帰京編11話:過労で倒れ、退職と家のローン
また新しい年を迎えた。しかし、その年の春、北島が仕事中、交差点手前で
急にめまいがして路肩に止めて、めまいがおさまるのを待つと言う経験をした。
その足で近くの耳鼻科で診察してもらうとめまい発作が出ているから車の運転は
禁止と言われた。いつからめまいが始まったか聞かれたが良くわからなかった。
先生がとりあえず内服ステロイド薬のパルス治療(短期の大量療法)を一ヶ月
やってみると言った。これで直れば良いが、直らないと回復は無理かも知れないと
言うのだ。症メニエールは早期発見が鍵で発見から一ヶ月を過ぎてしまうと治らないケースが多いのそうだ。その翌月の勉強会で、ついに、北島が仕事中に強烈なめまいで倒れた。耳鼻科ではストレスによるメニエール(自立神経失調症)と言う事で運転禁止と安静一ヶ月の診断が出た。その後、山下君が自宅に見舞いに来てくれた。
そこで山下君が他の外資系の会社から好条件で入社の誘いが来ていると話した。
今の会社の薄情さは十分感じたので会社をやめようと思っていると話た。
北島は、それは君が決める事で何も言えないと言った。しかし北島さんが倒れて
も会社の人は一人も見舞いに来ないでしょ、あんなに北島さんが努力してくれて世話
になっても全く恩義を感じない営業所員、この会社が嫌になったと言った。
確かに病欠している一ケ月の間、会社から見舞いに来る人は一人もいなかった。
唯一、山下君が何回も見舞いに来てくれた。その後、北島先輩のいない、この会社にいても仕方がないので退社願を出したと言った。営業は義理と人情が不可欠で、
それがない人間は決して良い仕事はできないと山下君が言ったが北島もそれには同感だった。一ケ月後、出社して内勤に配置転換を東京支店長に依頼するが断られた。
営業本部長や以前の上司に、お願いしたが内勤は許可してくれず、やむなく
退社せざるをえなくなったのだ。その後、わかった事だが本社が関西であり関東と
いろんな面で反目しており売上が大きくても関東の上司の力は、それ程強くなく
本社の方の意見の方が、強かったのだ。また会社では等級制度があって北島の等級
と今までの業績、給料が高すぎて、東京支店で内勤するとしても支払う給料が、
社内規定で計算すると東京支店長と同等か越えてしまう事になるので本社の総務部
が強硬に反対したのが真相だった様だ。北島をかってくれていた社長も二代目に
替わっていた。横浜時代の所長も札幌支店長で役員になり損ねており、本社に
掛け合う力はなかった。東京の石井支店長も本社から睨まれたら今後の役員への
出世の妨げになる様で北島の盾になってくれそうもない。本社にいるはずの
営業本部長も出張中とか会議中とかで、しまいには居留守を使う始末だった。
全く、とりつく島がないのだった。北島の味方をしてくれる力のある上司が
いなかったのだけでなく、業績が良かった北島に対して、そねみやっかみなどを
持つ営業の先輩、同輩が多かった様で、かなり反感を持たれていた様でもあった。
これが営業の現実の姿なのかも知れないが何か一抹の寂しさを感じざるを得ない
北島だった。
「人生って華やかな時は、ほんの一瞬、崩れる時は早く、音を立てて崩れ去る。」
この出来事が、その象徴だ。人生、一瞬先は闇とは、よく言ったものだ。
退職の年は寝たり起きたりの生活が続いた。何しろ集中力が持続できない。
特に寒いのが良くないと言われ、沖縄、グアム、ハワイなどを旅行した。
確かに暖かい所で汗をかいている時は調子良いのだが寒くなると、又ぼーっ
としてくる。新居を構えて、さーこれからと言う時に体調を崩して早期退職を
余儀なくされるという事が起きたのだった。まさにこれは、北島にとって最大の
災難というか悲劇が襲ったのだ。さすがに北島の業績に対しては退職金に加えて
同額を特別慰労金として支給くれた。
退職金と特別慰労金一千五百万円づつ、合計三千万円。
ただ五十才の早期退職は、いくら何でも厳しい。残りの人生を考えると
金銭的な不安がぬぐいきれない。
退職時(1996年春)の北島家の資産は、自己資金:五千三百万円、
退職金:三千万円、合計、八千三百万円、家の購入費用八千万円、差額三百万円
もし家の費用を全額払うと三百万円しか残らない。まず体調の回復を最優先に自宅療養する事に専念した。最初の一年は何をしても、すぐに疲れて続かないの、
まるで廃人の様で、ひどい有様だった。頭、首を冷やさない様にして寝てばかりの日々が続いた。特に冬場は症状がひどくかった。翌年1997年から次第に回復の
兆しが見えだし就職試験をいくつも受けたが病気が原因で全て落ちた。
仕方なく投資でもするかと猛勉強する事を心に誓ったのだった。
大学生をかかえて家族五人で生活費、税金、家のローンをあわせて
年間五百万円以上かかるので、もし生活が厳しくなったら北島と奥さんの両親に
一千万円づつ、お金を貸してもらうようにお願いした。
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