


 おそらくこれが本陣。きっとここに転生者もいるはず……。それにおそらく人間たちの練度も数も装備も今まで戦ったどの敵より強力なものになっているだろう。


 ここが踏ん張りどころだ。何としてもこいつらに勝って生きて帰らねぇとな。


 それはみんな同じだ。一度奪われた者を奪い返す為に再び故郷の土を踏むために俺たちは刃を抜いて人間という名の化け物たちに挑みかかる。


 「弓兵はガーゴイルを殲滅させろ! 別に殺す必要はない! 羽だ大きな羽を狙え!」


 「させねぇよ!」


 ガーゴイルは空から攻撃できる貴重な戦力。少しでも落とされる可能性を減らす必要があった。


 見張り台からガーゴイルを狙う弓兵たちに光弾を放つ。光弾は塔を一つ、二つと撃ち壊し弓兵の数を減らしていく。


 見張り台の数は残り三つ。残る塔も破壊しようと光弾を撃ち込もうとするが。


 「これ以上はやらせん!」


 低い声と共に雷鳴が轟く、放った光弾は雷によって落とされその攻撃は見張り台には届かなかった。


 電気を操るスキルか……この能力を持つのは長髪の男ーークレイド以外にあり得ない。


 「待ってたぜ……アンタとはもう一度戦いたいと思ってたんだ」


 「それは俺とて同じことだ。あの時の屈辱……今度こそ晴らさせてもらおう」


 落ち着いた口調でそう言い放つとクレイドは身体中に電気の帯を纏う。


 これではスキル殺しの蛇は使えない。


 「なるほどな……スキル殺しの対策は万全ってわけかい?」


 「これならば貴様の忌々しい蛇も俺の身体には触れられまい」


 「はっ、どうだかな。スキルって奴もそれなりのエネルギーを消費するはずだ。長時間この状態を保つことは出来ないんじゃねぇの?」


 「問題ない。すぐに終わらせる」


 「言ってくれるじゃねぇか!」


 言葉と同時に相手の首を狙って刃を振るう。しかしその時には既にクレイドの姿は消えていた。


 「なにっ!?」


 「聖職者自体は気に入らんが……この指輪の効果は本物のようだな」


 気がつけばクレイドは俺の背後へと回っていた。慌ててその場から離れようとするが、それより早く背中に鈍い痛みが走る。


 俺は背中の衝撃に耐えられず吹き飛ばされる。今の動きーー見えなかった。


 一瞬それはスキルによるものかとも思ったが転生者が持つことが出来るのは一つのスキルのみ。


 となれば考えられるのは何らかの魔法、あるいは装備によって更に身体能力を強化したのだと考えられた。


 「ルーシー! 大丈夫かい!」


 吹っ飛ばされた俺を心配してアスモデウスがこちらに駆け寄る。


 幸い蹴りを入れられた以外に大きなダメージはなく戦闘も続行できそうだ。


 「問題ねえよ……これくらい。しかしこいつは……ちょいと厳しいかもな」


 「彼からは今までにないほどの膨大な魔力を放っている。もはやここまで来ると天使レベルさ……容易に勝てる相手じゃない」


 天使レベルとなればその魔力で軍一つを容易に消滅させることができるほどだ。


 しかしそれは逆に諸刃の剣ともいえた。それほど膨大な魔力を人間の器ごときが耐えられるはずがない。


 「おそらく彼の並外れた身体能力は一時的なものだろう。今の攻撃だって相手にとって大きな負荷が掛かっているはずだ。ここは無理に戦わず時間を稼いだ方がいい」


 それはアスモデウスの言う通りだった。クレイドの動きは俺の攻撃を避けて蹴っただけの少量の動きだ。


 だというのに彼の額からは若干ながら汗が滲んでいるように見える。


 「フ。悪魔どもめ、それぐらいの弱点、当の本人が気づかないはずもなかろう。だから時間を掛けさせぬようにした」


 「何を言ってーー」


 アスモデウスが口を開こうとした瞬間、彼女の言葉は大きな咆哮によって掻き消される。


 聞き覚えのある雄叫びに俺たちは恐る恐るその声のする方向へと視線を移す。


 そこには大勢のミノタウロスが城門を通ってぞろぞろと姿を表していた。

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チート殺しの魔王。魔族を滅ぼされた魔王は復讐を誓う 老紳士 @Sister140

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