第1話

高校生活が始まって二か月経った。僕は高校入ってからずっと一人だ。友達がいない。というのも理由がある。皆さんも聞いたことはあると思う。通称「誰も幸せになれない事件」。とある中学校のプールで起こったその事件はドラマ性により、一気に人々に知られることとなった。報道された媒体を見た誰かが「これは誰も幸せになれない事件」だなとSNS上で呟いたことにより、この皮肉な名称がついたのだ。


この事件は僕にとって無関係というわけではない。なぜなら、この事件が起こった当時、僕はその中学校の三年生として在籍していたからだ。だが、高校に入学したとき僕の中学校出身の生徒は誰一人いなかった。理由は一つ、僕は卒業と同時に父親の転勤の関係で引っ越したからだ。誰もいないところに当時話題をさらっていた事件の生徒が入ってきたら⋯想像することは簡単だ。僕は事件のことについて質問攻めされた。


⋯正直に言って気持ちいいものではない。そこから離れた人に取ったら遠くで起きた話なのかもしれないけど、僕に取ったら⋯。


そんな感じで、話すたびにそのことしか聞かれないから嫌気がさして誰とも話さなくなったら友達が一人もいない状況が出来上がった⋯というわけだ。だから今日も今日とて僕は一人飯。閉鎖された屋上の前に行き、寂しく一人でご飯を食べるのだ。


唐揚げを口の中に含んで、そのあと一気に白飯をかきこむ。一人で食べてもご飯はおいしい。⋯僕は友人をどう作ればいいのだろう。箸を止めて、小さな窓から差し込む光で埃がキラキラと反射して落ちていく様子をボーっとみていると、コツコツとこちらに靴音が近づいてくる音がした。階段の下を見ると、ちょうど窓から差し込んだ光のところに女の子が一人立っていた。


「⋯⋯」


思わず言葉を失ってしまった。何故かわからないけど、とても彼女がきれいに見えたのだ。彼女は階段の上に座っている僕を仁王立ちでにらみつけた後、そのままの勢いで階段にあがってくる。


「え?」


僕の口から間抜けな音が漏れた。ど、どこか⋯逃げる場所。僕は慌てて弁当のふたを閉めてどこかに逃げようとあたりを見回す。前には怖い顔をした女の子。左右は壁だし、後ろは閉ざされた屋上への扉!どうしよう逃げ場がない!いや、待てよ⋯もしかしたら屋上が実は開いているということも⋯。


僕が取っ手を持つと同時に、白い小さな手が僕の手に重なった。ギギギ⋯とぎこちなく隣を見ると彼女は僕を至近距離で睨んでいた。


「なんで逃げるのよ?」


「い、いや、そんな顔で来たら誰でも逃げると⋯」


「はぁ!?私の顔が怖いとでもいうの!!」


「そういうことじゃないです⋯。それより、手離してもらえますか?」


顔を真っ赤にすると彼女は僕の手から勢いよく放した。自分の手の甲を見るとほんのり赤く色づいている。きっと彼女に強く手をつかまれたせいだろう。


「そ、そんなんじゃないからね!!」


「はぁ⋯?」


この娘は俗にいうツンデレというやつなのだろうか?


「えっと⋯、僕に何か用ですか?」


突進するように来たから僕に何か用事があるのだろう。僕は彼女の顔に見覚えはないけど⋯。


「貴方、一年二組よね?」


「はい」


「なら、私のこと知っているわよね?」


「⋯誰ですか?」


「は?覚えてないの!?二か月もたつのに?」


「すみません⋯」


「私は一年二組の学級委員長よ」


「そうなんですか?でも、学級委員長って⋯」


黒髪おさげのいかにも委員長です!っていう感じの眼鏡かけた子だったような⋯。今目の前に立っている子は腰までの髪に裸眼だ。


「ちょ、ちょっと⋯あまり見ないでよ」


「あ!ご、ごめん!」


「⋯で?何か言いたいことがあるんじゃないの?」


「教室とだいぶ雰囲気違うような?」


「⋯眼鏡壊れたのよ。あと、髪はゴムが切れて」


「じゃあ、もしかして今なにも見えてないんですか?」


「いや、目を細めればわかる」


そういって彼女はさらに目を細める。⋯睨んでいたわけじゃなくて目を細めてたから睨んでたように見えただけか。彼女がうっとうしそうに髪を耳にかける。少しドキッとして目をそらすとあることを思い出した。


「ゴム⋯持ってるけど使います?」


ポケットの中から黒ゴムを出す。


「貸してくれるならありがたいけど⋯なんでゴムなんて持ってるのよ?」


「⋯何かと便利じゃないですか。ゴムって」


「なるほどね」


彼女が僕の手からゴムを取り、自分の髪を縛り始める。


「あと、ゴムは返さなくていいです」


「くれるってこと?」


「はい」


「ありがとう。なら、お言葉に甘えてもらっておくわ。あぁ~、すっきりした」


彼女は一つぐくりに縛ったおかげで、自分の顔の周りに髪がなくなったからか満足げな表情をしている。


「それで用件は⋯?」


「あぁ、貴方友達いないの?」


「⋯いません」


ストレートに聞かれたからか自分の心にグサッと針が刺さった。


「なら、私と友達になりましょう」


自分の目の前に出された手を見て、委員長の顔を見た。


「え?」


「⋯なによ。いやなの?」


「い、いや⋯どうして突然」


「私はあなたのクラスの委員長よね?」


「そうですね」


「なら、委員長がすべきことは?」


「⋯先生の手伝い?」


「馬鹿ね。それもあるけど、もっと重要なことがあるでしょう」


委員長の役割⋯。委員長の役割というと、都合のいい雑用係のイメージしかないな⋯


「わかりません」


「クラスのまとめ役よ!」


胸を張って委員長は言う。


「あぁ⋯それが、僕に友達になろうというのと何の関係があるんですか?」


「クラスのまとめ役⋯つまり、クラスの生徒が気持ちよく楽しく学校に通えるようにしなければならない」


「はぁ」


「ということは!友達もいない学校生活が楽しくなさそうな貴方を救うのも私の役目よ!」


「⋯そうなんですか」


「そうよ!」


⋯なんか面倒な人に絡まれたなぁ。


「ということで貴方!私の友達になりなさい!」




















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