雪国転勤編9話:営業所新設と中信MPC冬の研修会 

 会社からの電話で今年の三月に、もう一つの念願だった松本営業所設立の

許可が下りた。どこに相談するか迷ったが最初に家のローンを借りた銀行に

相談した。松本では県内で一番の銀行が一流企業を選んで銀行の持ちビルに入居させる場合が多い。そこが一番格上だと教えてくれた。

 しかし、その銀行は当行ではないというのだ。そこで何とかしてほしいというと農協の知り合い紹介するから、そっちで聞いた方が良いと言われた。

 早速と農協の担当者に電話を入れてくれた。その名刺をもらい会いに行った。

 農協の窓口で要件を話すと担当の吉田部長が出てきた。

そして開口一番あなたは運がいい。ある会社が松本市の郊外の営業所から

松本駅前に移動する話が、さっき入ったばかりだと言うのだ。

 そしてジャパン製薬の北島ですとあいさつし名刺を渡した。

 あなた会社について確認してみるから少し待ってと言われた。二十分後、

確認は取れましたと言ってきた。その後、担当者が再度、紹介してくれた

銀行の方の名刺の裏を見て何だ、あなたがあの一軒家を買ったんだ。

 へー若いのに、あんな豪華な住宅を良く買えたねと驚いていた。

 不動産仲介というのは信頼関係なんで、知らない方と簡単に商売をするという

訳にはいかないんだと言った。しかし地方の営業事務所というのは物件が動かない

と困るし、今までの取引がない企業も心配だしと言っていた。

 そこで北島が車の中から大学病院で使っている薬のパンフレットや

企業パンフレットで売上高や純利益などを説明した。

 するとわかった取引できずに在庫抱えれよりは直ぐに新しい会社が事務所に

入ってくれた方が良いから紹介しようと言ってくれた。その事務所は長野県で一番

の銀行の物件。北島がローンを組んだ銀行は二番目の銀行だ。つまりライバル銀行だったのだ。吉田部長が意を決して事務所の持ち主の銀行に電話を入れてくれ、その

銀行へ行き事務所を借りる手続きの書類をもらってきた。

 その書類を北島が本社に送っり、数日後、その銀行から手続きが終了したので

来月から入居してくださいと電話連絡が入った。これでめでたく、

松本営業所が新設できた。

 この数年の北島のチームの努力が、花開き、ついに、実をつけた瞬間だった。


 夏が過ぎ九月の下旬に東京の支店長から松本営業所開設の祝賀会をするから

用意する様にと言われ当地に詳しい長野担当の清水君に上山田温泉での宴会の

席と宿を予約してもらった。当日、四時過ぎに支店長が、お見えになり、

ゆっくりと温泉につかっていただき、夜六時から念願の祝賀会が始まった。

 松本営業所の四人と支店長の五人で芸者さん五人がついてもらい宴会が始まった。乾杯で今夜は無礼講という事でみんな盛り上がった。

 芸者さんの歌や踊りが披露され、みんな喜んでくれた。

 そのうちに宴会がお開きになりカラオケに行く人や温泉に入る人芸者さんと

もっと遊ぶ人にわかれ楽しんだ。その後、清水君が支店長のお供をして面倒を

見てくれていた。後日談だが、支店長が、もっと芸者さんと遊びたいというので

清水君が一晩中つきあってくれる芸者さんの事を思い出し手配した。

 そして無粋だからという事で二人きりにした様だ。

 翌日、支店長が眠い目をこすりながら起きてきた。楽しんでいただきましたか

と北島が聞くと良かったよ、と言った。噂が耳に入る程、昨晩は大活躍した様で

支店長は満面笑みで上機嫌だった。つき合ってくれた芸者さんが、あんなお強い人

の接待は大変でしたわと笑いながら京都弁で清水君に話した。 

 北島が支払いはと支店長に伺うと会社の方に請求書まわしてと言っていた。

 詳しく聞くのは失礼と思い、お礼だけを述べた。その後、清水君の耳に支店長の

武勇伝が伝わった様で偉くなる人は元気でスタミナ抜群なんですねと言っていた。

 そう言う話は広がりやすいので、もちろん口止めしておいた。

 松本赴任の四年目は松本営業所を開設し売上も三年連続十%以上と絶好調だった。

 今年の臨時ボーナス百七十万円、報奨金五十万円と通常ボーナスが百二十万円、

給料が五百五十万円、出張+外勤手当が百四十万円、合計一千三十万円とついに

念願の一千万円を超えた。

 北島がプロの営業マンとして、やっと認められたのだと思うと数々の

苦労が走馬燈の様に頭の中を駆け巡るのだった。

 思えば身重の身体で転勤して一週間出張で家に帰れない日々を愚痴もこぼさず

 子供の病院、幼稚園、買い物、炊事、洗濯をして家を守った女房の給料も、

この中に入っているんだと思うと自然とあついものが、こみ上げてくるのだった。


 新営業所にができて、数日後、中信大学病院の久光講師から電話が入った。

 先月の学会で四国の先生から臨床データの効果判定にデータベースⅢを使う

方法をぜひ教えて欲しいと話してきたというのだ。ついては白馬あたりで

泊まり込みで研修会を開いて欲しいと言われた。四国の先生方は勉強会の後に

スキーと温泉も楽しみたいと言ってきたそうだ。総勢は中信大学病院の二人と

北島、四国の先生が三人の合計六人。至急、手配して欲しいと要請を受けた。

 以前、家族と行った白馬さのさかスキー場が頭に浮かび連絡し予約できた。

 年末の十二月二十六日から二十八日の二泊三日。当日早く大学へ行き機材を

パジェロに乗せて久光先生と佐藤先生の三人で出かけた。十時に着き宿に入り

大広間にパソコンセットを設営した。四国の先生たちは午後三時過ぎに着くとの

連絡が入り昼食をとって勉強会の進行の仕方やリハーサルをした。

 温泉に入り一休みしていた頃、四国からの3人の先生が到着した。A温泉病院の

泉先生、葉山先生、寺田先生の三人だった。まず泉先生が北島たちの作成した

データベース・データから、どんな事がわかるのか見解を聞きたいと言ってきた。

 早速データフロッピーをもらいディスプレイに表示し久光先生がデータベースⅢ

のデータに不備がない事を確認し知りたい所の項目で並べ替えをして見せた。

 対象となるデータだけを抜き出して更に他のいくつかの項目でデータを並べ換え

泉先生の希望するデータ整理ができた。彼らは喜んだのと、いとも簡単に、

やってのけたので驚いていた。その後、大きなデータベースから必要とするデータ

を分離するためのプログラムなどを実際につくって見せた。

 そのプログラムをフロッピーにして是非欲しいとの要望で渡す事にした。

 夕食は売店で買ってきて食べる間も惜しんで話は続いた。

 参考になる本の紹介や中信大学でのデータベースの利用状況なども紹介した。

 十二時過ぎまで勉強会は続いたが流れ解散となった。翌朝は十時から動き出した

朝食後スキーをしたいと言われ北島と若手の佐藤先生が四国の先生方にスキーの

基本を教えた。最初はゲレンデを歩く事から始めた。

 転ばないで歩ける様になった人は佐藤先生がプルークボーゲンを教えて、

なかなかできない先生を北島が指導した。昼食後も四国の先生方は夢中になって

スキーをしていた。その中の二人はリフトに乗って初心者コースを、

プルークボーゲンで滑り降りてきた。そして残りの先生もプルークボーゲンが

できる様になり初日のスキーレッスンを終えた。

 宿にもどり早めの夕食をとり昨晩の続きをはじめた。

 データベースの基本的な使い方は、理解した様で北島たちが持参したデモデータ

を使い久光先生が練習問題を出して四国の先生方に考えてもらった。

 理解が早く、すぐにマスターしていった。持参したデータベースの参考書を

ぜひ譲って欲しいとの要望だったので売って差し上げた。

 夜も更けて勉強会はお開きになり宴会となった。中信大学はパソコンの使い方

では、すごいレベルですねと驚いていた。

 久光先生が北島に気を遣い北島君が、いろんな資料やデモデータをもっていて

利用させてもらい、ここまで来たんだと言ってくれた。

 翌日は吹雪模様だったので四国の先生方は十時過ぎに宿を後に北島と久光先生が

パジェロで最寄りの駅までお送りした。泉先生から、また教えてもらい事があったらメールしますから宜しくと言っていた。本当に喜んでくれた様で帰り際に駅で

北島達を交代でハグしてくれた。久光先生から中信大学病院でも勉強会を計画した

方が良いという話が出た。早速、先生方の時間のある夏休みとか冬休みで調整して

みるから、その時は北島君手伝ってくれよと言われ快諾した。

 また新年となった。また今年も元日に初詣をした。初出勤の日、

恒例の善光寺参りで昨年の年収は全員が過去最高だった様で喜んでいた。

 また松本に営業所ができて今年は仕事を頑張るぞと士気が上がっていたの言う

までもない。今年は昨年以上に大学病院や派遣病院でも当社の営業マンと

先生方の関係は密になり業績も順調に推移していった。

 久光先生から夏休みに諏訪で中信メディカル・パソコンクラブの勉強会をしたい

との話があり八月盆過ぎ二泊三日で計画したいとの事だった。

 そこで早めに予定日の前後も含めて五泊分、三部屋予約して欲しいとの事であり

早速、手配した。ちょっと格落ちの旅館だが、何とか予約が取れた。四国の先生も

行きたいと連絡があった様だった。中信大学から、若手中心に勉強したいとの話が

あり総十~十五名くらいになりそうだとの話だった。

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