第2話

「わかりました」


 僕がうなづくと、委員長は驚いたように目を開けた。


「え?本当に?」


「はい」


 断っても面倒そうだし⋯。委員長はパッと嬉しそうに顔を明るくし、そのあとわざとらしく咳払いをした。


「ま、まぁ、そうよね。私から友人になろうっていう申し込みがあったら受けるわよね」


 ⋯この人凄い自信だな。


「じゃあ早速友人として頼みが一つあるの!」


「頼み?」


「そう。友人としての頼みよ。近々、クラスのみんなで親睦会をしないかっていう話をしているの。そこに参加してくれない?」


「⋯悪いけど、行けません」


「なんで?」


「知り合いしかいないから⋯ですかね」


「私という友達がいるじゃない!」


「⋯⋯」


「⋯どうしてもだめ?みんなのこと嫌い?」


「そういうわけでは⋯」


 ただ、僕は事件のことについてこれ以上聞かれたくないだけだ。被害者、加害者と知り合いなわけではないけど⋯興味本位で聞かれるのは気分が悪い。


「なら⋯!」


「⋯どうしてそんなに委員長の役目を全うしようとするんですか?」


「え?だってクラスの中が悪いよりはいいほうが過ごしやすいじゃない?」


 そういう委員長の顔は本心から言っている顔だ。何かほかに理由があるというわけでもないみたいだし⋯。かえってとても単純な理由に毒気がすっかり吸い取られた。


「そう⋯ですか」


「えぇ」


「⋯わかりました」


「え?」


「参加します。⋯親睦会」


「本当に!参加してくれるの?」


「はい」


「ありがとう!」


「いえ⋯」


 委員長は自分の腕時計を見る。


「もうそろそろチャイムが鳴るわ。教室に行きましょう」


「はい」


 隣で委員長が楽しそうにいろいろな話をしている。⋯本当に表情がころころ変わる子だ。見ていて面白い。委員長の楽しそうな弾んだ声を聞きながら、学校を歩くだけでいつもより明るい気分になるから不思議だ。はじめて話して、僕がこんな気持ちになるんだから彼女には人たらしの能力があるのかもしれない。


「ねぇ、聞いてる?」


「え?」


「カラオケ得意?」


「カラオケ⋯ですか?そうですね⋯」


 あんまりカラオケには行ったことがない。だから⋯得意かどうかは分からない。


「たぶん⋯あんまり得意ではない?気がします。何分、あまり行ったことがないのでわからなくて」


「そっか。じゃあ、カラオケにしようか!親睦会」


「カラオケにするんですか?」


「えぇ!」


 ⋯まぁ、僕には拒否権そんなにないだろうし。


「分かりました」


「そう!じゃあ、早速クラスのみんなに伝えなくちゃ!」


 委員長は走り出し、クラスのドアを勢いよく開け教壇に立つ。僕も続けて入り、席に座ろうとすると委員長のよく通る声が響いた。


「皆!注目!!」


「委員長、言わなくてももうすでに注目集まってるって!」


 クラスの男子のツッコミと笑い声が響き渡る。⋯初めて気が付いた。自分の耳に装着しようと思っていたイヤホンを置いた。いつもイヤホンをしていたから気が付かなかったのか。⋯このクラスの仲がこんなに良かったなんて。


「それもそうね!じゃあみんなの楽しみにしてる親睦会のことだけど!」


「「「おぉ~」」


「カラオケに決まりました!!」


「日時は~?」


 わいわい騒がしくなってきた中で一人の生徒が声を上げる。


「日時⋯そうね。では、転校生君!」


「⋯はい」


「君がいける日をそうね⋯二、三個教えてくれるかしら?」


「⋯すみません。どの日にちがいけるのか帰ってカレンダー見ないと分からないです」


 嘘だ。本当は僕に予定なんかない。こうやって嘘をついたのは⋯もしかしたら委員長に対してどこか置いて行かれた気持ちがあったからかもしれない。今まで、ここに来てからこんなに疎外感というものを感じたことはなかった。そもそも、僕が周りを見ていなかったから感じることなんてなかったのだ。でも、クラスのみんなが仲が良くて自分だけ仲が良くないという現実を見させられると⋯。


「そう!わかったわ。じゃあ、みんな後でクラスLIMEに日程調整表送るから投票してね」


 委員長は教壇から飛び跳ねるように降りると、僕の目の前にまで来た。


「LIME交換しましょ!」


 僕の目の前で涼し気なイルカのかわいらしいキーホルダーが揺れる。僕は自分のキーホルダーも柄もついていないただ黒いだけのケータイを取り出した。LIMEを交換するなんてここに来てから初めてのことだ。


 僕が携帯を操作していると彼女が携帯の画面を僕に見せてくる。


「QRコード読み取って」


「はい」


 言われた通りにQRコードを読み取ると彼女のあて先が携帯に現れた。


「これで合ってますか?」


 陽花里ひかりと書かれた彼女のあて先を見せる。


「うん」


 僕が彼女にスタンプを送ると、彼女から可愛らしいお餅のキャラクターのスタンプが返ってきた。


「じゃあ、転校生君。帰ったら日時送ってね」


 彼女はにこっと笑うと友達に呼ばれ行ってしまった。











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