営業編1話:優良企業の研修

 実家に帰って大きなボストンバックに着替えを入れて本社へ向かった。

 本社の会議室で人事課の人から研修の時の先生役の人を紹介してくれ採用され

研修に参加する六人が順番に自己紹介をした。

 全員が転職組だったが北島だけが高専卒であり他は、みんな大卒で年齢も近い。

 翌日から移動し三ヶ月の研修開始となる。採用された人は必要書類を

完成させ提出して下さいと言われ、手続きを終えて近くのホテルで

最初の同期会をして盛り上がった。

 翌朝ホテルから研修場まで車で三時間程で着いた。

 田舎の中の大きな一軒家が研修所だ。管理人のおじちゃんと、まかないの

おばちゃん三人が交代で食事をつくってくれ、費用は全て無料であり

何だか信じられない程の好待遇だった。

 更に研修中も給料は毎月、銀行口座に振り込まれる様で、

その給料も以前の会社の五割増しと夢の様だった。

 研修の先生は各営業所の課長以上の人から選ばれている様で

今回は福岡の木下課長が担当者。

 彼はマラソンが得意で熱意、情熱を大事にする熱血先生だった。

 そして彼が毎日の運動を二キロの長距離走と決めた。

翌朝七時起床、会社の社是を全員が大声で読んで、続いて座禅を三十分して

八時から食事、九時から勉強開始、十二~一時が昼食と昼休み。

一~四時まで勉強。四時半から運動の時間。長距離二キロ、

同時スタートの競争をした。

 五~六時までお風呂と自由時間。六時から食事で、

七~九時半まで、また勉強。その後、座禅と今日の反省会で終了。

 十一時には消灯となる。風呂と便所掃除は研修生全員の輪番制だった。

 筆記用具とか備品で必要なものは、まかないのおばちゃんに頼むと

買って来てくれる様になっていた。もちろん研修所では禁酒禁煙。

 毎週テストがあり成績が全員の前で発表される。みんなが苦手だったのは

座禅の時間。三十分というのは初めての人にとっては地獄の苦しみだった。

 最初は十五分して少し休めたが一週間後からは休みはなくなり座禅の終了後は、

足がしびれて十分程、立てなかった。

 そして便所掃除と風呂掃除が不完全だと管理人のおじちゃんに怒られる。

 あまりひどい場合は正座十分が課せられた。

 研修所は逃げられない様に人里離れた山の中腹にあり最寄りの商店街まで

徒歩で一時間位もかかる、海と山に囲まれた場所にあった。

 噂によると、今までの研修で数人の新人が研修所から逃げ出し事があるらしい。

 しかし、いずれも町中にたどり着く前に身柄を確保された様だ。

 逃げた研修生で現在も在籍してる人もいる様だった。

 月に一回程度、部長以上の上司が訪ねてきて途中経過の報告と研修生との

会議をする事になっていた。最初に訪れた上司は人事部長。

 彼は、この研修の意義について、やる気と根性と必要な知識を

徹底的に教え込むのが目的だと力説していた。

 営業は最終的には集中力と根気と根性が重要だと、げきを飛ばしていた。

 一ケ月が過ぎて定期テストが行われた。その結果は惨憺たる成績で、

この3年で最低だった。

 そこで勉強時間を一時間追加するスケジュールに変更となった。

翌日から睡眠時間が一時間減らされたため朝寝坊する者が出てきた。

 研修の先生に、たたき起こされるのは朝弱い二人だった。

 二ケ月目のテストで研修生の加藤君がカンニングしたという疑いをかけられた。

 北島も実際に、その現場を見たので直接、彼にカンニングを辞める様に忠告した。 彼が言うには理系の人は化学的な話も理解できるだろうが

文系の人間には難しいんだと言い始めた。

 それを聞いた文系の玉井君が、そんなの関係ない、

やる気の問題だと一蹴されたのだ。

 彼は孤立して研修についていけず退社していった。

 しかしトラブルを起こしても仲良くなるケースもあった。

 北島は頑固で負けず嫌いの性格で仲間の輪からは外れるケースがあった。

 北野君も変わり者で仲間外れ。北野君は長距離走が得意で毎回一番だった。

 北島は、それが癪の種で一度は負かしてみようと頑張っていた。

 ある日、その北野君が、長距離走でどんどんスピードが落ちてきて

北島が遂に北野君を追い抜いた。

 北島が喜んでると北野君が調子が悪いだけだと言うので負け惜しみを

言うなと口論となった。

 翌日、北野君は風邪をひいて三十八度の熱を出し寝込んでしまった。

 さすがに北島もバツが悪くなり、北野君の枕もとで昨日は、ちょっと

言い過ぎて、ごめんと謝ると、北野君がは気にするなと言ってくれた。

 その後四十度になったら救急車を呼ぼうとなったが一週間程度で回復した。

 翌日から長距離走では北島は毎回二番目で定期テストは中程度だった。

 テストが一番良かったのは玉井君で何といっても記憶力が抜群だった。

 どんなものでも二回見れば、ほとんど全て覚えられるという驚異の記憶力の

持ち主だった。研修中に一回、診療所で検診をうけるのが当社では習わしで、

その際に長距離の強い北野君が腎臓に異常があるという結果が出た。

 もう少し検査値が上がれば腎炎の疑いがあるとの診断。

 そこで翌日から薬を服用する様に医師から指示された。

研修も二ヶ月半を過ぎてきた頃、あまり成績の良くない、山根君が講師の

先生に呼ばれて、このまま成績が悪いと営業活動ができないと講師から

怒られていた。

 いよいよ最終週の試験となり最終回は今迄の全範囲から出題され五十点以下は

再研修となり落第。

 記憶力の良い玉井君は八十三点、北野君は六十三点、北島は六十七点、

木下君は六十八点で何とか合格で研修を終了した。

 問題の山根君は四十二点で不合格となった。

 そして研修の最後の日、総務部長が来られて訓示を述べていた。

 研修を終えても、まだ医学、薬学の勉強は道半ばであり今後、

配属された営業所でも、しっかりと勉強に励むようにとの話だった。

 山根君は、その後、総務部長と三十分以上面接をしていたが意外に

さっぱりとした顔で会社を辞めると言い出した。

 同期の仲間で引き留め様としたが会社に迷惑かけたくないと理由で退社した。

 全員で研修を終えたかったがカンニング事件の加藤くんと合格点に

満たなかった山根君が脱落していった。

 最後は玉井君、北野君、木下君と、北島の四人が営業マン

として配属される事となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る