雪国転勤編6話:長岡の友人が遊びにきた。

新年は近くの神社に家族全員で初詣をした。

 長女はスキーがうまくなります様、さんは北島の交通安全と家族の安全を北島は

仕事が、うまくいく事を、それぞれ祈った。

 昨年、県内の営業担当者が全員、初出勤の日に長野の善光寺で初詣をしたが、

今後、恒例行事にする事にした。各自に連絡し十時に善光寺で待ち合わせ、

お参りをし参道のそば屋で一杯飲みながら今年の抱負を語りあった。

 若手は今年の目標達成と特に指定した対象品の売上を伸ばしたいと具体的だった。

 北島は営業成績コンクールで全国トップになって東京支店長か営業本部長と

長野県チーム全員で上山田温泉で芸者さん付きの派手な宴会をする事を目標に

したいと会議をしめた。午後二時過ぎ、お開きにして流れ解散。

 北島は善光寺前通の店の、うまい酒まんじゅうを土産に帰路についた。

 そして今年も営業活動開始となった。翌週、得意先に新年の挨拶を一通り終えた。

 今年も四月が過ぎ五月になり女鳥羽川沿いで花見を楽しんだ。

 突然、運転中にポケベルがなった。あわてて近くの公衆電話から指定の電話番号

にかけると長岡での送別会に来ていた栄子が出た。久しぶりといい用件を聞くと

今週金曜日、長野の善光寺に友達と行くけれど近くで会わないかと言うのだ。

 そこで長野駅近くの喫茶店に十時に待ち合わせた。意外にも彼女一人。

 友人はと聞くと二日前に来て今日別れて先に長岡に帰ったそうだ。

 北島が今日は仕事だから少しつきあってというと、わかったと答えてくれた。

 栄子は温泉や高原へ行きたい言った。そこで早速、営業車に乗って上田に

向かった。そこで昼間レストランで栄子を一時間ほど待たせ仕事をしてきた。

 その後、菅平高原へ経由で小布施へ向かった。今晩は湯田中温泉を予約して

おいた。戻ってくると栄子はカメラを用意し撮る気満々だった。

上田城を見て涼しい菅平高原をドライブして小布施についた。

葛飾北斎の天井絵で有名な岩松院や葛飾北斎記念館を見学し桜井甘精堂で有名な

栗おこわセットを食べた。おこわは栗の甘さと、もち米の固さが絶妙で非常に

おいしい。同じお店の喫茶店でモンブランと紅茶のセットを楽しんだ。

 これには栄子も非常に喜んで、こんな、おいしいモンブランは初めてだと言った。

 この紅茶も合うねと上機嫌だった。その後、予約しておいた湯田中温泉の歴史

ある木造の宿へ向かった。チェックインを済ませ石の露天風呂に入りに行った。

 この宿は大きな風呂が五つもあるから何回も違うお風呂を楽しもうと栄子に

言った。楽しみだわとの反応だった。

 ゆっくりと風呂を楽しみ帰ってきてビールで乾杯した。

 これは、たとえ様のない旨さだ。栄子の上気した顔がやけに色っぽく見えた。

 その夜は、ご想像の通り久しぶりの逢瀬を楽しんだ。翌朝は、ぐっすり眠れた

せいかスッキリ目覚めた。朝食をいただき外湯巡りに繰り出して二ケ所ほど回った。

 ゆっくり喫茶店で、お茶をして、お土産を買って、昼頃に宿にもどり

チェックアウトを済ませた。

栄子は喜んでくれ本当は、もっと長く、いたいんだけれど、あんまり迷惑かけちゃ

いけないから今日帰るよと言った。本当にありがとうねといった。

 こんな楽しい一日は生まれて初めてといった後、大きな声で泣き始めた。

 北島は困って人目も気にせず彼女を、ぎゅっと抱きしめた。

 北島のスーツの腕が栄子の涙で濡れているのがわかった。

 早足で車に乗り豊野駅に向かって走り出した。車中では栄子は最近、嫌なこと

ばかり起こって、ふてくれていたと言った。

 これで何とか明日から立ち直って生きていけるわと喜んで満面の笑みを

見せてくれた。もー来ないから安心してと言った。 

 でも北島さんが転勤する時に、またお別れに来ようかなと、いたずらっぽく

笑った。突然指切りしてと言うので北島は、指切りをした。

 その時が来たら絶対に、お別れするからと、また泣いた。

 一時間位で豊野駅に近くなり、お昼も近くなったので近くのそば屋に車を

止めて昼食をとる事にした。栄子が、ここのそば硬いねと言った。

 店の人が、うちの店は富倉そば、なんだよと言った。富倉蕎麦は山牛蒡の繊維を

つなぎに使った色の濃い蕎麦で、それで硬く感じるんだよと教えてくれた。

 でも富倉蕎麦旨いだろうと言った。北島が信州に旨いものなしと言うが、

そんな事はないんだよと言い、実は地区ごとに、いっぱいあるんだ。

 ただ信州の人は商売上手じゃないから全国には、知られてないんだと言った。

 地元の人は格好をつけて宣伝しなくても黙って食えば、わかるんだよと思うのか、

派手に宣伝しないのさ、と言った。いよいよ別れの時がきた。栄子が別れがつらい

から見送らなくて良いよと言ったが、そう言う訳にはいかないとはねのけた。

 列車が見えて栄子が乗り込んだ窓を開けて大きく大きく、

ちぎれんばかりに手をふった。また、やはり大粒の涙があふれていた。

 その光景を見ていると思わず北島の目にも涙が浮かび、あふれ出すではないか。

 もう恥ずかしさんなんか忘れ列車の姿が見えなくなるまで手を振って見送った。

 未だに雪をかぶった北信五岳(飯縄山、戸隠山、黒姫山、妙高山、斑尾山)が、

この二人の別れをじっと見届けてくれたのかもしれない。

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