第9話J( 'ー`)し「たかし、死んだと思われてた大物キャラが再登場よ!」
一瞬の浮遊感を覚えた後、真っ黒な世界に着地した。
気温はやや低く、土の匂いがした。
「母さん!みんな!どこだ!?」
「たかし、そこにいるの!?」
母さんの声がまっさきに聞こえた。
「私もいるぞ!」
「私もいるわよ。お父さん、お母さん、いるの?」
「あ、ああ……」
「ええ……」
ミカの両親も含め、全員すぐ傍にいるようだ。
「転移魔法ね。やられたわ。今、明かりをつけるから」
「いや、ちょっと待て!」
「どうしたの?」
「こういう状況を映画で見たことがある。明かりをつけたらゾンビや虫の大群に囲まれてたってオチが……」
「ひいいいいい!」
イグドラが心底おびえている。
「虫こわい虫こわい……」
「ミカ、ちょっとだけ心の準備をさせてくれ!」
俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
大丈夫。ゴキブリはあれだ。黒いバッタみたいなものだ。怖くない。怖くない。ゲジゲジがいたらどうしよう?そうだ。フナムシだ。足の長いフナムシと思えば怖くない。イモ虫っぽい生物だったらカブトムシの幼虫と思えばいい。カブトムシは男のロマンだ。
「よし、いいぞ!」
俺が覚悟を決めるとミカの手から白い発光体が生まれた。
幸い、虫は一匹もおらず、横に広い空間があるだけだ。床、壁、天井は長方形の石がはめ込まれており、俺たちの足元には転移用の魔法陣が描かれていた。
「ここは……地下か?」
「た、たかし!あれを見て!」
「え?うわあああっ!」
俺たちは母さんの指す方向を見て背筋が寒くなった。部屋の隅にミイラ化した死体があるのだ。一つや二つではない。5つ以上のミイラを見つけて背筋が寒くなった。死んでからどれほど年月がたったのかはわからないが、どういうわけかどれも一部が粉砕されている。
「ふむ。服装から見て帝国人だろうな。どれも軍人や官僚のものだ」
イグドラが冷静に死体を調べている。
虫は怖くてもこういうのは平気らしい。
「こいつも俺たちみたいに転移させられたのか?」
「そのとおりだ」
「「「うぎゃあああああ!」」」
別の方向から第3者の声がして俺たちはみっともない悲鳴を上げた。
あれ?でも、この声ってどこかで聞いた気もする。
「誰よ!?」
ミカが声のしたほうに発光体を移動させると俺たちのよく知ってる男が座っていた。
「お前は……なんとか将軍!」
「バルフォアだ!」
四将軍の一人は怒って言った。
「あれだけ戦っておいて名前を忘れるな!」
「ああ、すまん……」
俺はつい謝ってしまった。相手の名前を忘れるのは失礼なことだがピノ将軍からこいつは処刑されたと聞かせていたので俺の記憶からも埋葬されていた。
「ここは処刑用の監獄だ。出口も入り口もない。転移された相手は魔法で救助も呼べず、水や食料もなくじわじわと死んでゆく。そこのミイラは皇帝の不興を買った官僚や軍人だ。アンデッド化して襲い掛かってきたから倒してやった。感謝しろ」
「それは自分のためだろ……。え?お前もここから出られなくて困ってるのか?」
「そうだ。笑うがいい」
「ははははははは!あれだけ高笑いして逃げたのに地下牢に入れられてやんの!」
「そこまで笑うな!」
俺が望みどおりに笑ってやるとバルフォアは怒った。
面倒くさい奴だ。
「暗闇の中でじわじわ弱って死んでいくのね。いい性格してるわ」
「ここに飛ばされた以上はもう助からん。潔く自害しようと思ったが、あいにくと剣を没収されてな」
バルフォアの顔に少しだけ安堵みたいな感情が見えた。
ここで一人で死ぬ身になることを想像すると馬鹿にはできない。俺だってこんなところに一人で閉じ込められたら気が狂いそうだ。
「あのまま飛竜でよその土地に逃げておけばよかったんじゃないか?」
「そうはいかん」
俺の疑問にバルフォアはすぐ言った。
「俺も帝国軍人の一人。処刑もまた誉れだ。フフフ……」
「もう解任されてるでしょう?」
「ぐ……」
「そうか。こいつ、もう将軍じゃないんだよな。毒将軍が毒無職になっちゃったわけか。百害あって一利なしの存在だな」
俺がそういうと周りがくすくす笑った。
「無職とか言うな……」
「まあ、それはそれとして脱出方法は本当にないのか?この魔法陣で元の場所に転移し直したりできないか、ミカ?」
「転移した直後にむこうの魔法陣を消してるはずよ。それに、以前にも言ったけど、失敗確率が高いの。変な言い方だけど、ここに転移されたのは不幸中の幸いかも」
「壁の中にいる」状態になる可能性もあったのでそのとおりだ。
運の良さは間違いなく母さんのおかげだろう。
「あきらめろ。ここに来た以上は座して己の人生を振り返り……」
「穴を掘って地上に出られないか?」
俺はバルフォアを無視して言った。
「それは最後の手段にした方がいいわね。土の状態次第では土砂崩れで生き埋めになるわよ。通路を補強する道具もないし」
「たかし、私にできることはないの?」
「母さんはアーチャーだから出番なしだな」
「アローレインってここじゃ役に立たないかしら?」
「お願いだからやめてくれ!」
「それだけはやめてください!」
俺とミカは即座に言った。
その時、今まで黙っていたミカの両親が口を開いた。
「ミカ、お前が皇帝陛下を怒らせるからこんな事になったんだぞ!」
「そうよ!どうしてそんな子になっちゃったの!」
俺はイラっとしたが、彼女が杖を振ると二人はその場に崩れ落ちた。
「鬱陶しいから寝かせておきましょう」
「よくやった!みんなで周りを調べるぞ!こういう場所には隠し通路があるのがお約束だ!」
俺は壁や床を調べ始めた。試しに壁をとんとん叩いてみる。違う音がしたらそこに隠し通路があるという映画の真似だが、何の違いも感じない。
「無駄だ。隠し通路などあるわけないだろう。ここは処刑するための部屋だぞ?」
「うるさいなあ。通路を見つけてもお前だけ出してやらないぞ」
「フッ、俺はすでに死んでる身だ」
「ねえ、たかし」
母さんが俺の鎧を引っ張った。
「不思議に思うんだけど、どうしてこの部屋にいても酸欠にならないのかしら?」
「え?酸欠?」
「ミイラになった人たちはずっとこの部屋にいたんでしょう?部屋の酸素をどんどん使って、なくなっちゃったんじゃないの?」
「言われてみると……」
確かに不思議だった。
この部屋は通路が埋められて密室になっているはずだ。空気の出入りがないなら酸素が徐々になくなって死ぬ。バルフォアも俺たちも平気ということはどこかで地上と繋がっているのでは?
「よし、母さん。壁を調べてくれ」
俺は母さんの勘と観察力に賭けることにした。あるかわからないが、出口を見つけられるかもしれない。
「うーん……」
俺も身体強化の魔法で嗅覚を強化して新鮮な空気が出てくるところを探したが、さっぱりわからない。わかるのは土と人間の体臭だけだ。む?だれか香水を使っているな。
「ここ、ちょっとだけ変な感じがするわ」
母さんは壁の一箇所に違和感を感じたらしい。
俺は壁を叩いてみたが特に違いがあるとは思わない。
しかし、力をこめて押すとその石壁が外側に動いた。
「あった!隠し通路だー!」
「ありえん!何のためにこんなものがあるんだ!?」
バルフォアが驚きの声を上げた。
俺が石壁をぐんぐん押すと通路が斜め上に続いている。その先にぼんやりと光が見えた。
「ここになにか書いてあるわね」
壁には文章が彫られており、ミカが読んだ。
「えーと、『私たちはこの部屋を作った作業員だ。完成した後に私たちは口封じのためにここへ閉じ込められる可能性があったので隠し通路を作っておいた。見つけたやつは運がいいね』だって」
「うわー、ミイラの人たちはもっと調べればよかったのにな」
城の重要な施設を建設した職人を殺害し、秘密が漏れないようにするという話は俺も本で読んだことがある。職人からすればとんだ災難だが、彼らは薄々気づいていたのだろう。
「じゃあ、職人たちはここから抜け出したってわけか?」
「いや、そいつらは生きていない」
バルフォアが断定的に言った。
「俺が聞いた話では、この処刑場を作った職人たちは完成後に宴が開かれ、そこで毒殺されたと聞いている」
「うわあ……」
ご愁傷様ですと俺は言いたくなった。
職人たちの努力はある意味では無駄に終わった。しかし、そのおかげで俺たちは脱出できるのだ。職人たちよ、安らかに眠ってくれ。
「よし、出るか」
バルフォアが当然のごとく脱出しようとするので俺は肩をつかんだ。
「おいおいおい、バルフォアのとっつぁんよ。あんたは死んだ身なんだろ?今さら生きて脱出したいとか言うつもりかい?」
「ぐ……」
「帝国軍人の誇りはどうしたんだよ?え?」
「ぐう……」
バルフォア元将軍は俺から目をそらした。
俺はこいつが飛竜に乗って逃げた時のことを忘れていない。名前は忘れても恨みは忘れないのが俺の流儀だ。
「将軍様は死ぬ覚悟くらい出来てるよな?帝国軍人の誉れなんだよな?俺たちのような俗世の人間と違って腹が据わってるだろ。この期に及んでやっぱり助かりたいとか言わないよなあ?ん?んんん?」
「そ、それは……」
バルフォアの中で生存欲とプライドが天秤にかかっているようだが、俺はできればこの場に焼いた鉄板を置いて土下座させたかった。
本気で謝罪する気持ちがあるならできるはず!
「ねえ、たかし。勇者はこういう時に手を差し伸べるものじゃないの?」
「え……」
そう来たか、母さん。
確かに勇者の伝説に敵の幹部を焼き土下座させたなんてシーンがあったら読者は引いてしまうだろう。お前はどこの闇金の会長だと。それは勇者にふさわしい行いではない。
「アーサー、どうするの?」
「そうだなあ……。バルフォア、寝返る気はないか?」
「何を言う!俺は誇り高き帝国軍人だぞ!」
「じゃあ、ここに残るんだな?」
「寝返りはしないが、捕虜くらいにはなってやってもいいぞ!」
「ここで朽ち果てろ。ミカが出口を埋めてくれるから。なあ?」
「ええ!」
ミカは自信満々に黄金の杖を構えた。
今度こそ脱出不可能な監獄が出来上がるだろう。
「待て!わかった!知りたいことは全部しゃべるから連れて行ってくれ!」
「あっさり寝返りやがったぞ」
「クズ中のクズね」
「戦士の誇りはないのか!」
俺たち3人に糾弾されるもバルフォアは生き残りたくて必死らしい。
「ほ、誇りというが私たちは皇帝陛下の圧倒的な力に屈して従っているだけだ。望んで下についているわけではない」
「お前もそうなのかよ」
バルフォアもピノ将軍と同じタイプらしい。
こうしてバルフォアを連れて、俺たちは無事に地下監獄を脱出した。地上に出ると帝国領内の山中だとわかり、ミカが魔法で飛行生物を召喚して王国に救助を求めた。 2時間ほどすると商隊に偽装した王国軍が現れ、俺たちは眠り続けるミカの両親を馬車に放り込んだが、バルフォア元将軍をどうするかで問題になった。
猛毒を撒き散らせる男なんて馬車に入れたくないぞ。
「おい、これはどういう扱いだ!」
揺れる馬車の上からバルフォアの抗議が聞こえた。
拘束した上で馬車の上部に縛り付けるというもはやスカンクのような扱いだったが文句を言える立場ではないだろう。
「お前と同じ室内にいたら危ないだろ?」
「そうよ。ただでさえ地下にいたせいで臭いだろうし」
ミカがもう一つの理由を挙げた。
「く、臭くない!私は香水も使っているのだぞ!」
「あの匂いはお前だったのかよ!」
「香水などつけたら鼻が利きにくくなるだろう。貴様は軍人失格だ!」
イグドラだけが軍人の立場から叱った。
「きっと加齢臭を誤魔化したいのよ」
「王国に連行したらよく洗っておこう。城に野菜を洗う場所があるからそこを使わせてやる」
イグドラは掘り出した芋を洗うかのように言い、バルフォアからはちゃんと風呂を使わせろとかお湯に花びらを撒けとかしょうもない要求をするが、もちろん全て却下された。
「そうだ。なあ、バルフォア。お前は皇帝の能力や弱点を知ってるのか?」
「知らん。だが、魔力だけでもはっきり言ってバケモノだ。俺の父も将軍だったのだが、傷一つをつけるので精一杯だったと聞いている。今の私とほぼ同格だったはずだ」
「本当に強いんだな……」
さすが世界を支配しようとする魔王だ。
こりゃあ作戦をよく考えて戦わないと返り討ちにされるなと俺は思った。皇帝の部屋の前にセーブポイントはないだろうし、いざとなったら本当に母さんのサポートに頼るべきか?しかし、アーサー英雄伝説が……。
「でも、魔王さんって40年経ってるならすっかりお爺ちゃんじゃないかしら?」
母さんが不思議そうに言った。
「そう言われるとそうだよな」
俺も当たり前のことに気づいた。そいつがどんなに若くても60歳かそれ以上のはずだ。まさか不老不死の能力を持っているとか?実はほかの惑星から来た戦闘民族とか?
「我々もいずれは病気か老いで死ぬだろうと期待していた。だからこそ無闇に刺激せずにおとなしく従っておこうという空気が当時からあったのだ。しかし、その兆候がまったくない。不死身ではないだろうが……」
「若さを保つ秘訣でもあるかしら?羨ましいわあ」
母さんが羨望の詰まった声を出した。
俺たちは馬車に揺られながらバルフォアの知る情報をありったけ引き出したが、結局、やつが知っていることはピノ将軍と大差がなかった。
馬車は猛スピードで王都に帰還し、俺たちは入り口でスタンバってた国王たちからこっぴどく叱られた。
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