買い物
「やったー! ルーシーとデートだ!」
「あくまで買い物に付き合うだけだからな?」
「つまりはデートって事だろう? デートって事だよな!」
「あーはいはい。デートだよデート」
これ以上アスモデウスの言葉に反抗したって仕方ないので大人しく肯定することにする。
アスモデウスの交換条件は買い物に付き合うといった彼女にしては普通すぎる内容。
しかし買い物に付いていくだけだっていうのにここまで喜ばれると俺だって悪い気はしなかった。
「ところで買い物って何を買うつもりなんだよ?」
「婚約指輪とか?」
「誰のだよ! 言っておくけど俺は着けねえからな!」
前言撤回。コイツと居ると俺の貞操とかその他諸々がヤバイかも知れない……。
「あくまで冗談で言ったつもりなんだけど……ここまで否定されると悲しくなるなぁ。それともアレかな? 照れ隠しって奴なのかい?」
「照れてもねーよ。それでまさか本当に指輪を買うつもりなのか」
「それは戦争が終わってからにしよう。どうせなら憂い事がない方が心置き無く式をあげられる」
「なんか戦争を終わらせたくなくなってきた……」
「駆け落ちがお好みかい。分かったなら戦争をやめて二人でひっそり暮らそうじゃないか」
「よし! 絶対転生者を倒すぞ!」
どちらにしてもアスモデウスは俺を逃がすつもりはないらしい。それなら実際に彼女の好意に応じるかは戦争が終わった後のほうが良い。
その方が彼女の気持ちにもじっくりと考えられるってもんだ。うん、別に返答から逃げているわけではない……本当に。
「なんだ。駆け落ちはしないのか……残念。転生者を倒すならやはり体力は付けなきゃならない。というわけで今日は夕飯の食材を買おうと思う」
「そういえばお前……料理得意だったな」
戦争が始まった時。アスモデウスからいくつか食べ物をご馳走になったのだが、そのどれもなかなかに美味しかった記憶がある。
どうやら今回もアスモデウスが料理を作ってくれるようでそれは素直に楽しみだ。
「好きな人の胃袋を掴むのは恋愛の基本さ。それに頑張って作ったものを美味しそうに食べてくれると心がほんわかするんだ」
「そういうもんかねぇ。俺は料理なんて作ったことがないから分からねぇが」
「確かにルーシーは家庭的なことは苦手そうだしね。仕方ないこれからは全部私が面倒を見て上げよう」
「ま、確かに家事とかは苦手だなぁ……そこら辺は迷惑かけるかもな」
「夫の面倒を見るのも妻の役目だ。それに私は世話を焼くのが嫌いじゃない……これからだって毎日料理を作って上げよう。さ、その為の食材探しと行こうじゃないか」
アスモデウスに続く形で俺たちは町を歩く。敗戦した町だというのに町の雰囲気は活気そのもの……みんな自分の商品を買ってもらおうと必死に客寄せを始めている。
「それで食材って何が足りないんだ?」
「とりあえずネギや人参といった野菜類にガチョウの肉だな。今日はお鍋にしようと思っていてね、アイナちゃんだって傷の治りに体力を消耗してるだろうし」
「鍋か……確かに最近は肌寒いもんな。それにみんなで鍋を突っつき合うってのも悪くないな」
「だろう? そしてどうせ作るなら鍋も本格的な鍋にしたいからね。具体的にいうと鶏ガラの鍋かな」
アスモデウスはガチョウの肉が大好きだ。どんな料理にも大抵ガチョウの肉が入れられている。
だから今回も具材にガチョウ肉が入っているのはもはやお決まりの展開といえた。
「どうせなら魚とかも入れてみたらどうだ? 鍋といえば魚だろ?」
「魚!? 冗談じゃない! ごめんだね。あんなもの見たくもない」
「そ、そんなにか……」
彼女にしては珍しく拒否反応を見せている。そういえば今まで色んな料理をご馳走してもらったが魚料理だけは出したことがなかった。
「へぇ……そいつは意外だな。お前は大人染みてるからてっきり好き嫌いはしないタイプだと思ってた」
アスモデウスは見た目こそ子供だが、いつも冷静で大人びた雰囲気がある。
だから好き嫌いしていると注意する方で彼女はそういった食べ物での好き嫌いはしないものだと思っていた。
「こう見えて私は好き嫌い容認派でね。嫌いなものは食べず好きなものだけ食べればいいと思っている。足りない栄養素は薬で補えばいいからね。だからルーシーも嫌いなものとか合ったら言うんだよ。すぐに抜いてあげるからさ」
「別に嫌いなものなんざ…………キノコぐらいしかねぇよ」
「なるほどキノコが苦手なのか……分かった善処しよう。さ、好き嫌い談義は終わりにしてそろそろ買い物にいこうか早く準備しないとアイナちゃんも心配しているだろうしね」
キノコ嫌いという役にも立たない情報をメモするとアスモデウスは店へと足を運ぶのだった。
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