第5話スカートのセンセー


 突然だが、美弥子の書いた物語には「服装倒錯者」が出てくる。


 主人公は男だが、スカートをはきたくて毎夜赤いタータンチェックのスカートを履いて徘徊。しかし自分では記憶がない。リアルでのストレスが大きくなるほどスカートへの憧憬は深くなり、彼は山下公園でライトアップされた日本丸の前で踊りながらすべての意識を失う。そこで物語は終わっていた。


(差別と思われたかも。でもなんで何も言われないんだろう。先生、どうして……?)


 なぜだか、見放されている気持ちがかなりする。



 午後七時。美弥子は山下公園で缶コーヒーを両手で持って、埠頭の椅子に腰かけてぬくもっていた。大きな鎖が船体と海面を結ぶ。頑丈そうな錨とライトアップされた堂々たる日本丸。地面に置かれた学生カバン。模擬試験の判定結果がそばに落ちている。国公立A。次は塾で上位クラスに移される。この調子だとどうあっても大学へ行かされる。そうは言っても手は抜けない。プライドはあるが家にお金はない。苦学するのは目に見えている。そうまでしてしたいこともない。どうしよう。


 夜なのに人の気配がした。リズムよく走ってくる人影。その姿は異様だったが見覚えがあった。腰に赤のタータンチェックの巻きスカートを履いている。ジャンプして踊りだす不審人物。体格は細身だが肩幅などどう見ても男性なのに。


 美弥子、あっけ。このシチュエーション、まさか自分の書いた物語が本当になったのか? 目を疑うが、彼が美弥子に気づく。みてとれたそれは国語教師の藤原だった。



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