雪国転勤編1:転勤と印象的な先生達の思い出

北島治が、転勤先の新潟で、仕事面やプライベートで巻き起こす様々な

事件を生々しく、書いていく事にしよう。

 北島は結婚三年目で、二人の娘がいる。将来の幹部候補生として入社四年目に

転勤の声がかかった。赴任先は新潟営業所だった。

 北島にとって生まれて初めての新潟市あった。関東平野、大宮、高崎を抜け、だんだん山深くなり水上を過ぎる頃には山に雪が見えた。

小説雪国で有名な清水トンネルを抜けると、まさに雪国という感じだった。

 田畑も道も全部、雪だらけという印象が、ぴったりだった。

 雪におおわれているのを見ると、軽い、息苦しさを感じた。

 その後は、ずーっと同じ景色が続いた。かなり時間が長く感じられたが突然、

次は新潟駅の案内放送を聞いた。

 北島と奥さん子供達と共に新幹線で新潟駅に降りた時、なんとも言えない

湿っぽさと寒さを感じがした。

 市内中心部をタクシーで移動する事にした。最初に万代橋が見え、

信濃川の大きさに驚かされた。

 続いて、新潟伊勢丹が見えた。万代橋の渡った所にある、

今晩宿泊するホテルオークラ新潟に着いた。

 身重の奥さんの事を考えて、部屋でゆっくりと休んでからホテルの

 レストランへ行った。気品があり清潔そうな所で料理も十分満足できた。

 特に炊きたての、ご飯がうまい。独特な形に切った、しゃけの焼き物も、

すごくおいしかった。

 翌日は、新潟営業所の山田所長と家族全員で面会した。そして借家の場所や

北島の新潟での営業活動の詳細を聞いた。

 山田所長から営業活動は四泊五日、つまり月曜日に出社し金曜日に

帰るという事になるだろうと聞かされた。

 次に北島君の借家は営業所から車で十五分位で交通の便の良い所で広さは

3LDK以上の物件を捜してみるつもりだと山田所長が言ってくれた。

 その後、雑談して失礼した。帰ってから、チェックアウトをしてホテル内の

寿司屋へ昼食を食べにいった。やはり新潟の魚は評判通り旨い。

 その後、新幹線で早めに全員で帰宅し、数日後、再び家族で新潟へ入った。

 その翌日、営業会議で北島が所員に紹介された。北島の担当地区は長岡、十日町

、六日町、津南と新潟県の山間部と決まった。

 会議の翌日、家族と合流して山田所長と借家を見て回った。

良い物件があると不動産屋さんが言うので行くと、そこは営業所から車で

約十五分、海に近い国道沿いの新築二階建て4Kだった。

 家賃は駐車場込みで月6万円と関東では信じられない安さ。

 もちろん奥さんも新築で4Kの広さに十分満足してくれた。

 ただ奥さんは妊娠半年であり来月から出産に備えて実家へ戻る事なった。

 そんな北島が、いろんな事件に巻き込まれるとは、つゆ知らず溌剌と

新潟営業所へ赴任していった。

 次に営業所のメンバーを紹介しておこう。営業所の山田所長は、

ゴルフがめっぽ上手な学術肌の営業マン。

 所長、自ら大学や県内の大型取引先を担当して営業活動に励んでいた。

営業所の女子事務員は新潟出身の高卒二年目と四年目で男子社員の話や

人事異動の話題について昼休みに話していた。営業社員は他に三人。

 それぞれ担当地区ごとに紹介していく。まず上越方面が入社二年目の佐藤君。

 下越・新発田方面が入社五年目の鈴木君。新潟市内と佐渡担当が

入社六年目の山下君。それに北島が長岡、中越など山間部担当。

 新潟営業所は山田所長を含め男性営業社員五人体制となった。

 早速、歓迎会の席で北島は今後の活躍に期待して欲しいと強気の挨拶をした。

 少し酔いが回った山下君先輩が北島君、ここは都会みたいに甘くないぞ、

 冬になれば良くわかるはずと意地悪そうな顔で語った。

 彼は入社当時、出身地の関西の営業所を希望したが願い叶わず新潟へ来た

苦い思い出があったのだ。

 彼自身が冬の日本海の厳しさは誰よりも実感していた。

 例えば冬に佐渡へフェリーで渡り出張した時、日本海が荒れ佐渡で一週間以上、

足止めになったり、また新潟から佐渡へ長期間、渡れない事が数回あった。

 そんな辛い日々を何度も経験していた。都会で評判のエリート営業マンに

ライバル意識をむき出しにするのも無理からぬ事だった。

 女子社員は、そんな北島君に興味津々。一年先輩の鈴木先輩はクールに

北島君、お手並み拝見しましょう。

 ただ、ここはそんなに甘い所じゃないよと不敵な笑みを浮かべていた。

佐藤君は、いつもの低姿勢で先輩宜しくいいろいろ教えて下さいねと、

しおらしく、お辞儀をした。

 二次会は、山田所長の行きつけのスナックあゆみ。

 夜十時を過ぎ人通りも少ない裏通りに新潟には似つかわしくない

派手な店構えで一目でわかる店だった。

 ママの名はかずみ。この界隈では、ちょっと有名なママ。

 あら所長、前に言ってた、できる若手の方って、この方ですか良い男ね、

営業さんは、もてなきゃね。第一次審査合格とはしゃいでいた。

 この夜は、かなり酔いが回って饒舌なママだった。

 ママから歌ってと言われると、すぐ北島はマイクを取り、お得意の

スタンバイミーを歌った。

 山田所長とママは曲に合わせて踊り出していた。

 その有様はママがリードして酔った山田所長が彼女に抱きついて

踊っていると言った方が良いかもしれない。

 曲が終わると今度は、お返しとばかりにママが踊りやすい、

コーヒールンバを歌った。

 北島が座ろうとした時、アシスタント・ママのヒトミが、

さっと北島の手を取って一緒に踊り出した。

 二人のステップの上手さにスナックの店内が、しーんとなった。

 会社の女子は、びっくりした様な目つきで眺めていた。

 そして十二時頃に終了した。 帰り際に北島の手相を見たママが山田所長

に北島には女難の相があるから気をつけた方が良いとそっと、ささやいた。

 当時の日本中はバブル景気のまっ最中。当社も転勤手当が月給の三ヶ月分支給

され引越費用は会社持ちで更に転勤先の家賃補助も平社員でも六万円支給、

北国には地区により十月から三月の半年間、月五~十万円の暖房手当が出た。

 加えて給与と年一回、十二月の通常のボーナス。特に業績が良く会社の

利益目標を超えた年は超過金額を全国の営業所の実績配分し支給するという

特別ボーナスが九月支給されると言う恵まれた環境の時代だった。

 単身赴任にもかかわらず、北島は毎日のりのきいたシャツで颯爽と出張、

営業活動を続けていくのだった。

 新潟赴任の一ヶ月後、毎年四月の中旬に、北島の担当のU病院では

人事異動となる。今年も若手の先生が二人交代になるとの情報だった。

 いつもの様に病院の医局で一0分待つと二人の新任のドクターが同時に

入ってきた。下田先生と山井先生ではないか顔見知りの先生達だった。

 お互いに顔を見合わせた。転勤で、この地域を担当しますと言うと世間って

確かに狭いね、こんな所で会うなんてと下田先生が話してきた。

 もう一人の山井先生が何か問題起こして左遷されたんじゃないのと笑っていた。

 二人とも独身で病院近くのアパートに住んでいた。面白い情報を持ってきてよと

言われたのでかしこまりましたと、おどけて答えた。

 先生方が医局で昼食、休憩後、仕事に戻る所で、また宜しくというと

大丈夫心配するな協力するよと好反応。

 数日後、下田先生が今晩、旨い所で夕食をとりたいなと言ってきた。

 そこで、ここでは珍しいイタリアン・レストランを手配した。

 下田先生が今晩は飲んで楽しみたいから、車は病院の駐車場においてタクシー

で行こうと言ってくれた。

 その後、薬局の春子さんと下田先生が出てきて三人でタクシーに乗り込んだ。

 薬局の春子さんとは、たまに挨拶する程度で顔を知ってる位だった。

 大皿料理と赤、白ワイン、プロシュートとサラダ、ピザを注文した。

 飲みながら話がはずみ下田先生が春子さんに北島君は遊び人の

営業マンだから気をつけろよと言った。

 北島は仕事と遊びは厳格に分けてますからと答えると。

 彼女は強調すればするほど嘘っぽいわねと笑った。

 下田先生は付け加えて北島君は結婚して子供いるんだよと言ったのだった。

 北島は笑いながら、個人情報ですから口外しないで下さいと、にらんだ。

 こんな感じで楽しい時間が過ぎていった。

 三時間後、彼女を送って二次会へと言っても今晩泊まるホテルのスナック。

 再度ビールで乾杯、いろんな話が出て、ところで北島君はパソコン・オタク

だったよなと言われ、そーですがと答えた。

 続けざまに下田先生も最近学会の発表の為にマックを買ったんだと言った。

 今年の秋にも学会発表するんで手伝ってくれと言われた。

 ただ北島は富士通のパソコンだからと言ったが取り合ってくれず頼むよの一言。

 結局マックの勉強する事となった。まずマックの本を買い読んでみるとマックは

富士通やNECの国産パソコンとはCPUも違うしOSも全く違う事が判明。

 とりあえずマック解説本、三冊を読み終えた。

 下田先生がマックは北島の部屋に置いてあるので勝手に使って

良いと言ってくれた。ソフトはパワースエーション、フォトショップも入っている

から解説書も見ながら勉強してくれと頼まれた。

 九月に入り今年の学会資料は九月二十五日迄に提出だと言った。

データを作成を手伝ってもらい助かったよ。

 原稿と読み合わせて完成だと喜んでくれた。

 翌週、訪問してみると日本語の大きさと写真の大きさが上手く合わないだよ、

どうしたらいいかなと困り顔。そこで今日も先生の部屋で修正する事になった。

 日本語フォントを何回も変えて何とか文字揃えができた。

 先生が午後の手術後、部屋へ戻ってきて画面を見ると見栄えもいいし良いじゃん

と言ってくれた。

 フォントが良いからパソコンに入れておきますと北島が先生に伝えた。

 その他に使えそうなフォントも調べておいた。ただ北島が手伝った事は

絶対に病院内で言わないで欲しいと強く言った。

 北島は下田先生のために協力したのであって他の先生には協力する義理は

ないからと伝えた。まーそだよな、わかったわかったと。

 下田先生の実家は東京でも繁盛している開業 医の様でマックとディスプレー、

プリンター、ソフト含め一式で百万円以上のセットを父親が買ってくれたと

言うのだ。この出来事の後、下田先生自身も使い方をマスターして後輩の山井先生

にも使い方を教えていた。

 こういう苦労の甲斐があって、この病院の売り上げは倍増したのは

言うまでもない。ただ、この病院の先生方は東京のKO大と地元の下越大学の

先生の人数が半々で他の先生には知られない様に振る舞っていた。

 さて新潟に赴任して一年目のボーナス80万、臨時ボーナスが六十万円、

外勤手当+出張費で八十万円、給料が三百六十万円、計五百八十万円だった。

 北島は転勤すると仕事は、きつくなったが年収五百八十万円は年の割に

しては多いのかも知れないと思うのだった。


 もう一つの思い出の出来事があったので書く事にする。東京の大学からの

派遣先病院が新潟県内、山間部の中小病院でも数件ある。

 そういう病院に単身で赴任した先生は病院の官舎が完備され地元の方からの

差入れも多く、ほとんどお金がかからない。

 長岡から車で九十分の日本有数の豪雪地帯に、その中山病院はあった。

 そこへ卒後3年目の東京生まれ東京育ちの鮫島先生が赴任してきた。

 口数の少ない気の弱そうな感じのする先生だった。その先生が夜は

さみしいからと麻雀のお相手をしてくれないかと言ってきた。

 先生の官舎は広いから泊まっていけというのだ。

 最初は遠慮していたが麻雀に誘われる日が多くなり泊まる様になった。

 その際、必ず旨い酒の肴を準備して訪問する事にした。

 それが好評だったのか良くお誘いがかかるのだった。

 そして数週間後、鮫島先生に真面目な顔で、ちょっと相談にのってくれないか

と言われ話を聞いた。

その内容は、この町の町長の娘さんと見合いをしないかと直接、

町長に言われたというのだ。むげに断るのも何だから会おうと思うんだけれど、

どうしたら良いかなとの相談だった。

 そこでいくつか質問した。町長の娘さんと会って話した事はあるのと聞くと

挨拶程度であり二人だけで話した事とはないと言う。

 そこで、ちょっと立ち入った事を聞いて言いと問いかけた。

 どうぞと先生が言うので単刀直入に先生ここの病院の看護婦さんで気に入った娘

がいるんですかとたずねた。いない事もないけど、まだ来て間もないし

良くわからないからと言うのだった。

そこが肝心なんですよと伝えた。気に入った看護婦が、いれば仲良くすれば

良いし、そうすれば町長の娘の話も簡単に断れると言った。

 それに町長の娘と結婚すれば将来は政治家をめざす事もできる。

 ここの病院の院長だって夢じゃない。

 先生の考え次第で現段階では、どうにでもできると答えた。僕は政治家には

向いていないし、そんな気もないとの言うのだ。

 それなら話は早い、気に入った看護婦さんをつくればどうですか。

 土日休みにデートして気に入ったら結婚する。

 その後、開業資金を貯めて、この町か大都会で開業したらとアドバイスした。

 先生がそのアイディアの方が良いかもしれないと言い出した。

 わかった、それでいくよと言った。この病院は実は東京の大学では人気がなく、

みんな来たがらないんだと言っていた。

 鮫島先生は都会育ちで、むしろ、ここの自然が好きで気に入ってると言う。

 数年ここで勤務すれば開業資金も十分貯まると話した。

 それでいいんじゃないと北島が言うと、じゃそれで行こうと鮫島先生は言った。

 ただ、この話は、くれぐれも内緒でねと言われた。もちろん他言しない事を

約束した。その数ヶ月後の日曜日、新潟で鮫島先生と仲の良い看護婦さんと

新潟で食事をする事になった。

 挨拶をして席についた。彼女は感じの良い、はきはきした印象の明るそうな

可愛い人。静かめな鮫島先生と、お似合いのカップルに見えた。

 そこで三人で、いろいろ話をした。それによると彼女はスキー、テニスと、

スポーツ万能で特にスキーは県の代表だったとと言うのだ。

 食事会の後も二人は、仲良くやっている様だった。

 その数年後、風の便りで結婚して中山病院の近くで医院を開業したそうだ。

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