一つの目標


 「ところで魔王様一つお伺いをしても宜しいでしょうか」


 「なんだよ」


 村を出て山を一つ越えた森の中、不意にアイナがこちらに話しかけてきた。


 「いえ大した質問では無いのですが……私たちは大罪の七騎士を探しに村の外へと出たんですよね。ということは何かしら彼らがいる場所に心当たりがあるのでしょうか?」


 「あ? そんなのあるわけないだろ。元々俺以外の七騎士が生きているかどうかすら分からないんだからな」


 大罪の力を持つ、魔界トップクラスの実力の持ち主。それが俺たち大罪の七騎士と呼ばれる存在だ。


 戦争が始まった時には俺たちは力を合わせ、それぞれの軍を使役しながら襲い掛かる人間たちを倒していった。


 しかしそれも本の少しの間だけ、転生者という異界の者が現れてからは仲間は殺され七騎士たちもそれぞれ追い詰められていく。


 俺も戦いに戦いを重ねたが転生者の持つスキルに対抗することは出来なかった。


 「俺が敗れた時には既に騎士の治めている城の四つが陥落していた。残りの二つはまだ分からねえが……戦争は終結したんだろ? ってことは残りも既に陥落してるんだろうな」


 確か残り二つの城は怠惰を司るベルフェゴールと色欲を司るアスモデウスがそれぞれ治めてたんだよな。


 あの二人は大罪の七騎士の中でもそこまで強い方じゃない。戦力的にも劣勢になっていた状況なら城を落とされたって仕方ないだろう。


 「あの……でしたら一度その陥落した都市に行ってみるのはどうでしょうか?」


 「都市に行ったってもうそこは敵の本拠地になってるんだぞ。行ったところで争いになるだけだ」


 終戦から既に二年という年月がたった今同じ場所に留まっているとは限らない。


 どちらかと言えば俺みたいに辺境の地で隠れ潜んでいる可能性の方が高いだろう。


 いや……待てよ。そう言えば…………アイツならひょっとして城を陥落した今でも戦ってるんじゃ……。


 「あの……どうかされましたか?」


 「いや……お前の言うことも一理あるなって人間側からの終戦宣告の噂を耳にして俺たちは戦争が終わったもんだと勝手に思っていたが、もしかすると残党組織がまだ残っているかも知れねぇな」


 特にアイツなら諦め悪いし、城が落とされた今でも生きているなら戦っている可能性が高い。


 それにアイツの治めていた都市はこの森からはわりと近い場所にある。


 どうせ行く宛のない旅だ。彼女の言う通り陥落した都市で七騎士を探すのも悪くないかも知れない。


 「アスモデウスならもしかしたらまだ生き残ってるかも知れないな」


 「アスモデウスさん……ですか? 確か色欲を司る悪魔で今回の戦争では最後の最後まで戦った騎士ですよね」


 「そうだ。アスモデウスは魔界の間では賢天使と呼ばれるほどの知能の持ち主でな、最後までしぶとく戦えたのも彼女の練られた戦略のおかげだ」


 それこそ単体での力は七騎士の中でも最低クラスだが知能という点においては七騎士の中では一番高い。


 人間軍との戦争の際には彼女の戦略によって何度も不利な戦況をひっくり返したほどだ。


 そんな彼女が城を陥落されたからといって簡単に倒されるとは思えない。


 「アスモデウスさんが城を構えていたのはこの森の更に向こう側にあるプルスタンという町でしたね」


 「ああ、さすがに町に留まってはいないだろうが近辺に基地を構えてるかも知れないからな。行ってみるべきだろう……がその前に」


 「えっ……何か? うわっ!」


 ぼやっとしているアイナの後ろ襟を引っ張り木陰へと身を隠す。それとほぼ同時にざわざわと人の話し声が俺たちの居た方に向かって近づいていた。


 「今回は獲物が少なかったな。ゴブリンを四体ほどしか狩れなかった」


 「へへ、そいつは残念だったな。俺は獣人族を二匹も狩れたんだぜ」


 「げっ……! 獣人族とかなかなかのレア物じゃんか? いいなぁ」


 ゲラゲラと下品な笑い声を上げながら屈強な男が四人ほど雑談を交わしながら歩いていた。


 魔王城が陥落した今。この世界は人間の好き勝手にすることが出来る。


 最近ではモンスター狩りが趣味の一環として流行っているらしく特に獣人族の獣は高価な値で取引されるのだとか。


 その為にこうして森の中へと入り、隠れて暮らしているモンスターたちを狩りに出ているらしい。


 「ま、魔王様……あれって」


 「…………ああ、素材だろうな」


 四人の勇者の後ろ二人が荷台を引いてある。その表面は軽く布で覆われていて何が入っているのかは分からないようになっている。


 だが布から滲み出た赤黒いシミと先程の勇者たちの会話から何が入っているかは容易に想像がついた。


 「そんな……酷い。向こうが勝手に攻めてきただけなのにこんな仕打ち」


 「奴らにとって俺たちは只の獲物に過ぎないんだろうよ。まあ、それも仕方のない話だ。世の中ってもんは弱者が悪いように出来てる。襲われて抵抗し勝てなかった奴が悪いんだよ」


 「魔王様……」


 「でもそれは逆も言えることだと思わねぇか?」


 「えっ……それって」


 「アイツらも襲われたって文句は言えないって事だよな」


 俺はニヤリとわらって鞘から刀を抜く。アイナもようやく意図を理解したのか何処か嬉しそうな表情を浮かべると同じよつに剣を抜いた。

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