第3話オレもまだまだだ

 真昼の廊下で、そうだと彼は思い出した。

(オレは教師だったんだ)

 毎度、週明けにはありがちなことで、今日に限っては朝から生徒に反省文を書かせたことからかろうじて記憶にひっかかっていた。

(格ゲーやってた方が気が楽なんだが)

 何度言っても切ってこない長髪の男子に、これから説教をせねばならない。校舎と校舎の間、渡り廊下の隅で。

「どうして課題提出しない」

「オレ文、書くの苦手で」

「別に文才を見る課題じゃないぞ。自己表現だ」

 前衛的な長髪の少年は横を向いてぶつくさ言う。

「そんなこといって、オタクを書いたらダメで、ラブシーンが下手だと馬鹿にするんだろ」

(ああ、うざってえな。言わなきゃダメか、ちくしょー)

「オレはおまえの物語力をかってるんだ」

「?」

「体張ってダチを救うとかな」

「見てたのか!」

「知らねえよ?」

 がくっ。

(嘘だよ。見てたんだよ。おまえがボール、顔面で受け止めるとこ。なのに女子に怖がられてさー。損な奴だよ)

 長髪男子、唇をとがらせる。

「絶対からかってる……」

「おまえはそのまんまで良いって言ってんだ」

「そのままで……」

「ありのーままのー♪」

「ディズニーか」

 つっこむ男子の長髪が風に吹かれて、右目の下のアオタンが見える。

「いいじゃん、オレ、ディズニーランド好きだもん」

(オレは知らないフリするキャラだ)

 ポリポリと目の下をかく藤原。

(おお、いてえ)

「子供か!」

「彼女にフラれたのもあそこだったなあ」

(あっ、これもっといてえ!)

「え? フラれた……なのに好きなの?」

 あっけにとられた風な長髪男子。

(そうよ? オレ、ディズニー好きよ?)

「人の心は奥が深いんだよ」



 次の日、長髪男子は国語教室に自ら来た。

 読み終えて藤原はずびっとお茶をすすった。

「フラれた男が遊園地を破壊する話、こんなに痛快なのは久々だ。おまえやるなあ!」

「そうかよ……」

 ニヤッとする長髪男子。

(しまった、褒めすぎた……)

 口元に拳をやり首をふる藤原。

(オレもまだまだだね……)

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