陽花里Side

「でも、佐藤さんだいぶ変わったよね~」


「そうかな?」


私は今、元クラスメイトたちに囲まれていた。高梨君と春香ちゃんが作ってくれた見た目はきた人の意表をついたらしく、結果としてきた人に好印象を与えることができた。後は、いつも通りにすればいいだけ。


「そうだよー、だって昔はなんか暗かったじゃん」


お前らが私を暗くしたのに⋯。平然と他人事のように周りで笑うクラスメイト達に怒りがふつふつ沸いてくるのを笑顔で隠す。ここで怒ってしまえば計画が台無しだ。


「うーん、まぁ、確かに今思い出してもあの頃の自分はなかったなと思うよ」


周りの人が望む答えを出す。


「だよねー」


周りに笑いが起きた。その中に涼やかな声が響く。


「そうかな?僕はそう思わないけど」


来たか⋯。


「博人!久しぶり!」


当時、博人君と仲良かった男子が喜々として博人君の肩に手を回した。


「久しぶり。ちょっと用事があって遅れちゃった⋯」


「お前全く変わってないな~」


「そう?⋯陽花里ちゃんは変わったね」


博人君が男子から私に目を移した。


「⋯そうかな?」


「そうだよ」


それからは博人君と私が中心に会話が行われた。⋯上手くやれそうだ。この調子でいけば。そう思っていた矢先、少し手を引かれた。


「⋯博人君?」


「しー」


博人君が自分の口に人差し指を当てた。


「ちょっと抜けない?」


「え?いや⋯」


周りを見ると、周りはいつの間にか個々の仲良くしていた人たちと話していた。


「ね?今のうちだよ。注目がないうちに」


⋯嫌だな。でも、これが直接対決できるチャンスかもしれない。


「分かった」


「よかった」


博人君に手を引かれて、店の外に出た。店の隣にある公園のベンチに座る。


「陽花里ちゃん、心配したんだよ?急に学校来なくなったから」


「ごめんね」


「何かあったの?」


⋯何かあったも何も。いや、ここで感情をあらわにしてしまったらからめとられる。


「⋯何もないよ?」


「ほんとに?」


「ホント」


「⋯そっか。僕ね後悔してたんだ。陽花里ちゃんが不登校になるまで追い詰められていたのに何一つ気づいてあげられなかったって」


「⋯⋯」


「ねぇ、やり直さない?」


「なにを?」


「結局、付き合ったけど自然消滅になってしまっただろう?もう一度やり直さない」


「断るわ」


「⋯なんで」


博人君の目が少し険しくなる。


「私はあなたが好きじゃない」


「⋯そんなに嫌われるようなことしたかな?」


「えぇ」


博人君がため息をついた。


「いじめを放置していたことについて怒ってるの?でも、それはお門違いというものではないかな?だって⋯僕は関与してないよ」


やっぱりそうだったんだ⋯。やっぱりわかっていて⋯


「関与していない?よく言うわ。私を利用していたくせに」


「利用?人聞きの悪いこと言わないでもらえるかな。僕はただ目の前でいじめが起こっているとき限定で助けてただけだよ」


「じゃあ、私をわざわざ遊びに行こうと誘いだしてクラスのみんながいたことがあったわよね?あれはあなたの行動がなければできない話だけど?」


「あれは君をクラスになじませようとしただけだよ」


「そういう自分を演出したのよね?」


「⋯⋯陽花里ちゃん変わったね。でも、嬉しいよ。それだけ僕に影響されてくれたってことでしょう?」


「影響なんかされてない」


「いや、されてるよ。君が変わったのは何があったから?その原因は誰?」


「⋯⋯」


「ほら、僕に影響されているじゃないか。君は僕に影響されて、こんなに人づきあいがうまくなった。⋯僕に匹敵するほどにね。⋯ねぇ、陽花里ちゃん。僕は君に対していい影響を及ぼしている。君も昔と違って君自身に価値が出たから僕に対していいものをもたらすと思うんだ。つまりウィンウィンな関係だね。だから、僕と付き合おうよ」


「いやよ」


「そっちのほうが僕と君のためだと思うけど?」


「貴方よりも私のほうが優れているわ」


「⋯」


いよいよ本格的ににらまれる。そのあと博人君は目は笑わずに口もとだけ上げた。


「なんでそう思うの?」


「だって、貴方は周りのことを何一つ信じていないでしょう?心から大事にはしていない。私は周りのことを少なからず信じているもの」


「僕も信じているよ」


「それは自分が持つ周りへの影響力を⋯でしょう?」


「それは君も同じじゃない?君も自分がもたらす影響力しか信じていないでしょう?」


「⋯確かに最初はそうだったわ。今も打算的な面が一切ないかと言われたらそれは違う。でも、貴方みたいに親しくなってまで周りの人を利用しようだなんて思えない。間違っていることをしていたら、たとえそれを利用したほうが自分に利益をもたらせることができるとしても⋯止めるわ」


「⋯へぇ、陽花里ちゃんは人間がとてもできてるんだね~。あんなにいじめられていたくせに」


「っ!!」


「ねぇ、馬鹿だね。陽花里ちゃん」


「貴方みたいな自分を馬鹿だと思っていないバカよりもましよ」


「へぇ」


博人君に手首をぎゅっと掴まれる。⋯痛い。


「⋯離して」


「陽花里ちゃんが僕と付き合ってくれるなら」


「それ⋯強要罪にあたるわよ」


引きこもり時代に集めたなけなしの知識を引き出して睨みつけながら言う。どれだけ手を引いても離れられない。手を引くたびに骨がぎりぎりしめられて激痛が走った。


私が睨んでも博人君はにっこりと笑うだけだ。


「それが?今までで一番僕は君に興味がひかれてる。離さないよ」


目が怖い⋯。どうしよう。逃げられないかもしれない。私がここで騒いでも痴話喧嘩真っ最中のカップルということに彼ならしてしまうだろう。


どんどん笑みを深める彼の顔を見て焦っていると今朝聞いた声が降ってきた。






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