第3話 ヒーローの瞳はダ…
「もっと大きく書けよ!太くな!」
鈴宮博士はそう言い残すと会見場を後にした。
モニターには無人の記者会見用のステージとホワイトボードだけが映し出されていた。
ホワイトボードには太く大きく博士の名前が書かれていた。
『宮鈴』。
「あのハゲ、そんな名前だったっけ?印象ないなー」
ノブハルがカップ麺にお湯を注ぎながらつぶやいた。オレも宮なんとか?としか覚えてなかったから「なー」と気の抜けた返事をした。
画面はロケットの映像に切り替わり、テロップが『発射まであと20分』の文字を伝えた。
「20分じゃん!」
オレはつい大声をだしてしまった。
もうロケットに搭乗する時間だ!コイツがカップ麺とか作り出すからうっかり忘れるとこだった。
オレはブラックホールにミサイルを撃ち込むという危険なミッションに挑むパイロット・ヒデオ。コイツはオレの旧友ノブハル。発射前のオレを見送るため、ここへ来て、ガリガリ君を食べ、おまもりシールを貼り、しりとりをし、本を読んでくれた。そして今カップ麺ができあがるのを待っているのだが。
「…待てるか3分!」
「え?お前カタ麺派?あえて1分で食べるってのも聞いたことあるけど、俺はむしろ15分くらい待ってフニャフニャになった麺がこれまた…」
「派、じゃなくて!なんで今カップ麺なんだよ、って!」
「カラダが冷えたんだよ」
「じゃあガリガリ君持ってくんなよ!」
「お前の好物だろガリガリ君!」
「自分の分まで買ってくるから…!」
「じゃあカップ麺だけ買ってきたらよかったのか?」
「カップ麺がいらんっつうの!」
そんな言い合いをしていたら、壁のインターフォンが鳴った。
「はい、控え室」
あ、ノブハルがでた。オマエの控え室じゃないだろ。
「ん?あぁ、はいはい、じゃ、また」
ガチャン。
あ、ノブハル切った。
「おいおい切るなよ勝手に。司令室からだろ?早く来いって?」
「あぁ、偉そうにな!あの…なんとか宮だっけ?ハゲの博士。てめえだけの手柄みたいにデカデカと名前売り込みやがって。ヒデオは命かけてるんだっつうの!」
…ノブハル。
オマエほんとに心配してくれてんだな。ありがとよ。でもさっきの応答だとすぐに行くのか次の指示待つのか、どっちなのかわからないんだが。
「俺、昨日寝てないんだよ」
「そうなのか?オレは今日のミッションに備えてしっかり睡眠とったけどな」
「ヒデオ、お前のこと考えてたら寝れなかったんだよ…」
ノブハル…そこまでオレのことを…。
「だから朝までかかってお前の歌を作ったんだ。聴いてくれよ」
お、おぉ、もちろんさ。聴かせてくれよ。ノブハルは目を閉じて歌い出した。
「ラーララー、ララー」
ん?バラードなのか?そうか、夜中に作ったんだもんな、バラードになるよな普通。
「ララー、ヒデオぉー、おまえはおれたちのひかりー」
ビビー!
また呼び出しのブザーが鳴った。
「ララー、おまえのぉひとみはダ…あーもううるさい!」
ノブハルはインターフォンの受話器を持ち上げると「うるさいよ!」と言ってぶち切った。
「え、と…どこまで歌ったっけ?あぁ、ララー、だ。ララー、そんなおまえのー、うしろすがたをー」
ちょいちょい待てノブハル!うるさいってぶち切っちゃダメだろ!あとオレの瞳は何?ダ…何?
あせるオレを見てノブハルがしまったという顔をした。
「ごめんごめん、退屈だったか?夜中に作ったからかな、静かすぎるよな?でもな!こうゆう演出なんだよ、アレンジっていうの?前半抑えめで後半ガッとくるから!」
なら安心…じゃない、オレが心配してるのは司令室からの指示で…
「まぁ聴いてろよ。後半すごいから」
それは気になるが、ロケットの時間が…
「後半7分50秒くらいから突然ロックンロールだから!」
いやいやいや!ロケット飛んじゃうって!
ビビビビー!
けたたましく鳴る呼び出しのブザー音。
「オレがでる!」オレは受話器をもぎ取った。
「あぁ司令室ね!わかってるよ!すぐ行くって!」
ガチャン!
ついつい乱暴になってしまった…ノブハルの気持ちはありがたいがロックンロール部分まで聴いてたら地球が滅亡する。
オレは地球の命運を握っているのだ。
「とにかく、行ってくるよ。続きは帰ってきたら聴かせてくれ」
オレはドアノブを回して控え室を出た。
「絶対帰ってこいよ!絶対、後半ガッとくるから!」
閉めようとしたドアの向こうでノブハルが目を潤ませて叫んだ。
「楽しみにしてる…オレ、ヒーローになってくるぜ!」
「ヒデオ!おまえならやれる!とても小学生の頃『カビパン』って呼ばれて泣いてたやつとは思えないな…!」
オレは足を止めた。
なんつった今?
ビビー!
ロケット発射まで残り15分を知らせるブザーがまるで頭に響かない…ノブハルが口にしてはならないコトを口走ったのだから。
つづく
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