雪国転勤編5話:英会話のサリー先生との出会い

 週に二回は、中信大学病院の医局を訪問し、事務の女性に、

 たまに手土産を持参し情報収集の活動を継続していた。

 そこで個々のお医者さんの個性、趣味、強み、弱みを丹念に手帳に書き込んで

一人一人に食い込んでいく様に活動した。

 北島は昔、少しテニスをした経験があり医局の吉田講師が、たまに医局の若手や

看護婦と松本市内の屋内テニスコートでテニスを楽しんでいるという情報を

得て参加したいとを話すと、いいよとの返事が返ってきた。

 ちょうどコートを予約したりメンバーの出欠を取る人が欲しいと思っていた

ので、大歓迎だと言われた。そこで週に一~二回、参加する様になった。

 そして、月に一回、テニス大会を開き商品は各自持ち寄りとした。

 その中で豪華なものを順に、優勝、準優勝、三位の商品としたのだ。

 大会終了後は有志で、ゆかりママの店で祝賀会をするのが恒例となっていった。

 ただ、その際に交際費を使うのではなく、ジャパン製薬のウイスキー、

焼酎ボトルの飲み放題サービスをするだけにしたのだ。

 そしてテニスクラブの先生方の強いサポートで業績も順調に伸びてきた。

 翌日の朝、電話で北島に松本に優秀な後輩が一人増員になるとの連絡が入り

少し楽になると感じ内心喜んでいた。

 夏に待望の一年下の後輩の吉永君が大阪から赴任してきた。これで長野県は四人

で全県を担当する様になった。吉永君に北信地区と上田を担当してもらい市場規模

の大きい長野市周辺を清水君に担当してもらう事にした。もちろんスナック中町の

はるみママの店で歓迎会を開いた。その席で北島の方から長野県に数年後、営業所

をもてる様に頑張っていこうと話し全員で乾杯した。

 全員が、その意見に賛同してくれ、はるみママも頑張ってねと言ってくれた。

 これは、あくまでも個人的な考えだが長野市など北信地区は新潟に近く県内

では、よそ者に対して比較的寛容で商売がしやすいと予想した。

 その予想通り北信地区にいち早く増員して北信、長野市内の業績が

長野全県の売上をリードしていった。苦戦している中信大学病院、松本、佐久を

北島が担当した。特に大学病院での情報収集と仲の良い先生を一人でも多くする

ために、いろんなグループとつき合う様にした。北島がパソコンの事で個人的に

急に親しくなった久光講師は北島と同じNEC9801を中心に使っていた。

 久光先生は医療にコンピューターを利用する時代がきっと来ると注目していた。

 北島も横浜時代にデータベースというのが患者管理に使えると言う論文も

知っており、その情報を久光先生に話すと注目してくれ、光先生の部屋に

出入りする様になった。論文のコピーを渡し米国で有名になっていた

データーベースⅢの本も数冊、貸してさしあげた。

 すると久光先生は、それを読んで、これだ、これを利用して行こうと言った。 

 北島のデータベースⅢを使ったプログラムを見て、すごいねと言った。

 久光先生の求めていたのは、これなんだよと非常に喜んでくれた。

 医局全体でもカルテの電子化に動き出していて、その中心人物が久光講師だった。そして十月に会長を久光講師、事務局長を北島が担当する事で

中信大学メディカル・パソコン・クラブを設立した。

 参加ドクターは若手中心で五人で始まった。その後、このグループが当社の

営業成績をグーンと伸ばしてくれる原動力になってくれるのだった。


 GOS英会話教室に十月から新しい先生が赴任してきた。カナダ出身の

サリー先生、長身で細身の美人。数日後、彼女の歓迎会を近くの居酒屋で行った。

 活発でお酒も強く楽しいタイプ。調子にのって二次会に誘うとついてくると言う

のでスナック中町へ行った。ゆかりママはびっくりして目を丸くして出迎えてくれ

、二次会は清水さんとサリーと北島の三人だけだった。

 サリーがアバが好きで何曲も歌った。声もきれいで上手だった。

 そしてかなり打ち解けたのかサリーの身の上話まで出てきた。

 サリーは訳あって好きな男性と別れて日本に来たという。

 もう少し詳しく聞いてみるとサリーの恋人は185cm100kg以上の

大男で悪い人ではないのだが飲み過ぎると喧嘩をするのが欠点だった。

 ある日、地元のパブで喧嘩をし相手を入院するほど殴ってしまい監獄送りに

なった様だ。この話には、みんな、びっくりした。

 少しして、ゆかりママが、サリーと流暢な英語で話し出したのだ。

 ゆかりママが、サリーに、その気持ちよくわかると言い出して意気投合した。

 そして、また悩み事があったら北島さんに連れてきてもらってねと言った。

 サリーの連絡先まで聞いていた。また辛い事が、あれば電話していいよと

言ったのだ。それにゆかりママの英語が上手さに驚いた。

 北島が、ゆかりママにも何か秘密があるなと、それとなく理由を聞くのだった。

 ゆかりママが昔、横浜で米軍の若者と仲良くなって結婚を夢見たが、その彼が

米国に帰ってから戻らなくなり音信不通となった苦い経験をしたらしい。

 その時の辛い経験がサリーの気持ちに共鳴したのだ。その後、サリーは、

ゆかりママと二人で長々と話していた。

 サリーは、よっぽどうれしかったのか最後はママーと連呼して泥酔した。

 帰る途中でサリーが北島に、どんなタイプの女性が好きなのと聞いてきたので、

女性はグラマーで色っぽい人が好きだと答えた。

 サリーは、酔った勢いでサリーの事なんかどう思うと言ってきた。

 そこで北島はサリーは、きれいで素敵だと思うけど残念ながらタイプではないと

言ってしまった。するとサリーは怒った目で北島に向かって「ミスター・ノー」

は見る目がないと言った。泥酔していたので仕方なく北島と清水さんでタクシーで

彼女のアパートまで送った。北島が彼女を肩に担いで清水さんが鍵を開けベッドの

上に下ろして帰ってくる羽目になった。翌日は体調不良と言う事で英会話学校を

休んだそうだ。今年も大晦日を迎え、また年が明けた。

 松本赴任一年目は臨時ボーナスも六十万円、報奨金ゼロと、通常ボーナスが

八十万円、給料が四百二十万円、出張+外勤手当が七十万円、合計六百三十万円

にまで減った。北島は売上が落ちると収入が減る悲哀を感じた。

 悔しさと共に来年こそ長野県を売上を増やすぞとファイトがみなぎるのだった。

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