雪国転勤編8話:家購入とサリーとの別れ
北島の奥さんの友人の建設会社の社長夫人が北島家を訪ねてきて松本南部の
郊外に豪華で格安の物件があるから見に行こうと言ってきた。
大学病院から車で三十分の閑静な住宅街、建築して二年目の物件で土地が
百四十坪、建物が五十坪で三台分の駐車場付き最寄り駅まで車で五分、徒歩十五分。
週末に行った。豪華で吹き抜けの玄関にシャンデリア、六LDK、お風呂は大型
浴槽。ガラス戸は全部二重サッシ、一階は大型窓が二カ所、リビング・ダイニング
は南向きで広々十六畳、八畳の和室、大きなウオークイン・クローゼット、
作り付けの大型靴箱、大型の押し入れと十分収納施設も備えている。
二階は南向きの洋室が四つ。総額六千万円の提示だった。
数回の値下げ交渉で五千万円で良いと言ってくれた。
実は後でわかった事だが建主の会社社長が不当たりをくって、買えなり、
その後、地元の相場に比べ高過ぎるので一年以上買い手がつかなかった様だ。
北島は最終的に四千六百万円を提示。担当者が会社に持ち帰って建設会社社長と
相談して許可が下りたら連絡すると言った。翌日、担当者から了解の電話が入った。
今度は銀行で頭金と支払いの話になり急に雲行きが怪しくなった。
勤務先、年齢、役職と年収など具体的な話となった。その時まず会社の事を
聞いてきた。上場してない事を話すとそうですかと暗い返事がかえってきた。あなたの、ご出身はと聞かれ横浜ですと答えると県外ですか・・ では頭金は半分以上
お持ちですか? 質問、攻めにあった。頭金は一千万円位では、どうですかと
北島が言うと、笑いながら、そりゃー無理だと。県外の人に、そんな大金を
融資してくれる銀行はないよと言った。
ところで担当者が北島と奥さんの両親は何をしてるのと聞くので女房の父が
会社を経営していると答えると担当者の顔が急に明るくなるではないか、
もっとそれを早く言ってよと言うのだ。電話番号聞かれ確認された後あれだけ
嫌な顔していたのが上機嫌にかわり商談成立となった。
北島が担当者に詳細を聞くと大丈夫ですの一言。無事、購入となった。
その後、銀行でローンの相談。北島さんなら一千万円までしか貸せませんが
奥さんの両親が保証人なら五千万円まで貸せると言うのだ。
これで松本に、あこがれの戸建てのマイホームを手に入れた。
しかし、その後、冬将軍との闘いや凍結、湿気との対決が待ち構えている事を
想像できない程、夢ごこちの北島だった。この冬、松本の厳しい冬将軍の攻撃が
容赦なく半年も続いた。灯油の消費量が多く厳寒期は五百リットルの屋外タンクを
満タンでも一ヶ月持たず補充する有様だった。
家の庭には巨大な霜柱がびっしりと立った。
引越して近くの小学校と保育園に入学、入園の手続きを取った。
女房がローン返済のために働かかなきゃ大変でしょと言い、近くの大手電機
メーカーの工場の下請けの会社に就職した。朝八時に北島が一番下の息子を保育園
に送り、すぐその後、小学校の娘と女房が家を出る。
また夕方、小学校の娘が交代制で一番下の弟を保育園に自転車で迎えに行く
生活が始まった。四~五月の桜のシーズンになって朝の霜がなくなると若葉が
芽を出す良いシーズンが始まる。
女房も働いて数ヶ月たって何人が友人もできた様で楽しく働いていた。
夏が過ぎて、実りの秋、駆け足で寒いシーズンが追いかけてきて、頭の痛い、
霜のシーズンがやってきた。今年の営業所の忘年会は松本城の近くの「しづか」
で一次会して二次会はスナック中町、ゆかりママの所へ行った。
ここまでは例年通りたっだのだが、そこへ珍客が現れたのだ。
その珍客とは英会話教室のサリー先生だった。何でも今年いっぱいで
カナダに帰るので、その挨拶に来たと言うのだ。
それを知ったゆかりママが気を利かして呼んだ様だ。そして北島が会社の仲間に
サリーを簡単に紹介した。しんみりとした送別会にしたくないので陽気に飲んで
歌って大宴会となった。また、いつもの様にサリーは、かなり飲んで上機嫌だった。
ついに北島の事を英会話学校でのニックネーム、ミスター・ノーと呼び始めた。
英会話教室でサリー先生が生徒に意見を聞くと日本人の生徒はYesと最初に
言ってから話し始めるの人が多かった。しかし北島はつむじ曲がりで最初にNoと
言ってから話を始めるので、ついたあだ名が「ミスター・ノー」なのだ。
サリーの北島への第一印象は奇妙な日本のサラリーマンだと映ったらしい。
しかし親しくになるにつれ、率直にものを言う頼れるお兄さんになったそうだ。
そしてサリーが祖国、カナダに帰る理由を聞くとサリーの恋人が監獄から出所
してくるからだと言う。詳しく聞くと喧嘩で怪我させた相手が、よく調べてみた
ところ、お尋ね者で更に相手の方が先に殴ってきたことが判明したと言うのだ。
そのためサリーの恋人の懲役五年が一年に短縮された様だ。サリーは、ちょっと
前まで中国人、韓国人、日本人の区別もできない様なカナダ人だったと言った。
しかし日本に来て日本が先進国である理由が日本人と接して良くわかっとの
言うのだ。勤勉で人に優しい良い人ばかりだと言ってくれた。
サリーのスピーチは、とても面白かった。北島はグラマーな女性がタイプで
サリーはタイプじゃないと言った事をいつまでも根に持っていた様だ。
この話を会社の仲間が聞いて大笑いしていた。
サリーは自分のスピーチが受けたと思い大はしゃぎだった。
タクシーでサリーを送って帰ろうとした時、サリーが運転手にちょっと待ってて
と言い、かがんで、もたれかかる様にして北島をハグしてながらキスをしてくれた。
その時のキスの味は一生忘れないだろう。そんな思い出と共に新年を迎えた。
今年も営業メンバー全員で善光寺参りをして仕事始めとなった。
それぞれ、お参りをした後、昼食をとりながら今期は昨日までの実績で
全国二位の伸び率である事を報告した。あと一歩で全国トップになれるので
頑張っていこうと言うとみんな、やる気満々だった。
中信大学病院でも学会のスライドつくりにMACが大活躍していた。
北島は先生方からの質問も多く手際よく、多くの先生に教えて回った。
返ってくる反応も良くまた頑張って使うからねと笑って答えてくれる先生が
多くなってきた。大学も派遣病院も売上は順調。
そしてニ月に売上コンクールで、ついに、伸び率トップとなった。あと一ヶ月
トップで逃げ切れば支店長の接待と営業所立ち上げが現実となる。いつのまにか、
信心深くない北島も、この時は近くの神社に願をかけに行った位だ。その甲斐
あって、この年は、ついに伸び率、全国トップを手にしたのだった。
松本赴任の三年目は臨時ボーナス百六十万円、報奨金が五十万円と通常ボーナス
が百十万円、給料が五百万円、出張+外勤手当が百二十万円、合計九百四十万円と
過去最高だった。もう少しで年収一千万円だ。
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