雪国転勤編4話:松本への転勤とエピソード

 新潟から長野県松本市への転勤の社命が出てから担当交代の方法に

ついて具体的な検討を始めた。その結果、県境に近い十日町で夕方の仕事を終えて

、その日のうちに長野県飯山市へ入り宿泊し翌朝、長野経由で松本へ移動して

担当交代をする事にした。

 若いからできる事で仕事を終えての移動は強行軍だ。四月初旬に担当交代が始

まり走行距離一万キロを超える月が増えてきた。長野県は、一年先輩の南信担当の

吉川君と、三年後輩の北信地区担当の清水君と北島の三人。長野県での北島の

担当地区は松本市を中心に上田、佐久と山間部を担当。

 最初、長野の冬は新潟に似ており安心した。しかし、いくつか違う点もあった。

 新潟では地下水をくみ上げて融雪パイプを通して流していたが、長野ではそれは

見られなかった。多分、気温が低くて、凍ってしまうのだろうと推測できた。

 長野では旨いそば屋が多くリンゴをはじめ、ぶどう、もも、なし、など、果物が

おいしかった。それに高原や湖、観光地も多く温泉もあり非常に良かった。

 また仕事する上で長野が新潟と違う点は、よそ者に対して厳しいと聞いた。

 それは、その後仕事をする上で非常にやっかいな問題としてのしかかってくる

事になる。考えてみると新潟は長い間、上杉家が治めており戦も新潟県内では

少なかった様だ。その為か人を信用してくれるやさしい気風があった様に思える。

 対して長野県は川中島の戦いで御存知の通り越後の上杉と甲斐の武田の

激しい闘いが続き、よそ者を信用しない気質になった様だ。

 うかつに信用して裏切られた歴史があるのではないかと推測する。言い訳の様に

聞こえるかもしれないが市場開拓に時間がかかる原因の様に思えてしかたがない。

 また長野から大学病院のある松本に移動する時に感じたのだが筑北村から

明科トンネル当たりで日本海側の気候から太平洋側の気候に変わる様な気がする。

 それというのは冬場、長野方面から明科を過ぎると、寒いけれど雪が少なくなる。

 トンネルを過ぎると、そこは雪国だった、あの情景に似ている。


 転勤のため松本での借家捜しを始めたが、なかなか大きい家が見つからず

困っていた。 三DK以上で倉庫があって中信大学から近い物件を希望していた。

 ここでは二DKマンション迄の物件が多い様だ。当社担当の不動産屋さんに良い

物件があれば電話してくれる様に手配した。数日後、電話があり酒屋さん息子さん

の家が息子さんがマンションに移るので大きな貸家が出そうだと言ってきた。

 二階建て五LDK、築二十五年、屋内ガレージつきで家賃が月に十万円。

 今日午後三時に、その借家を見にいった。そこへ着くと中信大学病院まで

徒歩十~十五分と理想的な所で家の大きさも十分。翌日大家さんと面会して挨拶し

会社契約で屋外の駐車場込みで月、十一万円で借りる契約を結んだ。

 引越は一ヶ月後と言う事で決定。ただダイニングキッチンが北側で寒いのが

難点だが、その他は問題なしだった。五月初め八トン車一台で引越してきた。

 家族はパジェロで近くの温泉宿に泊まり翌日、北島と女房で荷物の搬入の

指示をした。一日がかりで家財の搬入が終わった。

 大型のファンヒーターを一台、買い家へ持ってきた。大家さんが来てくれ家の

風呂トイレ、その他の使い方を教えてくれた。

 翌朝は冷え込んで朝起きてダイニングキッチンで料理をはじめた女房が

寒い寒いの連発だった。ファンヒーターをそばに置いても足だけ熱いが

上半身が寒いと厚手のセーターを着て、何とか寒さをしのいだ。

 昨晩も寒く特に早朝は新潟より確実に寒い気がする。

 そこで翌日からファンヒーターを二台、女房の左右においてつけた。

 これでやっと早く部屋全体が暖まる様になった。しかし十二畳ほどの

ダイニングキッチンに冬場は全員集合という事になりそうだった。

 そこでテレビも移動し、広い五LDKの借家を借りた意味がない。

 寝室とダイニングキッチンで過ごす事になりそうだ。

 引越が完了して小学校と幼稚園の手配を終えた。春に松本に来て一年が過ぎて、

やっと慣れた頃、中信大学で若手の君島先生が英語で文献を書いたり海外の学会の

為に英語を習っているというのを小耳に挟んだ。

 北島も英語は好きで小さい頃、牧師の息子と遊び回った記憶が思い出された。

 そこで、また英会話を習ってみたいと思い駅前のGOSを見に行った。

 若い人特に女性が多く華やかな感じだった。ビルも新しく景色も良かった。

 そのため早速、入学の資料をもらった。会社の仲間に週に一回通う事を話したら

至急の時に連絡を取れる様にしてくれれば良いですよと言われた。そこで来月から

行く事し、仕事が比較的暇な木曜日の夜、七時から八時のコースにした。

 もし都合が悪い場合、その後、三ヶ月以内に振り替えも可能で便利だった。

 最初にクラスを分けのテストを受けAクラスに入った。メンバーは五人で

銀行の勤めの女性・聖子さん、女子大生・さゆりさん、元商社マン・清水さんと

TOEIC大好き三十代後半の主婦・牛島さんと北島だった。最初は緊張して、

しっかり勉強していたが、しかし時間が達つと慣れてきたせいか飲み会が多くなり

月一のペースで参加した。場所は駅近くの料金の安い地下の居酒屋が多かった。

 外人の先生は稀に来る程度でお酒に弱い様だった。良く参加するのは

元商社マン・清水さん、女子銀行員さん・聖子さんと北島だった。

 新年会、忘年会、納涼会、お花見、歓送迎会と、ほとんど毎週出かけた。

ある時の飲み会に何と違うクラスの中信大学病院の君島先生が来る事になった。

 彼は、みんなに自己紹介し会釈して席についた。北島が彼に仕事の話は内緒と

軽く耳打ちした。その店は清水さんの知ってるスナックでカラオケもあるし少し

踊れるスペースもあった。メンバーは女子大生以外は全員来た。全員で五名、

清水さんは例によっていろんな酒のうんちくを語っていた。

 すると牛島さんと聖子さんは流行歌を歌い始めた。最初はビールで乾杯その後は

清水さんのキープしているウイスキー焼酎は飲み放題だと言ってくれた。

 北島は清水さんに、お礼を言ってウイスキーを飲み始めた。

 そして仕事の関係で今年から松本中心に仕事するんですが素敵なママのいる

スナックを紹介して欲しいと話しかけた。

 清水さんに業種を聞かれ医薬品メーカーというと安っぽい所は、だめだよね。

 ちょっと難しいねと言い、この店のママにでも聞いてみたらと言われた。

 そこでママに手が空いたら来て欲しいと伝え、少ししてママが来てゆかりです

と挨拶してきた。さっきの話を清水さんがしてくれ、安っぽくなくて、それでいて

同業者があまり来ない店ね。ちょと待ってノートを持ってくるからと言った。

 一番にぎやかな通りでは同業者が多いからダメ。ちょっと離れて駅にも近く

タクシーも捕まる所、はるみちゃんの店が良いかもしれないと言ってくれた。

 そして実務的な話になってツケ払いですかと聞かれ現金かカード払いというと、

それならいいわと言い早速電話してくれた。そして名刺を渡しておいた。

 そんな話をしていると君島先生が、ちゃっかりと聖子さんと牛島さんの席の

間に入り込んで、うれしそうに話し込んでいた。その後、君島先生がイーグルス

の、デスペラード、ホテル・カリフォルニア、ビートルズのレット・イットビー、

サイモントガーファンクルの曲を立て続けに歌いまくった。

 特に独身、女子銀行員の聖子さんが、その姿をうっとりと見ているのが

とてもほほえましかった。

 やがて、お開きになった時ここのママが、ちょっと待ってと言った。

 少しすると後は店の子に頼んだから紹介した店に一緒に行こうと言った。

 清水さんが面白そうだから、ついて行って良いか聞くので、ええ、もちろんと

答えた。タクシーで5分で駅前と一番の繁華街の中間の所の商店街の中に

スナック中町があった。

 ゆかりママが今晩は新しいお客さんを連れてきたわよと北島を紹介してくれた。

 お客さんは一組だけで離れた席で話する事にした。まず最初にジャパン製薬の

北島ですと挨拶した。薬屋さんですかと聞かれ、そうですと答えた。

 中信大学にも行ってるのと聞かれ、ええと答えると、はるみママが大学の

A教授の奥さんと、お友達なのよと教えてくれた。A教授はテニスやゴルフが

うまく運動神経抜群なのよと話してくれた。その奥さんもテニスの国体選手だった

と教えてくれた。彼女も仲間で一緒に国体に出たと言うのだ。

 でもはるみママは肘を痛めて今は遊びで、たまにやる程度だと言っていた。

 北島が、実は、その科が当社にとって一番のお得意さんなのだとい言うと、

それなら話は早いと驚いていた。

 ただ中信大学病院の先生が来る事は、めったに来ないけどねと笑っていた。

 ゆかりママが何だそれで決まりね、北島さん、はるみママを宜しくね。

 ご贔屓にして、

この店を使って下さいねと笑って言った。はるみママは、ゆかりママに、お客さんを紹介して本当に

ありがとうねと、お礼を言った。はるみママの話では最初ここは競合店も少ないし交通の便が良く

人通りも多いので繁盛するかと思って店を始めたが人の流れが多い割に、お客さんが少なかった様だ。

 駅前の居酒屋、スナックに流れたり仕事の接待関係は会社の事務所の多い一番街の有名な店に集まって、お客さんが少なくて困まり果てていたと言った。

 この状態が、あと半年、一年したら店をたたもうと思っていたそうだ。

 それを聞いていた清水さんが地方の都市って封建的だからね、新しいエリアが、

なかなか繁盛しないんだ。それにしても、はるみママは苦労したんだね。

 清水さんが、ここにも今後、顔出すよと言った。ゆかりママは笑いながら、

あまり浮気しちゃ駄目よと言った。北島が業績を伸ばして、この地に営業所を

設立したいと思っているので宜しくと、はるみママに挨拶した。

 彼女は責任重大ね、できるだけ協力するからねと言ってくれた。

 早速、北島が会社名のボトルと個人名のボトルをキープした。また近いうちに

会社のメンバーと一緒に飲みに来ますと告げて精算して帰った。

 その後テニスを通じて大学の先生と仲良くなり、この店を何回も使う事に

なるのだった。人の出会いって本当に大切なんだなと再確認する北島だった。

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