帰京編5話:さおりママとの再会

 また新年を迎えた。また地道な営業活動が始まった。そんな時に思いもよらない

海外旅行のお誘いがあった。鈴木所長と、東京支店の事務の女性二人、池田さんと、吉村さんと、合計四人で、気分転換に寒い日本を離れて、南国のタイへ、二泊三日の旅へ出かけようという計画だった。誘われるままに了解した。

 一月下旬の出発だった。当日、成田空港を十三時に出発してタイ・バンコクまでの直行便で六時間、バンコクに日本時間十九時(時差が二時間だから)現地時間十七時に到着予定。順調に出発して機中の人となった。北島は酒を少し飲んで疲れもあったせいか、すぐ眠りに落ちた。女性達は大はしゃぎで、おしゃべりが続いた。

 途中で転勤した鈴木君と社員の話や仕事の話題で盛り上がっていた様で結局ずっと

起きていた。バンコクの空港に着陸三十分前に鈴木君が起こしてくれた。

 だいぶ、疲れがたまっていたと見えて熟睡だったねと、笑っていた。

 そして空港へ着陸、タクシーで、市内へ向かった。今回は奮発してマンダリン・

オリエンタル・バンコクを予約した。チャオプラヤ川に面した、歴史あるホテル。

 チェックインして部屋に荷物を置き川沿いのレストランで飲みながらディナーとしゃれ込んだ。まずビール、シャンパンで乾杯し、ちょっと甘辛いタイ料理を楽しんだ。川を行き交う船の明かりが、とても風情があって印象的だった。

 川面を渡る風も気持ちよかった。疲れが出たせいか女性達と鈴木君は食事を

終えたら、すぐ部屋へ帰りベッドに入った様だ。

 北島は飛行機で熟睡したせいか、もう少しホテルの近くをぶらついた。

 ホテルのコンシェルジュに日本人が行っても安全な飲み屋を聞いたら日本人が

経営してる人気のある店が五分位の所にあると紹介された。その店の名は沙織。

 店に入ると店員さんが、たどたどしい日本語で、いらっしゃいませと言い、

川面した窓側の席に案内された。ビールと、あまり辛くないつまみを頼むと言うと

野菜サラダと鶏肉の唐揚げをもってきた。まだ忙しい時間の様で店は活気があった。北島は、ゆっくり往来を歩く人の姿を見ながら、ちびちびとやっていた。

 夜十時を過ぎて少し、店もすいてきた頃、店員がママが来るからと知らせに来た。 暗いので最初は顔が良くわからなかったが近づいてきたら何と立川の行き

つけのスナックの、さおりママ、ではないか。北島と対面すると最初は、さおりママは、びっくりした様で困った顔をしていた。

 しかし気を取り直したのか今日はどうしたのと言ってきた。

 北島が、こっちが聞きたいよと笑いながら答えた。

 仕事三昧の日々で、疲れたので会社の連中と冬でも暖かいバンコクに遊びに来たというと彼女が世の中って狭いねと笑って言った。

 これも神様の思し召しかなと、ふざけながら話したのだ。

 そしてママと清水さんが博多港で車を乗り捨て船で釜山に渡った所までは、

わかったんだけれど、その後、全く消息不明で心中でもしたのかとか周りの人は

心配したんだと強い口調で話した。

 ごめんね、みんなに迷惑かけて、とかるく謝った。

 その後の事を聞くと最初は楽しかったけど香港へ行き数週間過ごし、

町が小さくて飽きてバンコクに流れ着いたと言うのだった。

 バンコクでは清水さんの方は日本語が通じないし、もちろん仕事もないので

飲んでばかりいる様になったと言っていた。

 彼女が持ってきた金も少なくなってきて喧嘩する日が多くなって最後は若い現地

の女と、どっかへ逃げたと言うのだ。

 そこで何とか生きていかねばならないのでバンコクの日本人富裕層の人をさがしては仕事を下さいと何回も頭を下げてお願いしそうだ。そして、前の日本人ママが体調を崩した店で、その代わりとして、この店に雇われママとして入ったとの事だった。

 今では何とか、まともなマンションと暮らしを手に入れたと喜んでいた。

 日本へは誰かに連絡しているのというと、両親はなくなり兄弟とも不仲で誰とも

連絡してないとの言っていた。何か身の上相談みたいになって暗くなったので

気分転換に歌い、また歌にあわせママと、また楽しく踊った。

 十二時になり、ママが店を閉めた。彼女のマンションが近いから、そこで飲み直

そうと言われ言われるままについて行った。

 こぎれいなマンションで二LDKで川風も感じ事のできる良い部屋だった。

 うまいウイスキーがあるからと出してきて、再び乾杯した。そして二時過ぎに

タクシーでホテルに戻った。翌朝、起きたのは九時になり鈴木君の出かけるから

起きろと大きな声で、起こされた。市内観光ツアー十時出発との事で、カフェテリアで、朝食をとりながら、ツアーバスを待った。女性陣から、どこで遊んだのとか、

いろいろ質問攻めに遭ったが昨晩の事は秘密にしておいた。もちろん鈴木君にも内緒にしておいた。市内観光は、お決まりの暁の寺(ワット・アルン)、

涅槃仏寺院(ワット・ポー)、王宮・エメラルド寺院(ワット・プラケオ)。

 昼食は、甘辛い、タイ料理。四時過ぎにホテルに戻り、ゆっくりしてから、みんなで夕食をとった。今晩が最後の夜だった。今日は、おとなしく過ごそうと決め、みんなと歓談していたが最初は話を聞いていたが、何か馬鹿らしくなって部屋へ帰った。そうしているうちに北島は今晩が最後かと寂しくなってきた。ママに電話しようかと、また北島の悪い虫が心の中で、ささやきはじめた。

 葛藤して二十分後、意を決してママの店に電話した。意外にもママも、北島から

の電話を待っていた。店を他の子に任せて待ってると言うので北島は、みんなが、

飲んでるホテルのバーから見つからない様に出ていった。

 そして店の近くでママが待っていた。彼女が今夜は任せてと言うのでタクシーに

乗り込んだ。着いたのは高級クラブの様だった。北島が高そうと言うと、たまには、

こんな所もいいわよ言うのだった。そこは個室形式になっていた。

 ある部屋の前で彼女がキーを出してドアを開けた。コンドミニアムの部屋の様な

作りになっていた。シャワー、風呂、ソファー、大きなテーブルと、冷蔵庫、

その冷蔵庫から、ビールを取り出し、乾杯し、冷蔵庫に入ってる、おつまみを出してきた。次に大好きなコニャックがあったので、飲んで良いか聞くと、ウイスキー、

ワイン、コニャックは、キープしてあるボトルだと教えてくれた。

 ヘネシーをロックでいただいた。おつまみの、サラミ、チーズ、サラダ盛り合わせも、豪華だった。彼女もヘネシーをロックで飲んだ。実は、ここはママに店を紹介し

てくれた、日本人の方のものだと言った。部屋ごと月極で借りてるとの事だった。

 上得意に、貸したり、接待に使ったりして利用しているそうだ。

 そして、彼女にも合い鍵を渡してくれたと言っていた。もちろん使った分は、支払いますがと笑って話した。でも日割りで考えると、決して高くないと言っていた。

 だた若い方に貸すと大乱交パーティになる事もあるそうよと、含み笑いを浮かべていた。すこしして、ママが、この所、男ひでりで、さみしかったのよと、息を吐く

ように、小さな、色っぽい声で、北島を誘った。

 彼女はスポーツ・ジムで鍛えて様な、素晴らしい身体だった。

 アルコールも手伝って、その夜は、久々の逢瀬を楽しんだ。

 その後、また飲み直し彼女の上気した顔には笑顔が戻った。

 さおりママが、あんた強いね、びっくりしたよと満足げに笑った。

 また後生だから、タイに遊びに来てよと、飛行機代も出すから・・。

 その言葉を聞いて、思わず吹き出した。

ほんとに勝手な事をいう人だ日本に残した友人たちが、どんなに迷惑を被ったか

反省の弁もろくしないで、また来てとは恐れ入った。

 いい女だけれど二度と関わっちゃいけないと心でつぶやく北島だった。

 帰る前に、シャワーを浴びて、別々のタクシーで帰った。

 翌朝は早く起きてタクシーに分乗して、バンコクの空港へ女性達は、

あいかわらず、にぎやかに話していたが鈴木君と北島、静かに目を閉じていた。

 空港で出発の手続きを終えて軽い朝食をとった。飛行機が出発して男性達は寝て

おり、女性陣は話に夢中だった。十六時前に成田に到着して大型タクシーに

分乗して、めいめいを下ろしながら帰った。

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