退職後編10話:清水君の死とラスベガスへ買い出し

 2011年の十月に転勤時代に一緒に仕事をしていた、かつての会社の後輩の

清水君が東京支店課長で赴任して来た。彼からの連絡で横浜で久しぶりに会い彼が

所長になり活躍した事や会社の方針で若手の所長登用の政策のため彼が部下なし

課長で東京に単身赴任で来る事になった話などを聞かされた。

 そして松本で購入した家が売れずに長い間、貸家していた事、最終的には安く

売らざるをえなかった事など、いろいろ聞かされた。

 ただ彼は北島とは違い、あまり自己主張が強くなく、それが彼の良い点でも

あったが彼が出世して営業所長になった時には自分の考えで引っ張って

いかねばならないので、いろいろ苦労した様だった。

 昔、北島は随分、彼の盾になって北島が上司と交渉したりしていた。

また愚痴を聞いて下さいねと言われ再会を誓った。

 2012年は株が下がってきて売買に忙しく出かけられなかった。


 2012年8月、村田製作所を400株、146万円、10月11日に

富士フイルムを1200株、150万円、11月5日にソニーを2千株、

156万円の合計452万円で購入した。


 そんな寒い日が続く冬のある日に清水君が出勤途中で新宿で倒れて心筋梗塞で

亡くなったとの一報が入った。前回会った時も自分が嫌なことは嫌と言えと

アドバイスしたのだが、彼の優しい性格が裏目に出て我慢を続けていたせいか

身体の方が先に駄目になったしまった。

 何と可愛そうな企業戦士の死だろうか・・・。昔の思い出が走馬燈のように駆け

巡るのだった。北島は上司と何回も口論して部下を守ってきたのは清水君も覚えて

おり会議で会って飲んだ時には、あの頃は良かったと慕ってくれた。

 そんな上司は時代遅れなのかも知れないが北島は上司の盾になって部下を可愛

がり彼らが何回もの業績表彰、給料上昇という形で恩返ししてくれたのを懐かしく

思い出した。数日後、新潟で清水君の葬儀に出かけた。葬儀に前の会社の連中が

多く挨拶はするが親しく話しかけてくれる人は一人もいない。

 いわば北島は彼らにとって疫病神見たいなものだったのかも知れない。

ただ清水君の奥さんは以前は大変お世話になりました、お加減はいかがですかと

聞いてきた。清水君の葬儀には這ってでも出なければならないと思い、

来たんですよと言うと涙ぐんで喜んでくれた。香典も奮発した。

 香典返しだけでは少ないので後日、何かお送りしますというのだった。

 昔の言い時代を共有した仲間には、できるだけの事をするのが信条ですと清水君

の奥さんに言った。ありがとうございます清水も喜んでると思いますよと、

また泣いたのだった。今の会社は、そんな古くさい仁義なんて不要の長物なの

かも知れないと思う北島だった。そして葬式を終えると会社の何人かが、お世辞に

飲みに行きましょうよと言う声を後に、さっさと新幹線で横浜に帰るのだった。


 2013年に、また、韓国、仁川からの直行便でラスベガスに出かけた。

 今回はハラーズホテルとベネチアンに4泊の旅行である。例によって

オフシーズンでファッションショーモールのメーシズでの買い物をメインに楽しむ

ことにした。ますハラーズホテルの部屋からラスベガスでも有名な火山ショーが、

すぐ前にみえる。ホテルのベッドは高く厚いベッドだ。

 ホテルそのものは古いが改装を繰り返している様だった。

そしてカジノの入口に、キュートでスレンダーでスタイルの良い、

 きれいなモデルさんが立っていて、お客さんと一緒の気軽に写真に入ってくた。

北島夫婦も一緒に撮ってもらった。その写真を見ると、その外人モデルさんの顔の

大きさと日本人の北島夫婦の顔の大きさが全く違い、まるでアンパンマンみたいに

見えるので大笑いをした。そして今回もベラッジオの噴水、パリス、

MGMグランド、ニューヨークニューヨークなどを散歩して回った。

 そしてモノレールを使ってストリップ大通りの南方面のルクソール

(ピラミッド型ホテル)、マンダリン・ベイを見学した。ルクソールに入って

みると形がピラミッドなので何か気分的に陽気になれない。マンダリンベイは、

さすがに水族館が有名で観光客も多く室内も洗練していて豪華ホテルという感じ

がした。ただ一つ気に入らないのは以前はラスベガスの豪華ホテルには日本人

大歓迎の看板があったらのが今回見ると中国人大歓迎に変わっており赤い大きな旗

が立っていた。商売人は金持ち中国人に多く来て欲しいのであろう。

 しかし中国の近くのマカオにラスベガスを超えるような、カジノ施設ができて

おり、そっちに流れている様で、そう言う意味でも中国人客引きに躍起になって

るのかも知れないと思う北島だった。その晩は、歩き疲れて早めに床についた。

 翌日はシルクドソレイユのショーを例のディスカウント・チケットショップ、

クオーターで80ドル(半額)で手に入れて見に行った。確かに真っ正面でなく

多少斜めの席だったが十分に楽しめ、あっという間の90分。

 世界中から体操選手を集めているせいか素晴らしい運動能力と女性のきれいな

脚線美と躍動感は、素晴らしい。日本でのショーでは2万円もする。

 最近はギャンブルよりショーや買い物、避寒に来るお客も増えてるそうだ。 

北島夫婦もその部類に入るが厳しい現実から、ひとときの息抜きをするには

ラスベガスは、もってこいの場所だと思う。ただ北島は砂漠特有の、

この気が好きで今後もできるだけ来たいと思っている。


 翌日はベネチアンのちかくホテルから無料ツアーバスで郊外のカジノホテル

のレジャー施設とショッピングモール半日めぐりに参加した。

 10時に集合して、バスで高速道路を1時間で、そのカジノホテルについた。

 ついて珈琲を飲んで併設してる小さなテーマパークで人工の動物の可愛い動き

などを見た。ちょっと子供向きあったが、観客に大いに受けていた。

 その後、ランチバフェ何と8ドルである、いくら何でも食事、デザート飲み物が

食べ放題のビュフェで、この値段は安いストリップ通りのホテルでは、

最低でも15ドル以上する。その後、女房が革製品のショップで足を止め

カーボーイ用の革靴や鞭や革の財布など、じっくり見て小さなバッグを買った。

 ちょっと堅いが丈夫そうだった。

 日本では、こんなしっかりした製品はないかもしれないと言った。

 喫茶店で休んでると高齢の男性が、やってきて英語できるかと言うので

OKと言うと話しかけてきた。彼はニューヨークの北側に住んでいて冬は二ヶ月も、

このホテル滞在するそうだ。ホテル料金は千ドル/月で朝食付きだとの事。

 あまりギャンブルはしないので月に2千ドルで充分足りると言っていた。

 朝も10時過ぎれば日が上がって暖かく長生きするには、一番良いと言い、

大きな病院が、すぐ近くにあるのも安心できる様だ。

 暇で困らないか聞くと、若い頃、一生懸命に働き金も貯めた。

 今は、好きな事をするだけだよと、たまにストリップのホテルに彼の友人が

来れば迎えに来てくるし、ちっともさみしくないと笑っていた。

しかしワイフが生きていれば、もっと楽しんだけどねと、しんみり言うのだった。

 北島は彼は強がっているが、さみしくて彼の奥さんを忘れに、ここに来てるのかも知れないと感じた。北島の奥さんも気さくに彼に質問をしていた。と言っても、

女房の日本語の質問を北島が聞いて、英語にして聞いたのだが・・、

以前どんな仕事をしていたのと聞くと金融関係の仕事でカジノよりも、

よっぽど危険な仕事だよと、にゃッと笑った。

 北島が自分も株やファンドをやってると言い基本はSP500ETFを

10年以上やってるというとビックリして、それがベストなやり方だよと

北島の肩をたたくのだった。 個別株は儲かったり損したりするが、米国株全体は

時間と共に上昇するんだと言い。その理由は米国は移民も多く消費意欲も高いから

必ず物価が上がるんだ。物価が上がるという事は土地、金、株、商品、全て値上がり

をすると言う事なんだ。だからSP500ETFの様な優良株の塊を持ち続ける

のが一番、確実に儲かるんだと力説していた。彼が夢の様に一晩にして大金持ちに

なったり金を失ったりする、お客を数多く見てきたんだ、だから時間と仲良くして、そのおっそをわけとして利益をいただくのが一番良いんだよ。

 だから神様が我々にお恵み下さるんだよと話してくれた。北島は、さすがに相場

の世界で長く生きてきた人の言う事は重みがあり説得力があると痛感した。

 一時間位、話し、帰り時間が近くなったので彼に礼を言いお別れした。

 彼が北島にグッドラック神のお恵みがあります様にアーメンと言ってくれた。

 しかし残念ながら翌年の2014年、北島は心筋梗塞で倒れるはめになるとは、

全く知らず、うれしそうにラスベガスを後にするのだった。

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